褒める?叱る? フィードバックで行動を変える
「褒めて伸ばすって言うけど、褒めるだけでは育たないのでは?」
そのあたりどうなんでしょう?
と聞いてくださることがよくあります。
褒めればいいの?
叱らないとダメなところ直らないんじゃない?
また、褒めた方がいいと思っていても、
「褒める」ということが具体的にどうすればいいかわからない方もいらっしゃることでしょう。
そこで今回の記事では、心理学における応用行動分析の考え方から、褒める?叱る?に対して1つのアドバイスをお届けします。
応用行動分析とは
応用行動分析とは、アメリカの心理学者バラス・スキナーが創始した「行動分析学」の一領域です。
行動分析を行うことで、問題行動に関してどうすれば行動を増やしたり、減らしたりできるのか、適切な対応方法を導き出しだそうとする考え方です。
「きっかけ→行動→みかえり」フレームワークで行動を分析する
応用行動分析で用いられる「ABC分析」では、①きっかけ、②行動、③みかえりの3つの要素で構成されています。このフレームワークは「心理的安全性のつくりかた」(石井良介著)で紹介されている言葉遣いで紹介しております。
A(きっかけ):〇〇の時に (行動が起こる直前の環境)
B(行動) :△△をすると (きっかけの後に起こした自分の行動)
C(みかえり):□□の結果になった(行動の直後に起きた環境の変化)
例えば、会社でのトラブル対応についてABC分析をしてみましょう。
A(きっかけ):仕事でトラブルが起こった時に
B(行動) :率先して対応すると
C(みかえり):顧客に感謝された
この場合、「率先して対応する」という行動の結果として「顧客に感謝される」という嬉しいみかえりが得られました。
このフレームワークを使い、なぜ行動が起こるのかを理解することで、行動の機能を明確にし、適切な行動形成を促すことができます。
行動を増やすフィードバック
「みかえり」が良いものであった時、直前の行動は強化(行動が増える)されます。
先ほどの例でいえば、「顧客に感謝された」という良いみかえりが、直前の行動「率先して対応する」を強化します。
すると、次にトラブルが起こったときも「率先して対応する」という行動が増えることになります。
これが行動を増やすフィードバックです。
行動を減らすフィードバック
逆に「みかえり」が悪いものであった時、直前の行動は弱化(行動が減る)されます。
例えば同じような状況の例を見てみましょう。
A(きっかけ):仕事でトラブルが起こった時に
B(行動) :トラブルを放置すると
C(みかえり):上司に怒鳴られた
「上司に怒鳴られた」という悪いみかえりが、直前の行動「トラブルを放置する」を弱化します。
すると、次にトラブルが行ったときに「トラブルを放置する」という行動が減る傾向にあります。
これが行動を減らすフィードバックです。
ただし、悪いみかえりによる行動を減らそうとすることは、効果が疑わしいことがわかってきています。
理由① 一時的なものになりがち
しばらく時間が経ったり、悪いみかえりがなかったり(上司が近くにいないなど)すると、問題行動は減りません。
理由② 人間関係に悪影響を与えるリスクがある。
先の例では、不快感を感じ、上司に不信感を抱いたり、攻撃的になったりするかもしれません。
理由③ 徐々に慣れてしまう
怒鳴られることに慣れてしまうと、次にはもっと強く、その次にはもっともっと強く怒鳴らなければいけなくなります。
つまり、悪いみかえりで行動を減らそうとするよりも、良いみかえりで行動を増やすことが大切だということです。
これが、「叱る」(行動を減らすフィードバック)よりも「褒める」(行動を増やすフィードバック)の方が人材育成の観点から有用となる理由です。
「良いみかえり」を活用したフィードバックを目指そう
良いみかえりを増やし、悪いみかえりを減らす
望ましい行動に対しては、良いみかえりを増やし、望ましい行動を強化しましょう。対して、望ましい行動を阻害するような悪いみかえりは減らすことを考える必要があります。
また、実際に活用していく際には、何が「良いみかえり」になるかは常に検討する必要があります。自分にとっては良いみかえりでも、相手にとっては違うかもしれません。実際に望ましい行動が増えたかどうかを観察しましょう。ちゃんと「良いみかえり」の機能を果たしているでしょうか?ほかに効果的な「良いみかえり」はあるでしょうか?
行動を減らしたい時は、良いみかえりを減らす
そして、問題行動を減らしたい時には、悪いみかえりを与えるのではなく、「何がその問題行動のみかえりになっているのか」を観察し、そのみかえりを減らしていくことも必要です。
その問題行動によって得られる、その人にとっての良いみかえり」を探しましょう。問題行動による良いみかえりが得られなくなると、その行動は弱化(行動が減る)ことにつながります。
まずは、ついついやってしまう自分の直したい言動、について分析してみるのはいかがでしょうか?
フィードバックのポイント
最後に、行動変容のための、より効果的なフィードバックのためのポイントもご紹介します。
①タイミング(個別面談、予告)
フィードバックを行う時には、適切なタイミングとプライベートな環境を確保しましょう。人前でのフィードバックは相手の恥ずかしさや防衛心が高まってしまう危険性があります。個別の面談やプライベートな場の落ち着いた環境でフィードバックを行いましょう。
②フィードバックの目的・ねらいを伝える
フィードバックのはじめには、その目的と期待される影響について説明することが重要です。相手がフィードバックの意図や効果を理解してもらうことで、フィードバックの効果は高まります。フィードバックの背後にあるプロセスや組織の目標との関連性を明確に説明しましょう。
③具体性を上げる
フィードバックの内容は、具体的に行うことが重要です。あいまいな表現や一般的な内容では、受け取った側も何を褒められているのか、何を指摘されているのかや、どうすればいいのかを明確に把握することが難しくなります。良い点も改善してもらいたい点も、具体的な行動や出来事・成果物に基づいた例を交えてフィードバックを伝えましょう。お互いの認識の共有度も上がり、フィードバックの効果が高まります。
④客観的事実と主観的意見をわける
更には、客観的事実と主観的意見はわけて伝えましょう。客観的事実は、フィードバックを行う側と受け取る側が、行動や状況・出来事の認識を合わせるために伝えます。主観的意見は、その客観的事実に基づいて、「こうした方が良い」「ここはよくできていると思う」などの意見を伝えましょう。
客観的事実と主観的意見をしっかりわけて伝えると、行う側の意図が伝わりやすく、納得感も得られやすくなります。
いかがでしたでしょうか?
「叱るのではなく褒めた方が良い」ということにも、心理学的な背景がありました。
実際の現実場面でも、「何がみかえりになっているのか」「何をみかえりにすれば行動が増えるのか」を観察してみてください。
この記事を読んだ方が、効果的なフィードバックを行えることを祈っております。
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