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【サブスク(SaaS)事業のCEO~CxO向け】短期成果と中長期の成長を実現する実践ガイド
*この物語はすべてフィクションであり、登場人物は架空の存在です。
【プロローグ】「教育系サブスクを運営する企業の苦難」
「近年はサブスクこそが安定的な収益モデルであり、教育分野でこれを展開すればユーザーに寄り添い続け、人生に良い影響を与えることができる」
――そんな期待から、オンライン学習サービス「EduFocus」をローンチしたのは数ヶ月前。CEOの早坂は、企業研修や学生向けの学習コンテンツを定額で提供し、月々の継続課金を見込むというビジネスモデルに大きな可能性を感じていました。
しかし、実際には以下のような問題が同時に噴出します。
• 広告費を投じてもユーザーが思うように定着しない
• 同じカテゴリーの学習プラットフォームが乱立し、価格競争が激化
• 社内では、マーケティング部門と開発部門の意見が真っ向から対立
「こんなに早く頭打ちになるとは思わなかった……」
早坂は静かに頭を抱える。
そこで、学生時代からの友人であり、サブスク分野に特化したコンサルティング会社に勤める友人の江崎へ助言を求めることにしたのです。
この一歩が、EduFocusにとっての転機になりました。
混迷する事業
「広告を出せば会員は増える」はずだった。
早坂は穏やかな性格で、周囲からは「支援型(サーバント型)リーダーシップ」を評価される人物です。しかし、ここ数ヶ月は異様な焦燥感を漂わせています。
• ローンチ直後に大規模な広告を実施。1万人の無料トライアル会員を獲得
• しかし、3ヶ月経っても有料プランへの転換率が伸び悩み、広告費の回収ができていない
• 「動画が多すぎて何を見れば良いか分からない」と言うレビューが多数
悩みが募る早坂に対し、江崎は静かに言いました。
「短期で追う指標と、中長期で磨く強みを一旦切り離さない?今は、チームが何を追いかければ良いかが見えなくなっていると思う。
教育系のサブスクは市場規模は大きいけど競合が多く、初回の利用で離脱されやすい傾向にあるんだよね」
収束しない社内ミーティング
早坂は早速、社内のボードメンバーを集めて意見を聞きました。
マーケティング担当(滝川)
• 「無料トライアルを拡充すべきです。大々的な広告キャンペーンでとにかく会員数を増やし、その後に有料プランへ誘導しましょう」
プロダクト担当(安藤)
• 「トップページから看板コンテンツを学習するまでの体験を変えない限り、ユーザーが見たいコースにたどり着けません。無料トライアルばかり広げてもユーザーが混乱するだけです」
開発担当(中谷)
• 「動画の配信スピードやクイズ機能など、まだ安定していない部分が多い。とくに大量アクセス時のサーバー負荷対策が不十分ですし、機能追加より先に、使われていない機能を削除しましょう」
コンテンツ担当(橘)
• 「学習コンテンツの品質の基準や方針を早く固めたいです。安易に数を増やして“学習効果のない動画ばかり”と思われたら、ユーザーはもう二度と来てくれないですよ」
それぞれ、もっともな意見を主張しているものの、議論は一向に収束しません。
そこで早坂は江崎に再び意見を求め、「すぐに結果が出ること」を意識するよう強く助言を受けました。
感動を届けるまでの時間
江崎は「このサービスの“初回の感動体験”って何なんでしょうか?」と質問します。
実際、ユーザーアンケートを取ってみると
• 登録時に学習の目的やレベルを聞かれるが、質問が多すぎて途中でやめた
• 最初に動画数が多く表示され、逆に何から始めればいいのか分からない
• 何個か動画を見てみたが、他のサービスとの違いがわからなかった
特に教育系のサブスクでは、“成果”や“進捗”を実感できないうちに離脱されがち。そこで、江崎は次のポイントを提案しました。
①オンボーディングを短縮
• 名前とメールアドレスくらいで登録が完了し、興味分野を軽く選べば即時に動画やクイズを体験できるようにする
②最初の“成果実感”を演出
• 例えば5分の入門コースを受講すると「あなたの理解度は80%です」と表示し、次のおすすめステップを自動提案
③ABテストによる最適化
• 常に2パターンのUIを試し、離脱率が少ないほうを採用
「初回登録のハードルが高いと、サービスの魅力が伝わる前にユーザーがいなくなってしまうんです。教育分野だと最初の5分が重要だと言われていますね」と江崎が言う。
成長に直結するKPI、F2転換
さらに、2回目利用(F2)の重要性が説かれました。
F2転換
初回購入(F1)をしてくれたお客様が2回目の購入(F2)へ進むよう促す取り組み。*Frequency(購入回数)のF。
教育系サブスクでは、初回受講だけで離脱するユーザーが非常に多い現実があります。一方、2回以上利用すると学習習慣が生まれ、有料継続率が上がる期待ができます。
「F2転換(2回目購入)」は、売上に対して非常に重要なインパクトを持つと考えられます。2回目の購入は、単なる一回の購入ではなく、顧客との長期的な関係構築の始まりであり、安定した売上と収益性の向上に貢献します。企業は、顧客の維持・再獲得戦略を強化し、2回目の購入を促進することで、より大きな売上インパクトを実現できるでしょう。
https://www.academia.edu/25667810?bulkDownload=true
「短期の最優先KPIとして、F2転換数(率)を追うことを提案します。
初回利用→2回目利用さえクリアすれば、その後の継続率が大きく変わります。
さらに、教育系のユーザーは“学習のリズム”ができると解約しにくい傾向があり、LTV(顧客生涯価値)の向上に繋がりそうです」と江崎は説得力あるデータを示しました。
ただ「F2転換」という指標そのものを目的化するのではなく、このサービスでの学習がどれだけ有益で、次のステップに進みたいと思える「ユーザー体験」が鍵になります。
• 短いクイズやプチテストを入れて、小さな成功体験を積ませる
• 学習履歴の可視化(ゲーミフィケーション要素)で「あと1ステップ進めば、次のバッジがもらえる」など、モチベーションを高める
• 最初にプロフィールを細かく聞きすぎない代わりに、2回目利用のタイミングで学習目的をもう一度ヒアリングし、適切なコースを推薦
「F2転換を上げるには、単なるUI操作の改善に加え、“学ぶ楽しさ”を最初の2回でどう味わってもらうかが核心です。ここを短期的な目標として議論するのはどうでしょうか?」
江崎からこの一言は、早坂の腹落ち感を高めました。
部門責任者の意見がまとまらない
会議で起きた対立
早坂がF2転換を最優先指標と決めたあとも、具体的な施策段階で社内の見解がバラつきました。
• マーケ担当(滝川):「まずは無料ユーザーを10万人に増やす計画が急務です。大々的なSNSキャンペーンを打ちたい」
• プロダクト担当(安藤):「トップページのナビゲーションを大幅に見直したい。受講者のレベルを自動判定しておすすめコースを出す仕組みを優先すべき」
• 開発担当(中谷):「配信サーバーの負荷テストが不十分。トラフィックが急増するとクイズ機能に遅延が発生しそうだ。インフラ面を強化しないと危うい」
• コンテンツ担当(橘):「現場の講師陣が“もっと授業を体系化してほしい”と言っている。焦ってキャンペーンを打ってもコース品質が伴わないと逆効果ですよ」
それぞれの主張が食い違い、一向に優先順位が定まりません。見るに見かねた早坂は江崎に相談し、運営体制を見直すことにしました。
“Magic Moment”の仮説を立てる
そこで江崎は、チームのMTGで質問を投げかけます。
「ユーザーどの瞬間に、どんな体験があると、ユーザーはこのサービスが必要と感じるのでしょうか?いわゆるMagic Moment と呼ばれるものです。」
他のメンバーは、ハッとしたような様子で考え始めました。
ユーザーフィードバックや定性調査
• 江崎はまず、登録初期の離脱ユーザーを中心にインタビューやアンケートを提案。
• 「最初の登録で何が辛かったか」「初回利用でどう感じたか」を10名以上にヒアリングし、「期待ほどの感動が得られず、そのまま離れてしまった」という意見が最も多いと判明。
定量データとの突合
• さらに、サイト内のクリックログや離脱率をプロダクト担当や開発担当と連携しながら分析。
• 初回利用から5分以内に離脱したユーザーが圧倒的多数を占め、2回目以降まで使い込む人はごくわずかという事実が浮き彫りに。
• この時点で「早い段階で“何か良い”と感じてもらえない限り、実質的に離脱してしまう」という仮説が強まった。
他サービス(成功事例)の考察
• 江崎は、これまで関わったサブスク事業の事例や、海外のサブスク関連レポートを参照して“初回の感動体験(Magic Moment)”という概念を再確認。
• 特にユーザーの満足度が高いサービスは「数分以内の“あ、これ使えるかも”という瞬間」を演出していると分かった。
• たとえば、ある語学学習アプリでは「簡単なテストを数問クリアしただけで“自分は成長しているかも”と思わせる」仕掛けを入れ、結果として2回目以降の継続率が大幅に向上したという。
EduFocus(弊社)への転用
• これらの知見を、「EduFocus」に当てはめ、初回登録~第1回目の動画視聴でインパクトを与えられていないことが最大の問題と結論づけた。
• 特に「コース数が多い」「登録時の質問が多すぎる」などが“ユーザーが面倒に感じる要因”になっており、本来味わってほしい学びの楽しさまでたどり着けないまま離脱していた。
「他の成功事例でも、Magic Momentを具体的にデザインしているところは、2回目利用以降が高い水準で推移しています。“登録~初回利用”のハードルを下げるだけでなく、“最初の数分で期待以上の価値を体感させる”が肝になってきそうです」
クロスファンクショナルチームの導入
「部署ごとに施策を提案しても、全体の設計図が見えないと意見はまとまりません。それぞれに大切な意見を持っていながら、誰も全体像をまとめられない状態ですね。
“CFT(クロスファンクショナルチーム)”を編成してみてはどうでしょう?」
江崎が提案したのは、以下のような体制でした。
• 基礎情報の整理:市場のメガトレンド、自社の強み、競合サービスの訴求ポイントなどを整理
• 責任者のみで構成:マーケ、プロダクト、開発、コンテンツ、のメンバーを1つのチームに
• 定例化:F2転換を中心に、短期施策と中長期のビジョンを交互に議論する
• ファシリテーターの設置:話が平行線にならないよう、中立的に議論を整理し合意を作る
これにより「CEOが毎回すべて調整や確認」をせずとも、チーム内の意思決定のスピードが上がります。
早坂は少し戸惑いながらも、この提案を受け入れました。
ビジョンを固める――SlackとNetflixに学ぶ
解約率が下がり始めたが、方向性に迷う早坂
CFTを導入した結果、F2転換改善などの小さな施策が次々に動き出し、短期的な成果は徐々に見えてきました。しかしCEOの早坂には別の不安がありました。
早坂(CEO)
「学習プラットフォームなんて世の中にたくさんある。今は勢いでユーザーが増えているけれど、どこかで伸びが止まってしまわないか……?」
彼は常に深く考えるタイプで、目先の成功に流されることを怖れていました。そこで江崎は2つの事例を提示します。
Slack――“仕事の新しいやり方”を創出した問い
Slackは、もともとゲーム開発チームが内部向けに作ったチャットツールが原点です。しかし、創業者たちは「メール文化をもっと効率的・楽しく変えられないか」という問いを突き詰め、単なるチャットアプリではなく「仕事が集まる場所」をコンセプトにしました。
• 各種アプリやBotとの連携により、開発チーム・カスタマーサポートなど、業務のやり取りをメールではなくSlack内で一元管理
• 軽快なUIとコミュニケーション設計で、従来の“硬い”企業文化を柔軟に変えるきっかけを提供
結果、多くの企業が「Slackを使うことでチームが協力しやすくなる」ことに気づき、導入が急拡大。メッセージ送受信機能だけなら競合も簡単に作れますが、「仕事の在り方そのものを再設計する」というビジョンは真似しにくく、長期的な差別化に成功しました。
Netflix――DVDレンタルの枠に留まらない大胆なシフト
Netflixは当初、DVDの宅配レンタルサービスでしたが、「人々が映像を観る目的は何か? 好きな作品をいつでも自由に楽しむには?」という問いを突き詰めた結果、早くからストリーミング配信に力を注ぎました。
• オリジナルコンテンツを制作し、利用者を飽きさせない
• レコメンドアルゴリズムで個々人の好みに合わせて作品を提示
• グローバル配信を視野に入れ、DVDレンタル事業が主流の時代でも先んじて投資
「DVDレンタル会社」から「エンターテインメントの未来を切り拓くプラットフォーム」へと変貌を遂げたわけです。もしNetflixがDVD配送だけに固執していたら、現代の姿はなかったでしょう。
早坂が得た示唆:我々は何を目指すのか?
早坂はSlackとNetflixの例を聞いて、「EduFocus(我々の会社)は何者なのか?」という視点が欠けていたことを悟ります。
• 自社は「オンライン教材を売る」だけの会社になるのか?
• それとも「学習者のスキルアップを最短距離で支援し、人生を豊かにするプラットフォーム」を目指すのか?
SlackやNetflixがそうであったように、「CEOが企業のあり方を問う時間を増やす」ことで、数年後の事業拡張やブランド価値が大きく変わるだろう、と彼は実感し始めました。
サービスに生まれた“一貫性”
チーム内の施策再検討
CFTでは引き続きF2転換を最優先に据え、「ユーザー体験ありきで考える」方針を固めました。具体的には以下の合意がなされます。
①マーケ担当(滝川)
• 広告で「最短5分で得られる学習成果」を明確に打ち出す。いきなり多機能を訴求せず、“すぐに結果が見える”を促すコピーに切り替え
②プロダクト担当(安藤)
• トップページで「初心者向け」「ジェネラリスト向け」と「専門職向け」の3コースを大きく表示。最初に目標や分野を選びすぎないようUIを整理
③開発担当(中谷)
• クイズ結果を即座に反映し、2回目以降の講座レコメンドを動的に行う機能を優先度高で開発
④ コンテンツ担当(橘)
• 各コースに“プチ成功体験”を入れるための教材構成を再編。最初の5~10分で「なるほど!」と思ってもらえるトリガーを仕込む
これらの施策が回り始めると、ユーザーからは「最初はサクッと習得感があって、もう少し試してみようと思える」とのポジティブな声が増えていきました。
また、ユーザーの行動データを施策の前後で分析して見ると、以下の傾向があることに気がつきました。
• 以前は登録直後に1回だけ動画を見て離脱するユーザーが多かった→ 2回以上利用する人が増え、結果的に有料プラン移行率も上昇
メンバーは手応えを得て、さらにUIやコンテンツ品質を細かくブラッシュアップする動きが活発化します。
「短期指標が明確に上がると、組織全体が前向きになり、新しい取り組みが初めやすくなる」と早坂は改めて実感したのです。
“データ”を共通言語に
――「同じものを見ること」が円滑なコミュニケーションのはじまり
"You are what you eat(ヒトは食べものによって作られる)"という言葉があるように、ビジネスの現場では"毎日見るもの"に大きな影響を受けます。
全員がリアルタイムに同じ数字を見られる仕組みを作ることで、部署間のコミュニケーションを円滑にし、優先度を決める際の議論のブレをなくすのが狙いです。
• F2転換率や初回登録完了率、2回目以降の継続率などの主要KPIを常時可視化
• A/Bテスト結果や完了した講座数なども自動更新され、CFTメンバーやCEOがいつでも確認できる
CFTが動き始め、F2転換を軸に小さな施策を回し出したEduFocus。短期的には解約率が下がり、初期体験の評判も上向きでした。一方、メンバーからは実務上の課題が上がってきます。
• マーケ担当(滝川):「広告流入は増やしたいけれど、今どの施策が最もF2転換に寄与しているか正確に把握できていません…」
• プロダクト担当(安藤):「トップページの改修による効果を、定量的に示したいのですが、前後比較が手作業だと時間がかかります」
• 開発担当(中谷):「各機能の利用ログを見たいが、コンテンツ担当の指標とは違う形式で集計されていて、すぐには共有できない」
• コンテンツ担当(橘):「“この講座を視聴した人は、2回以上継続する”というデータを示したいのに、エクセルの集計に手間取っています…」
それを見かねた江崎は、チームへ提案します。
ダッシュボードの導入で意思決定を加速
「全員が同じ数字をリアルタイムで見られる仕組みをつくりましょう。サブスク特化の分析ツールやBIツールを導入し、ダッシュボードを作るのがセオリーです。
①主要KPIのリアリタイム確認
• F2転換率、初回登録完了率、途中離脱率、動画完了率などをグラフ化。時間軸や施策単位で切り替え可能。
②ABテスト結果の自動反映
• 例:トップページを2パターン並行運用しているなら、各パターンのF2転換が一目で比較できる。
③各担当が見る指標を統合
• マーケは流入や広告ROI、コンテンツ担当は講座完了率、開発はサーバー負荷――とそれぞれ別の指標を追っていても、「最終的にはF2転換や有料移行率への影響」という共通ゴールで一元化できる。
こうして導入されたダッシュボードは、週次のCFT会議の“共通言語”となりました。数字を巡って議論が白熱する一方、最終的に「どの施策がF2転換に貢献しているか」をエビデンスとして示せるため、意思決定のスピードが飛躍的に高まったのです。
サービスに反映された理念
当初は幅広い学習層を狙っていた
ローンチ時のEduFocusは「オンライン学習の総合プラットフォーム」を掲げ、学生・主婦・社会人・シニアなど多様な層を対象にしたサービス展開を試みていました。
CEOの早坂は、「教育は人生を大きく変えうる普遍的な力であり、誰にでも門戸を開きたい」と考えていたからです。
• コース設計: 初心者向けから高度な資格講座まで幅広く用意
• 広告戦略: 「どの年代でも、どの立場でも学べる」を強調し、とにかく裾野を広げる方針
ところが、実際にユーザーが増えるにつれ、
①利用者の学習行動がセグメントごとに大きく異なる
②何を優先して改善すべきか運営側も見定められず、機能やコンテンツが分散してしまう
といった問題が浮上し、「幅広く何でもやる」戦略が限界に達しつつありました。
早坂が抱いていた理念――原体験と“教育の力”
実は、早坂が「教育を通じて人を救いたい」と強く思うようになったのには、学生時代のボランティア経験が大きく影響していました。
• 高校生時代: 地元の学習塾で、経済的事情から塾に通えない中学生を無償で指導する活動に参加。
• その時、「正しい教え方や少しの補助があるだけで、成績も自信も著しく向上する」光景を目の当たりにし、教育の持つポジティブな破壊力を痛感する。
• 大学時代: 海外研修で途上国の教育支援プロジェクトを見学。インフラが整っていない環境でも、ICTを活用した学習モデルが子どもたちの学力を劇的に上げる事例を目撃。
• 「自分が手を貸すことで、どれほど多くの人の可能性を拡張できるか」を強く感じる
こうした原体験から、早坂は「教育は人生を変える力を持つ」という信念を持ち、“できるだけ多様なユーザーをカバーしたい”と考えていました。
ところが、経営実態を見たときに、「全方位対応では、どのユーザーにも十分な価値を提供できない」というジレンマに直面し、葛藤を深めていったのです。
データから浮かび上がる“忙しいビジネスパーソン”の可能性
悩む早坂を後押ししたのは、CFT(クロスファンクショナルチーム)の存在でした。具体的には以下のデータが浮上し、「ビジネスパーソン特化は合理的」と判断するきっかけとなります。
①短時間学習ニーズ
• 社会人の多くが「1回10分程度の学習しか確保できないが、その範囲で成果を感じたい」と回答
②継続利用の高さ
• ビジネス目的のユーザーは、実務に活かせればそのまま長期継続しやすい。学生や趣味層とは比べ物にならない有料プラン移行率を示すケースが多い
③法人契約・研修需要
• BtoCだけでなく、企業研修として一括導入する可能性が大いにあり、契約規模が拡大する見込み
このようなデータをCFT定例で議論した結果、「まずビジネス層を深く掘り下げ、成功パターンを確立するのが優先」との合意が得られました。
原体験と現在の戦略――“教育での誰かの人生を変える”ために
先述のとおり、早坂は「教育であらゆる人を救いたい」という原体験からの強い思いを抱えていました。当初、その気持ちが「全てのユーザーに貢献する」方針に繋がっていましたが、下記のように整理することで納得感を得られたと言います。
①まずはビジネスパーソンを成功事例に
• 学習成果が出やすい層に集中し、“短時間で成果を実感できる”仕組みを磨く
• 経営を安定させ、ノウハウを蓄積したうえで将来的に他のセグメント(学生やシニアなど)へ応用する
②原体験の理念は失っていない
• 誰もが学べる世界を作りたい気持ちは変わらないが、スタート地点として「忙しいビジネスパーソン」にフォーカスする
③「成功セグメントでしっかりと成果を出す→拡大していく」というロードマップをCEO自ら示すことで、組織の納得を得る
こうしてEduFocusは、「短時間で明日の仕事に役立つ学習を提供する」というコンセプトを策定。これが「自分たちは何者か」を明確にし、ブランドイメージやUI設計、コンテンツ開発が一本化されていったのです。
研ぎ澄まされていく"顧客体験"
ターゲットの方針が定まると、チームは施策を以下のように再整理しました。
① UI/UX:
• 各講座を5~10分区切りにまとめ、忙しい人がスキマ時間で学べる形へ再編集
• 有料プランでさらに高密度な実務応用コースを提供
② コンテンツ:
• プレゼン、会議運営、報連相、マネジメントなど、実務ですぐ活かせる分野を拡充
• 様々な業界や職種に合わせたケーススタディを準備
③ マーケ施策:
• 法人研修用プランを打ち出し、人事・研修担当向けのセミナーやビジネス系SNS広告を強化
• 個人ユーザー向けにも「2回の受講で業務効率化を体感しよう」というキャッチコピーで短期成果をアピール
結果、F2転換や継続率がさらに上昇し、EduFocusの評判が「ビジネスパーソン向け学習サブスク」として定着。ローンチ当初の迷走が嘘のように収益が安定化しつつあります。
こうした施策を打つことで、「自分は忙しくても、このプログラムなら少しずつ確実に成果を出せる」というユーザー体験を強化。
結果的にF2転換や有料移行率がさらに向上し、EduFocusのブランドが「ビジネススキル特化のサブスク」として認知され始めたのです。
まとめ
ここまでEduFocusの事例を軸に、短期(F2転換・初期体験)と中長期(ブランド設計・ターゲットセグメントの定義)を両立する道筋を示しました。
短期
• 初回ハードルを下げ、“Magic Moment”を演出
• 2回目利用(F2転換)をセンターピンとし、体験価値を高める施策をABテストで回す
• ダッシュボード導入で社内の指標やA/Bテスト結果を一元管理し、CFTが迅速な意思決定
中長期
• “私たちは何者で、ユーザーに何をもたらすのか?”という問いを定め、SlackやNetflixのようにサービスの存在意義を再定義
• 「忙しいビジネスパーソン」を狙うなら、そのセグメントで最も求められる価値や利用環境を徹底リサーチし、プロダクトや顧客体験を最適化
こうした短期~長期の両面アプローチによって、EduFocusは「とにかく無料ユーザーを増やす」から「狙ったセグメントに効果的な学習体験を提供する」ことへ方針を定め、成果がついてきました。
そして、“企業の理念”――「人々の学習をどうアップデートできるか?」を言葉にすることで、数年先まで見据えた事業展開も具体化しているのです。
NetflixやSlackがそうであったように、“ユーザーに向き合い、”存在意義”を掘り下げる企業は機能や価格を超えた差別化に成功し、長くユーザーを惹きつけています。EduFocusの物語が、その一端を示していると言えるでしょう。
【エピローグ】
「こんなに早く頭打ちになるとは思わなかった……」――かつてそう嘆いていた早坂が、今では安堵の表情を見せ始めている。
先日、久々に時間を見つけてカフェに集まった早坂と江崎。
「やっと腰を据えて、ビジョンや企業文化を発信できるようになったよ。」早坂がそう漏らすと、江崎は微笑む。
「何より良かったのは、君自身が“自分の限界に挑戦”することを決めたことだと思う。 それがチームの士気を上げたんじゃないかな」
実際、CFTの存在が大きい。
滝川(マーケ)がキャンペーンを打つときは、安藤(プロダクト)が“ユーザーが迷わずコースを見つけられるUI”を提案し、中谷(開発)が裏側の負荷試験を同時に走らせる。橘(コンテンツ)は「短期的に成果を実感できる教材構成」と「中長期的に深められるプログラム」の両面を整理し、次々と新コースをリリースしていく。
このようにサービスの体験が連動するようになり、早坂も「強引に意思決定を通す必要がなくなった」と感じるようになった。
「教育分野でサブスクを展開すれば長くユーザーと良好な関係を築ける」と思い描いた初期の期待が、ようやく具体的な成果として形になりつつあるのだ。
この先も市場や競合環境は変化を続けるだろう。
だが、江崎との定期的な対話と社内の頼れるチームが、EduFocusに柔軟な発想と持続的な学びをもたらしている。
これは終わりではなく、“教育の新たな地平を探る冒険”の始まりにすぎないのかもしれない。
あとがき
CFTによる短期施策の成果が現れ始め、Magic Momentを意識した初回体験がユーザーに好評を得て、実際のF2転換率や有料移行率が着実に上昇したEduFocus。
一方で、CEOの早坂が「自分たちは何者か?」と問い続けたことで、「忙しいビジネスパーソンに特化した学習サブスク」という方向性が明確になり、チームはより一貫したサービスづくりに集中できるようになりました。
またエドテックだけではなく、サブスクリプションビジネスの世界には複数のプレイヤーがひしめいています。
一方、短期的な指標(F2転換・初回の満足感)を徹底して磨き込みつつ、中長期視点で“自分たちは何を提供し、誰を幸せにするのか”を深く考える企業は、そう多くありません。
EduFocusが苦難を乗り越えたその道のりは、サブスクを扱う多くの企業に示唆を与えるはずです。
当noteが、ユーザーや社会にとって良いサービスづくりに本書が役立てば、とても嬉しいです。
*この物語はすべてフィクションであり、登場人物は架空の存在です。