2拠点生活のススメ|第346回|天才による凡人ための短歌教室
俳句の世界は良く分からないけど、短歌は昔から好きだ。
現代語で書かれたものも多いし、季語といったハードルも無いせいか、言葉が素直に胸の中へと突き刺さってくる気がする。たかだか14文字増えただけで、なぜにそうまで心を掻きむしられるのだろうと、ずっと不思議だった。
そんな想いを満たしてくれる本に偶然出会った。
作者の木下さんは、自分で詠んだ歌は、その意図も工夫もすべて自分で分かってやっているので、自分の歌で、自分の胸をうちを撃ち抜くことができないのだと言う。僕が披露できるのは手品であり、魔法ではない・・・ということらしい。
「僕にとって最高の一首を作るのは、僕では無い。この本を開いたあなただ。僕には消すことができない鳩を、どうか本当に消して欲しい。」
本の冒頭に書かれたこの言葉に心躍らされた。
私自身、短歌は好きでよく目を通すけど、短歌を作ったことなど実際には一度も無いし、作れるとも思えない。それでも、木下さんの言葉に触れているうちに、どういうわけか、私も魔法をかけてみたいと思った。
しかし次のページで、「残念ながら短歌をつくることで幸福になることは無い。手遅れかもしれないが、引き返すならいまだ。ここには出会いはあっても別れはなく、入り口はあっても出口はない」と書かれてあった。
けれど、その言葉を見てさらなる興味を持った。それまでに人を惹きつけるものになり得るということなのだと・・・。
その先は、タイトルそのままに実践的な短歌の作り方が綴られている。「作歌を日課に」「歌人を名乗れ」「書を捨てず、街へ出よう」「テレビを見ろ、新聞を読め」などなど。「天才よ出でよ、オレを驚かせてくれ」という熱い思いを感じる内容だ。
書くことは思い出すこと。
頭の中の倉庫から取り出した風景を、実際に見た風景に近づけるために言葉で再構築する。そのとき詩は生まれる。欠けた何かを補うための言葉。不鮮明な何かにピントを合わせ鮮明にするための言葉。
それこそ詩だ。
こんなに詩を分かりやすく語った言葉があっただろうか・・・。すっかりその気になっている自分がいる。
自分でもどうしたんだろうかと思うけど、きょうから歌人を名乗ることにします(笑)。名乗ったからには恥を忍んで一首、ここにその足跡を残しておこう。
足早に流れる雲のその向こう動かぬ月に憧れるだけ (イボンヌ・初短歌)