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シュトルム「広間にて」

シュトルムについては、わたしが愛読している「マルテと彼女の時計」の感想文をnoteに投稿したことがあります。
今回は、岩波文庫「みずうみ」に収められている「広間にて」を取り上げることとしました。
テオドール・シュトルムは、あまり馴染みがない人が多いかもしれませんが、1800年代ドイツの詩人で小説家です。

本書も抒情性に富んだシュトルムらしい作品と思われます。
「マルテと彼女の時計」と同様に20分程度で読める短編小説です。
冒頭に幼児の洗礼のお祝いの情景が語られます。
その名はバルバラと名付けられて、幼児の曾祖母と同じ名です。
この曾祖母の回想の形で、幼児のときにブランコを押してもらった青年、のちの夫との出会いと結婚が語られます。

内容的には、実にシンプルなのですが詩情あふれた作品となっています。
他の人の訳文を読んだことはないので分かりませんが、翻訳者(関泰佑)の技量に負うところも大きいのかもしれません。
読むたびに、しみじみとした感情に浸されます。

本書から次の箇所を引用します。
(岩波文庫、シュトルム「みずうみ他4篇」所収の「広間にて」)
回想の最後の場面になります。

「お爺さんの遺骸が安置されたのも、やはりこの広間だった。その時お前はまだやっと六つで、棺のそばで立って泣いていた。 
~中略~ 
だが、今はみんな死んでいってしまった。━━━そして、今日はわたしはこの広間でわたしの曾孫の洗礼に立ち会い、おまえさんたちは年を取ったこの祖母の名をその児につけた。どうぞ神様が、その児をも同じようにしあわせに、満足に、わたしの寿命まで生きさせてくださいますように!」


「マルテと彼女の時計」と同じように、時間を感じさせます。
この物語には、曾孫、孫、息子、自分、父親が登場しており、親族の時間が流れています。
回想という方法によってですが、なかなか巧みです。
親族が一堂に集まっている広間の情景の現時点から時間がさかのぼります。
この時間の表現に惹きこまれます。

シュトルムの作品について、過去に投稿したnote記事は以下のとおりです。
興味のある方は覗いてみてください。


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