アックス第146号
私も好きな漫画家の夜野ムクロジさんの作品が、このアックス146号で発表される
第24回アックスマンガ新人賞
で、林静一個人賞を受賞しました。おめでとうございます!!
評価としては可能性とか、磨けば光るものを色々と挙げて貰っている感じで、喜ぶばかりじゃなく、これを足掛かりにさらにステップアップするのを期待されているような感じでした。
面白い。でも、ぶっ壊して欲しいね。
というのは確かにそうで、今回の応募作「一点先の停車駅」は、ムクロジさんのHPで見れる漫画の中では相当マトモで整っている作品だと思います。くらげさんがころんだ、経動線ラウンド、赤い飛行機雲、とか、もっとぶっ飛んでてどっか心の大事なところが壊れてる人の描いたものがあるから……もし今号のアックスで物足りないと思った方は、ムクロジさんのHP(首吊番外地)とか電脳マヴォさんで他の作品も当たってみるといいと思います。
そんなHPやTwitterの画像投稿で見ていた作品が、紙に印刷されて漫画雑誌の一部として目の前にあるのはとても嬉しかったし、応援してて幸せを感じるのはこういう時だなと思います。「一点先の停車駅」は何度かムクロジさんご自身の手でリメイクされていて、今回のバージョンが最新版ということになる。
全体的に見やすく、整った絵とストーリー。それでも十分に不思議で、真夜中から夜明けに向かって世界がゆっくり目覚める前の、無意識の暗闇で蠢く女の子ふたりが浮き上がるように描かれていて、とても素敵な作品だと思っています。
ただ初期のバージョンはもっと結構えぐい事をさらっとやってたり、とんでもない妄想が屋形船に乗って突っ走ったりするので……こっちを投稿しても受賞はしなかったかも知れないしわからないけど、ムクロジさんのポテンシャルはもっと高く大きく業が深いというのを私はよく知っているつもりなので……もっとお望み通りぶっ壊して、言われたアドバイスも2割か3割ぐらいは北向いたことやってやったっていいし、もっと多くの人の目に留まるといいなと思っています。
今号から定期購読を申し込んだので家に帰ってくるとアックスが届いていた。
ドブリンさんの「さっちゃんとふくちゃんの5円玉」
豊かじゃないけど暖かい暮らしを描く短編で、消しゴムやお絵描きの紙にすら事欠き、駄菓子屋ではけんもほろろに追い払われ、だけども優しいおばあちゃんに悲しい思いをさせたくない……遠回りして帰っているのか、あの夕間暮れの街が悲しく切ない。
小さい子供ながらに一丁前以上の気持ちの動きを見せるさっちゃんと、ふくちゃんの正体。
そういえば能動的に何かしているのも、表紙の写真も、5円玉を持っているのも、おばあちゃんと話しているのも、紙に書いたウサギを消して直そうとするのも、全部さっちゃんだけだった。
あのぐらいの年頃ってアタマん中に友達いるんだよな。私にも居た。
何時の間にか居なくなってしまったけど、一人で学校行かずにウロウロしてるときとか、家でボンヤリ天井だけ見てるときとか、よく話ししたっけな。
それを思い出して、またボンヤリ天井を見た。
佐藤義昭さんの「春の宵」
介護とか老いとか、目の逸らせないことをこれ見よがしに書かれても鼻白むけど、これは最後とてもいい終わり方をした。真面目で、ちょっと神経質にも見えるけど、根がいい人だからこういう終わり方が出来る人生だったんだな。
そう言うキャラクターを、あの短い中でスッキリと描かれていてとても心地よいお話でした。
清水沙さんの「かいらいでぃおっと」
混沌の炎みたいな筆致と内容で、荒れまくってるけど内側はじっとりしてて、すえた匂いがずっとしている。そんなお話。もうどうしようもない、吹き溜まりの底のどですかでん。
そこで暮らす無垢な兄妹、ノラばあの正体、この街の病理。
土砂降りの雨の見開きが迫力あって、とてもいい場面でした。
ツージーQさんの「ぶどう園物語第8話」
昭和の田舎の温泉宿。子供の頃、祖父母に連れてってもらった旅行先に、時々こんな旅館や温泉ホテルが残ってた。大広間で晩御飯食べるのが大嫌いだった祖母のために、お部屋で食べれるときは高いコースでも何でも祖父が取ってくれていた。でも、それが無いと、ああいう専属のバンドや歌手の歌うステージを見ながら、固形燃料であっためた小さい鍋や、子供にはよくわからないピンクと緑のすり身団子みたいのを食べることになった。
そのバンド側のお話も佳境で、最後に一曲だけ、ずっと世話してくれた女の子に歌ってもらうための御膳立て。その結末がまた可笑しくて、そんなもんだよな、と。
リハ中の効果音のオノマトペが、確かにドラムってそんな風に聞こえたなあ、とか、自分もバンドやってた時のことが懐かしくなる音色でした。東京に帰って、また次の日常が始まる。
杉作J太郎さんの「ふんどしのはらわた」
人によって態度を変える陰湿な、ポッと出の新人には殺されたくない!
差し迫る老いや、旅だって行く周囲の人々を眺めながら閉じこもり、自分の体と心を見つめる文章。杉作J太郎さんって、そんな気にする人だったんだな。もっとこう、良くも悪くもいい加減な人かと思っていたら、真逆だった。臆病で、不安症で、だけどそれも通り越しつつあり、「もういいや」と思い始めている。
病院の待合室の灰色のコンクリートを見つめながら聞いてる話みたいだった。
終活とかなんとかいうけど、一体どうすればいいものやら。
杉作さんの私が知らなかった意外な一面が知れて良かった。
巻末の書籍紹介コーナーに、世良田波波さんの「もぐら屋のおエドちゃん」や、名古屋のナンデモ博士、岩田宇伯(いわたたかのり)さんの最新刊「中国テレビ番組ガイド」も紹介されています。
中国テレビ番組ガイドは、どうしてもお気に入りの本屋さん、名古屋・栄のビブリオマニアさんで買いたくて先日お邪魔して購入いたしました。また改めてご紹介します。
今月も面白かった……濃いけど全部ベクトルの違うゲンナリがボンヤリが詰まってて、その中にドブリンさんみたいな世の中の片隅で暮らす明るい人の話があったり、若草ヒヨスさんの「めだかのこ」みたいな不思議なお話もあったり。
このごった煮の感じが豊かで、何か大きなものに沿った作品や作風、タイトルばかりが伸びてゆくのにケツの座りの悪さをずっと感じている自分にはすごく有難い時間と場所でした。
ドブリンさんもツージーQさんも面白いし好きな漫画だけど、私が定期購読を申し込んだのはヒヨスちゃん。あなたの作品だよ。買うのも待つのも辞めないから、また描いてくれよな。
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