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とんでもないものに出会ってしまった……白井智之『お前の彼女は二階で茹で死に』

ミステリとホラーを中心に小説を読んでいるけれど、今年ドストライクな作者に出会ってしまったので、noteはじめました。

最初に言っておくとこの作品をランダムに選んだ100人に読ませたら、70人は顔をしかめて不快になり、27人はなんだこれはと怒りだし、残りの3人くらいがトリックとロジックの鮮やかさに魅せられる。そんな超ニッチ小説です。

本格ミステリ大好き+平山夢明作品大好きな人は、超大好きになる可能性ある。俺がそう。

本格×エログロバイオレンス×多重解決×特殊設定×連作短編ミステリー

高級住宅地ミズミズ台で発生した乳児殺害事件。
被害者の赤ん坊は自宅の巨大水槽内で
全身を肉食性のミズミミズに食い荒らされていた。
真相を追う警察は、身体がミミズそっくりになる
遺伝子疾患を持つ青年・ノエルにたどりつく。
この男がかつて起こした連続婦女暴行事件を手がかりに、
突き止められた驚くべき「犯人」とは……!?

①特殊設定

作中の舞台は日本だけれど「ミミズ人間」という存在がいる世界。ミミズ人間は通称ミミズと呼ばれていて、ミミズの家系で生まれる。肌は赤紫色で、歳を取ると横縞ができる。手からは粘液が染み出し、壁などを自由に登ることができる。その見た目からいじめの対象になったり、ミミズの家との結婚に抵抗を示す人が多かったり、施設の出入り禁止など周囲からは当然のように差別を受けている。肌の色をなんとかしようと、ミミズ用の整形手術があったりする。

他にも身体から特殊な油が染み出してくる「アブラ人間」、数ヶ月に一回全身の皮膚が剥がれいわゆる脱皮する皮膚病を持つ「トカゲ人間」なんかも出てくる。これらの特殊な設定がうまくミステリとして組み込まれている。

特殊設定ミステリというと、ある1日が9回ループしてしまう特殊体質を持った少年が探偵となる西澤保彦『七回死んだ男』や、魔術が存在する世界で謎を解く米澤穂信『折れた竜骨』あたりが代表格になるのかな。

②エログロバイオレンス

まあ作中で出てくる人間がほんとひどいのなんの。あらすじでは警察としか書かれていないけれど、ノエルの事件を追う人物として、ヒコボシという刑事視点で事件は描かれる。この刑事がいわゆる探偵ポジションになって事件が描写されるけれど、この刑事が推理するわけではない。推理するのはこの刑事が自宅に監禁している天才少女のマホマホ。ヒコボシは妹の復讐っていう目的を持っていて、そのために必要だからとマホマホを無理やり攫ってきて自宅に監禁しているわけです。逃げられないようにマホマホの骨を折ったりもしてますし、推理を頼むときにぶん殴ったりします。

刑事だけじゃなく世界全体が狂気の世界になっちゃってます。刑務所がパンクしちゃうので民間に任せてるけど、そこもパンクしそうなのでわざと不衛生にして受刑者を死なせるとか。ミミズ人間やトカゲ人間を見せ物にするサーカスがあったりとか。被害者の家族が「犯人は低学歴のチンピラか、イカくさいオタクだろ。とっとと隣町のドンキで聴き込みしてこいよ」と言うところはちょっと笑ってしまった。

他の作品で例えるなら、おそらく平山夢明作品の雰囲気とすごく空気が似ていると思う。

③本格

そんな無茶苦茶な世界でありながらも、本作が異色なのはロジックを積み上げた本格作品であること。

本格探偵小説(ほんかくたんていしょうせつ)とは、推理小説のジャンルの一つ。推理小説のうち、謎解き、トリック、頭脳派名探偵の活躍などを主眼とするものである。https://ja.wikipedia.org/wiki/本格派推理小説

この作品も事件の描写を読者が拾い集めて、謎を解けるようになっている。この本格要素がとにかく凄い。エログロ残酷描写でうまいこと鍵となる要素を潜ませている。

④多重推理

多重推理とは、1つの事件から複数の推理を行うタイプの作品。最初に行ったとされるアントニー・バークリー『毒入りチョコレート事件』を皮切りに、最近どんどん多重推理を使う作品が増えていって、クイズ番組としてミステリが出題され解答者が答える深水黎一郎『ミステリー・アリーナ』や、4人の視点から1つの事件に対して全く異なる結論が導かれる貫井徳郎『プリズム』など。

本作の多重推理とエログロバイオレンスは密接に関係していて、推理の枝分かれになる部分はある人物のある行動で分岐されます。これを使うかー! と驚いた。

⑤連作短編

連作短編とは、短編をまとめて一冊の本にした短編集とは異なり、それぞれの短編同士のつながりがあるタイプの短編作品のこと。

本作は4つの短編と結末の5つの章で構成されている。それぞれの事件は独立しているが、ストーリーは密接にリンクしている。そのリンクの仕方がとても凝っていて、最後にはそういうことか〜! と驚くこと間違いなし。俺は驚いた。

白井智之に魅せられてしまった

ここまで熱心に書いてきたけれど、ものの見事にハマってしまったわけですよ。はじめての白井作品どれにしようかなと悩んでこれにしました。俺、小説はその作者のデビュー作から刊行順に読むことが多いけれど、やっぱり刺激的な作品はそこまで待てない! ので良さそうなものを選びました。本作か、『少女を殺す100の方法』か、『名探偵のはらわた』か、デビュー作『人間の顔は食べづらい』で超悩みました。

普段は単行本と古本屋でしか買わないけれど、会社の昼休みにこの作者の存在を知ってから早く読みたい欲が全然抑えられずに定時終わりダッシュで本屋に向かって上で悩んだ作品全部買いました。そこまで魅了されてしまった。

本作を読んだ感想は、「俺の想定した面白さを余裕で超えてきやがった……」です。この記事が書きたくてnoteはじめました。読書メーターの255文字では書ききれねえ! ってなったからです。こんなに作者に夢中になったのは最近だと、中山七里、井上真偽、澤村伊智、早坂吝あたり(結構いるな……)。

今後も多分ずっと追っていくことになると思う。ニッチな作品が多いけれどとても刺さったので、白井智之先生を超超超々応援したい。

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