鈴木大介著『脳が壊れた』読了

 読んでいて、著者の鈴木さんに会ってみたいな、よければ奥さんにも会ってみたい、講演会とかないのかなと検索してしまうくらい、気持ちのいい本だった。

 父が昨年末に脳梗塞を発症し、麻痺や高次脳機能障害のためリハビリ闘病・入院中であり、私自身が患者家族として興味深く、まさに一気読みというくらいページをめくる手が止まらない、寝不足になりそうな本だった。

 鈴木さんは41歳で脳梗塞を発症し、手指の麻痺、構音障害、感情失禁、高次脳機能障害や半側空間無視があるそうだ。患者本人としてそれらの症状がどのようなものなのか、それらの症状に対するリハビリの様子、発症後の生活習慣の改善等について記されている。
 帯には「深刻なのに笑える、感涙必至の闘病ドキュメント 養老孟司さん、感嘆!」との文言が。まさに、「深刻なのに笑える」のだ。

 この本は、鈴木さんの人間力から生み出されたものと思った。

 また、一応のところ元気な私にも生活習慣を見直す上で、大いに示唆に富む本であった。フリーランスとして働く著者はとても仕事熱心で、「人の三倍働いて人の倍稼ぐ」というコンセプトを課していたそうだ。
そのほか、『「吝嗇」=ケチは、仕事で結果を出せずに食うに事欠いていた二十代前半の激貧トラウマをこじらせた形だが、妥協下手やマイルール狂にも通じる』と自己分析されている。
 家ではエアコンや洗濯乾燥機機能を拒否していたとのことだったが、脳梗塞発症を機に、自身を振り返ったとのことで、お掃除ロボットを購入するくだりがある。

 俺、自動お掃除機買っちゃっていいんだ。機械に掃除なんか任せていいんだ。しかも一番評価が高い最新機種。購入ボタン、即押ししちゃった。かつての僕ならまたぐことも絶対許されざる一線を、こんなにも踏み越えてしまった!
 大げさではない。このAmazonのルンバ購入ボタンは、僕にとっては劇的なパラダイムシフトだった。

p 180

これらの部分は私のことじゃないかって思うほどだ。
 「自分が凡人だと思うなら人の三倍努力しろ、それで人並みだ」と自分はなんども自分に言い聞かせ、いわばマイルールを自分に課す人生を送ってきたと思う。お金がなくて、電気代節約のためにエアコンをつけずに過ごしたり(心の声:窓を開ければいいんだよ!)、私の家には未だ乾燥機はない。手間はかかるが、外に干せば0円なのに(心の声:なんで乾燥機がいるんだ)、とこっそり思っている。ルンバなんて買おうと思ったことがない。

 そんな私とそっくりな(と勝手に親近感を持たせていただいている)鈴木さんが、これらのアイテムを購入するというパラダイムシフトを経験されたとのこと。よっぽどの状況だと考えてしまう。

 本の中で、41歳で脳梗塞になったのは〜が原因じゃないかと自責を込めた思いを吐露されているが、その気持ちも痛いほどわかる。うまくいかなかった時、何が悪かったんだろうか、どうするべきだったのかとずっと考え込んで、自分を責める性格である、私は。

 そういう辛い気持ちなのに、面白おかしく読者に「笑い」を提供してくださる懐の深さ。本当に尊敬に値する人である。

 自分にとって不快なことを他人から言われても、笑いで相手にお返しできるような人間力を私は身につけたいと思う。

 あしたもがんばろう。


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