2023年8月19日 「映画&映画」
今日も映画ですよ。
まずはヨーロッパ企画の映画第1弾『ドロステのはてで僕ら』。今公開中の『リバー、流れないでよ』の予習のため。
ちょっと面白すぎる。脚本の上田誠、『サマータイムマシン・ブルース』といい本作といい、タイムマシンやタイムテレビを使ったストーリーの名手と言える。これを書いてて頭がパンクしないことに驚く。
しかも本作は70分のワンカット長回し風。多分ほんとうにワンカットというわけではないと思うが、それにしても2台のテレビ画面の一方では2分前の世界を映し他方で2分後の世界を映し、カメラの視点は2つのテレビ画面を行き来するのでその時スクリーンに映っている方のテレビ画面が映す時制がころころスイッチするし、さらに途中からそれを向かい合わせにして4分後、6分後も映るようになるなど、訳がわからなくならないのがすごい(ここまでの文章、自分でも訳がわからなくなって何度も書き直しました)。ところどころの笑いもちょうどよく、観客はみんなけらけら笑っていた。
息もつかせぬ、とはいえ緩めの雰囲気のタイムテレビ映画。
そして『658km、陽子の旅』。予想以上に良かった。
家から出ずにチャットのカスタマーサポートをしている陽子(演・菊地凛子)の家に従兄弟(演・竹原ピストル)が現れ、父が死んだと知らされる。従兄弟家族の車で地元青森に向かうも、サービスエリアで一人でいるうちに従兄弟の息子が怪我をして置いて行かれてしまう。陽子はやむなくヒッチハイクをすることになる。
最初、陽子が家から出ない仕事をしていることはわかるけれど他人と喋っているシーンは出てこない。トイレットペーパーをティッシュ代わりに使っていたり、寝転がって開いたパソコンを横向きに立てて動画を見たりするシーンがあり、この辺は生活者のリアリティという感じ。特にこの動画(映画?ドラマ?)を見るシーンではけらけら笑ってもいるので、観客はてっきり陽子は普通の人だと思い込む。
しかし従兄弟が来て以降、陽子は他人とほとんど喋らない。質問にもほとんど答えず、答えなければいけないものには掠れ声で短く答える。おどおどした表情や挙動不審な動き。どうやらコミュニケーションに困難を抱えているらしいと気づく。
従兄弟の車に乗っているとき、隣に座るオダギリジョー演じる父に気づく。彼はおそらく陽子の意識の中の表現である。父は喋らない。陽子は、(これもおそらく意識の中での会話で実際に発話しているわけではないのだろうが)父には問題なく話しかける。「何死んじゃってんのよ」とか「だいたい酷いよね、父親のくせに子供に『うるさい』とかさ」とか、思い出話をする。
新作映画なのでこれ以降の粗筋は最小限にとどめておきたいのだが、この映画は「不意に発生したどきどきヒッチハイクでトラブルに巻き込まれつついろんな優しい人に助けられました!」みたいな映画ではないことだけ、言っておく。まあそんなことは予告どころかフライヤーでわかることだが。
途中、かなりつらい展開はあるものの、そして陽子の喋らなさ(喋れなさ)に観客たる我々が勝手に気まずくなったりするものの、陽子は父の死を受け入れる。うーん。上手いこと書けないね。上手いこと良さを書けない映画なんです。あとちょっと終盤の陽子のセリフは誤解を招きそうな部分もある。でも良い。
それにしても、菊地凛子の演技は素晴らしい。あの動き方、所在なさげな足の動き、目線の動き、発声。新鮮に驚いてしまう。