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シュトルム詩集を読む

テオドール・シュトルムは、ドイツの作家です。
この作家の作品「マルテと彼女の時計」は、わたしの愛読する小説の一つです。
この作品に関しては、note記事として以下のとおり投稿しました。
興味のある方は、覗いてみてください。

代表作は「みずうみ」という短編小説で、最近に再読しましたが作品中に詩が掲載されており、この作家の詩に興味を覚えました。
今回求めましたのは、白凰社 発行の「シュトルム詩集」(藤原定訳)です。
詩集のなかから二つの短い詩を選んで、以下のとおり引用します。

みどりの木の葉
もえさかる夏の日の 木の葉一枚
散歩しながら採ってきた。
いつの日か ぼくに話してくれるよう、
道すがら ウグイスが高らかに鳴き
森のみどりが 眼にしみたことを。

1850年の作品ということで、33歳くらいでしょうか。

重病のとき
   1886-87年
さあ 君も眼をふさぎ
まぼろしも心ももう やすませなさい!
ともしびが ひとつひとつ消えてゆくがー
ここにはむかし劇場があったのだ。

死の1、2年前の作品で、70歳くらいでしょうか。
シェイクスピアの世界劇場の思想を連想してしまいます。

シュトルムの詩には、恋愛か自然にまつわる題材が多いようです。

訳者も代表作の詩のひとつ「町」の解説で、
「詩人の異常なまでの郷土愛が問題となるが、その郷土愛がもっとも端的にうたわれた作品」
と評しています。
郷土は、ドイツの北辺の地でデンマークに近い港町フームズというところです。
その詩の冒頭で
「灰いろの海岸 灰いろの海
 そのそばにある町なのだ」
と表現しながらも、そこに惹きつけられている心情を謳っています。

わたし自身は戦後の焼け跡が残る町で育ち、今はその町は都会に変貌しています。
シュトルムの心に灯る海辺の町への郷愁は、わたし自身の消えた町への郷愁と同調するものです。

故郷を想う気持ちは自然が実在するかどうかではなく、その人の心に宿るものなのだということをシュトルムの詩を読みながら深く実感しました。

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