ロジカルな“知財人”と“広義のデザイン”が出会った時、一体何が起こったか?
【知的財産教育協会 × DXDキャンプ 連携セミナー】
知財人材へのデザインの学びのススメ
~知財功労賞受賞企業の知財責任者が考えるデザイン思考~レポート
はじめに
〜広義のデザインは、意外にロジカル?〜
特許権や意匠権など企業の知的財産を操る、まさに“理論で勝負”の専門家と、“感性“というイマイチ捉えどころのない(デザイン好きの皆さんごめんなさい!)印象がちらつく「デザイン思考」。
ちょっと聞くと、水と油?のような、相入れない関係に思われるかもしれません。
しかし、です!「知財部門の人と(「デザイン思考」を含む広義の)デザインの考え方は、意外に相性がいいということを発見しました」。そう語ってくれたのは、今回のイベントのゲストスピーカーである石井さんです。
石井さんは知財の専門家として、「DXDキャンプ」に3ヶ月間参加。そこでデザイン思考を含む「広義のデザイン」を、さまざまな分野の専門家とともに(デザイナーはもちろん、エンジニアに建築家、コンサルタント、新規事業や企画に携わる方、お医者さんも!)体系的に学びました。
「DXDキャンプに参加したことで、これまで正直、考え方という面では自分たちからは一番遠い存在だと思っていた“デザイナー”と呼ばれる方たちと一緒に課題を考えたり、議論したりしていくなかで、彼らの思考プロセスが、とてもロジカルであるということにまず驚きました。「人」を中心としたその思考プロセスは知財部門ともマッチする感覚を持ち、これからの知財戦略、知財部門の改革に活かせると感じました」と石井さん。
実際、デザイン思考やコミュニティデザイン、顧客体験価値創造といった考え方を、“知財”流に応用した結果、徐々に成果も表れてきているとのこと。
これまで知財部門のなかでだけでは解決できなかった問題にも、新たな視点で取り組めているといいます。
デザイン思考、デザイン経営、広義のデザイン……。デザインという言葉に注目が集まる一方で、自分の仕事には関係ない、自分にはあわない、と思っている方にこそ、ぜひお届けしたい内容です!
知財人材へのデザインの学びのススメ
会社全体のイノベーション創出に、
知財部門としてもっと貢献したい
株式会社ニデック(医療機器メーカー)の知財部門に所属してきた石井さん。「これからはもっと知財部門として、会社全体のイノベーション創出に積極的に関与していきたい」と考え、知財部門から中長期テーマを設定し、アイデアを創出していくという活動を始めました。
目の前にあるニーズではなく、5年後10年後という将来を想定した発明テーマの探索・試行錯誤を続け、確かにいくつかのアイデアは生まれてきたのですが、一方で、アイデアだけで活用されずに終了してしまう出願が増加してしまうという課題が生まれたといいます。
アイデアがアイデアで終わってしまう、
という新たな課題
そんな時、事業部門が「(ユーザーの)潜在的なニーズを発掘するための方法を検討しているらしい」という話を聞きつけます。「これはもしや知財部門でもヒントになるのでは」と飛び込んでみた結果、出会ったのが「デザイン思考」だったそう。
実際に知財部門のテーマ発掘活動にこの「デザイン思考」のエッセンスを取り入れていったところ、実際の製品に応用されるようなアイデアも生まれはじめます。
そこで、デザイン思考だけでなく、もう少し広い「広義のデザイン」を体系的に学べば、いまの知財活動にさらに新しい気づきが得られるのではないかーーこれが「DXDキャンプ」に参加した動機でした。
知財×デザイン の化学反応①
インサイト把握結果を発明発掘テーマに応用
「デザイン」とは何か、という問いの答えはいろいろあるものの、石井さんが「デザイン」を取り入れることで得たことの一つは、「人を中心に考える」ということでした。
石井さんは、課題を抱えていた「中長期の発明テーマ」発掘の過程に「人のインサイトを捉える」というステップを加えます。直接のユーザー観察は難しかったものの、動画活用や営業担当への取材などを繰り返し、顧客やユーザーの「インサイト」を把握。こうして発掘したテーマ設定の結果、次期開発製品の重要特許となるようなアイデアも実際に生まれてきました。
目の前の技術の延長ではなく、「人」のなかに新たなテーマを見つける。知財部門ならではの「インサイト」活用の実現です。
知財×デザイン の化学反応②
経営層や事業部門とのコミュニケーションを変えた
石井さんが所属する株式会社ニデックでは、過去に米国特許訴訟などを経験したことから知財への意識・関心が全社的に高く、2017年という早い段階から「IPランドスケープ※」への取り組みを開始。石井さんも立ち上げメンバーとして、経営層や担当事業部門への提案をはじめました。しかし、ここでも課題にぶつかります。
※IPランドスケープ
知財情報解析を活用して知財経営に資する戦略提言を図る活動。
「IPLによる情報提供を知財側から行なっても、なかなかフィードバックがもらえない、あるいは実際の事業戦略に活用してもらえない。それはなぜなのか?」
現在、多くの会社の知財部門で取り組まれているIPLですが「同じような課題を抱える知財担当者は多いはず」と石井さん。
ここでも広義のデザインが活かされます。「デザイン思考」でいう「生活者の視点で、生活者になりきって洞察する」ということを、提案時の反応や会話の断片などから、IPLの提案相手である経営層や部門長に対して実施したのです。
そうした提案相手の「インサイト把握」を通じて見えてきたのは、「知財としてよかれと思った提案が、必ずしも提案相手が求めているもの、提案相手が課題だと思っているものではない」ということでした。分析結果の緻密度よりも、対象者である経営層や事業部門の課題に応えられるストーリーの作成が有効であるということ。そして、なによりも相手が価値を感じる情報を提供することにより、共感を得ることができ、次のステップに進むために必要なメンバーとのコミュニケーション(DXDキャンプでいうコミュニティデザイン)も生まれたといいます。
IPLレポートへの「インサイト把握」の手法は、さらにIPLでの分析対象、つまり同業他社事例の分析などにも活用するように。分析対象の“企業の視点、立場になりきって”分析を行うことで、IPLレポートそのものを進化させることにもつながりました。
石井さんたちは、IPLレポートのフォーマットも「レポートを読む人視点」で再構成(中身は企業秘密!)。依頼が殺到する状況になったということです。
知財が自らの“枠”を超えて、
イノベーション創出に貢献していくために
イベント内ではこの他にも、知財部門のさまざまな業務に「デザイン」プロセスを応用された事例をご紹介いただきました。「これから知財部門が、これまでのいわゆる“知財業務の枠”を超えて活動領域を広げていくためには、他部門との連携といった場面もどんどん増えてくるはず。多くの人をまきこんでの活動や、複雑な課題が絡むような場面を乗り越えていくためにも、広義のデザインというものを知っておくことは、有効だと思います」。
知財の可能性を広げるための「デザイン」ーー石井さんの学びと実践が、証明してくれました。
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