2023年6月1日
タイトルの日付を打ち込んで気づいたけれど、今日は「今日から6月」ってことに気づかずに過ごしてたな。
今日は、大学の講義で映画を観た。なんでも、教員は映画好きだそうで、去年は『カッコーの巣の上で』を観たそうだ。「今年は何にしようかな」と言っていた。
今年は、岡本喜八監督の『日本のいちばん長い日』(1967年版)だった。ちょっとびっくりした。幅広いな〜と思った。
めちゃくちゃ面白かった。会議の時間がやたら多い。それがなぜか面白い。場面がころころ変わる。それがなぜかかっこいい。政治家や官僚や軍人や侍従のやりとりが、なぜか心地よい。インターネットを見ると、庵野秀明監督『シン・ゴジラ』は本作に影響を受けているとかいないとか。『シン・ゴジラ』はまだちゃんと観ていないけれど、雰囲気的にはさもありなん、という感じ。
基本的に、状況を時系列に沿ってドキュメンタリー的に追っていく、という感じなのだが、二つだけ、ちょっと奇妙なカットがあった。それは、横浜警備隊の少年の尻ポケットに岩波文庫版の倉田百三『出家とその弟子』が入っている、というカット。もう一つが、横浜警備隊が首相私邸を襲撃するシーンで同じ文庫本が地面に落ちているカット。おそらく、この本の内容を踏まえて、彼らの行動のメタファーになっているのだろう……と思いつつ、ものぐさな私は別にそれについてはノーチェック。
玉音放送を阻止しようとする陸軍の青年将校・畑中少佐役の黒沢年雄の演技がすごかった。ものすごく熱くなっていて、国粋主義的なロマンに浮かされた人なのだけれど、セリフだけを見ると彼らを美化しているような感じも受ける。でも、黒沢年雄の演技は、完全に「狂」。明らかに異常な精神状態で、先の大戦における軍部の暴走が象徴されているようだった。黒沢年雄は、この危うい同居を絶妙なバランスで達成している。今はオウミ住宅のCMで土木作業員姿のおじさん(社長?)と変なダンスをしているけれど。
あと、鈴木貫太郎首相役の笠智衆。昔の俳優をそんなに知らない私でも知っている。彼のとぼけたような演技が、また良い。普段はとぼけた口調で頼りない感じだが、いざというときは同じ口調なのに有無を言わさないオーラを醸し出す。15日朝のシーンでは、命を狙われた直後なのに飄々としてなんでもないふうに内閣総辞職を伝えて、「これからは若い人たちの時代だ」と言う。いや、素晴らしいよ、ほんとに。一回ちゃんと小津安二郎の映画も観たい。
あとはやっぱり世界の三船敏郎。陸軍大臣阿南惟幾の役。本作の主人公と言っていい。服装が他の軍人と同じでも、身のこなしでそれとわかる。あと、やたら長い切腹のシーン。さすがって感じ。
それと、ちょっとしか映らないけれど、陸軍に尋問される、背が高くて一際上品な物腰の侍従は児玉清だったのね。どうりであの気品。
物語自体を見れば、陸軍将校たちのあまりに狂ったあの言動、ところどころ明らかに矛盾している(自分たちは大元帥・天皇の命令に背いているくせに、近衛師団の師団長を殺して偽の命令を出し、それに従わない人に「命令に従うのが軍人だろう」などとほざいている)。これが、彼らの論理なのだろう。そうやって起き、そうやって進行したのが先の大戦なのだろう。というか、大日本帝国自体がそうやって成り立ってきた部分があるのだろう。