四月、春。
たしかに、春だった。
それは出会いのようであり、別れのようであり、ずっと続いているようでもあった。うっすらと肌の透けた黄色のカーディガンは菜の花のように咲いて、やわらかな春風に撫でられた。
朝の白んだ光があたたかかった。河原を歩けば、遠くからあまいにおいがして、こころごとじんわり溶けてしまうのだった。きらきらひかる水面にカモの親子が浮いているのを、ふたりでながめていた。
春はうれしい季節だろうか。
春はさみしい季節だろうか。
春はなにを教えてくれるだろうか。
春は、春は、
桜の花びらが雨だったらいいと思った。
おちておちて、水たまりに集まっていた。
両手でつかまえようとするのにいたずらに逃げてしまうから、片思いのようで切なかった。
のら猫にそっと近づいた。
ちゃいろのきみはちょっとあとずさりしてから、首を傾げてよってきた。
揃えた両手は綿毛のように、ひだまりにそっと寝転んだ。
高架下のことは秘密にしておこう。
目を細めても、透明な青はずっと眩しく、
重なる電線はゆらゆらと揺れて、愉快に踊っているみたいだった。
カレンダーに油性ペンで、大きくかきたい予定が沢山あればいい。消しゴムなんかで、消せないほうがいい。会いたいひとの名前をかけばいいし、食べたいものをかけばいい。特別な日を、真っ赤なハートで囲ってしまってもいい。春は特別だ、ずっとずっと。
あっという間に過ぎさっていく、厚い雲は白から灰になっていく。しばらく雨がつづくらしい、また来年、春。
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