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健康問題を「心」のせいにしたくない

長年にわたり、機能的な健康問題や慢性症状の因果関係を掘り下げ、臨床研究を行っていると、「心と身体の関係性による要因」は、根本治療や本質的治療、統合的治療を目指す治療者にとって避けられない課題となります。しかし、「身体の問題」と「心の問題」を分ける西洋医学の機械論的な思想は根強く存在しているため、心と身体の関係性、心身相関に関する研究や臨床は大きな挑戦です。

一般的に、自律神経系の症状に対しては「心」が関係しているというある程度の認識がありますが、運動器系や筋骨格系、その他の症状に対しては、心の信号が関与しているという認識が浸透していない傾向があります。多くの人々や医療従事者は、健康問題に対して心の信号が影響を及ぼしていることを避けたり、心が症状の原因であることを「恥ずかしいこと」と捉える偏見を持っています。

PCRTの臨床現場では、ある患者さんの症状に対してPCRT治療者がアプローチしている過程で、無意識の心の信号が影響を及ぼしていることが客観的な検査で判明したとしても、すぐに無意識の心の誤作動信号や誤作動記憶の調整に進めない場合があります。それは、患者さんの中には、症状の原因を「心のせいにしたくない」という傾向が見られるケースがあるからです。

患者さんによっては、初診時から心と身体はつながっており、心理面やメンタル面を含めた統合的な改善を望んでいる方もおり、その場合はPCRTの施術が問題なくスムーズに進み、治療効果も引き出しやすくなります。しかし、「心のせいにしたくない」あるいは無意識の心の影響が心身相関的に多くの健康問題に関与していることを理解しがたい方には、段階的に説明し、治療体験を通じて「心と身体の関係性」による健康問題を体感してもらいながら、心身相関の理解を深める必要があります。

このように健康問題を「心のせいにしたくない」という課題は、PCRTを一般に広める上で大きな障壁となっています。これはPCRTの長年の課題であり、心と身体の関係性が健康問題に大きな影響を及ぼしていることが当たり前となるような社会的土壌を作るために試行錯誤が続いています。

健康問題を「心」のせいにしたくない一般的な理由

偏見: 心の問題や心身相関的な健康問題に対する社会的な偏見は依然として根強く存在しています。精神的な問題があると認識されることを、弱さや欠陥と見なされることを恐れる人が多いため、心の問題を認めたくないという気持ちが生じることがあります。

自己責任の回避: 心のせいにすることは、自分自身の責任であると感じることがあるため、無意識にこれを避けることがあります。身体的な原因に頼ることで、問題を外部の要因に帰することができ、自己責任を軽減しようとする心理が働くことがあります。

目に見えないものに対する不安: 身体的な問題は診断や治療が比較的明確であるのに対し、心の問題は目に見えないため、扱いにくく、不確実性が高いと感じられます。このため、心の問題を避け、身体的な原因に頼る傾向が強くなることがあります。

文化的要因: 多くの文化では、身体的な健康に比べて精神的な健康が軽視されることが多く、そのため、心の問題を重要視しない、あるいは心のせいにしない傾向が生まれます。これらの理由から、症状や病気の原因を心のせいにすることに対する抵抗が生まれると考えられます。ちなみに、日本人は欧米諸国の人々と比べて、心の内をオープンにすることに慣れていない傾向があります。

これらの課題に対する解決策

心身相関的健康に対する教育と啓発: 学校や職場、地域社会で心身相関的健康についての教育を強化し、心身相関的な健康問題が一般的であり、誰にでも起こり得ることを理解させることが重要です。心身相関的健康に関する知識が広がることで、認知の歪みや偏見を減らすことができます。

オープンな対話の促進: 心の問題について話すことがタブーでなくなるように、オープンな対話を促進する環境作りが必要です。メディア、コミュニティリーダー、著名人が積極的に心の健康について発信し、心の問題を抱えることは恥ずかしいことではないと示すことが有効です。

心身相関的健康の専門家へのアクセスの改善: 誰もが簡単に心身相関的健康の専門家にアクセスできるようにすることが重要です。PCRTやカウンセリング、心理療法など心に関わる療法の利用を促進し、心の問題に対する早期介入が可能なシステムを整えることが必要です。

身体と心の健康の統合的アプローチ: 身体と心は密接に関連しているため、医療機関や治療プロセスにおいて、両者を統合的に扱うアプローチを推進することが大切です。身体的な症状が精神的な要因と関連している場合、医師やその他の治療者が患者にその可能性を説明し、適切な治療に導くことができるようにすることが求められます。

個別支援の強化: 精神的健康問題に直面している人々に対する個別のサポートを強化し、彼らが感じている不安や恐れを軽減するための具体的な支援を提供することが重要です。

これらのアプローチを組み合わせることで、心と心身相関の問題に対する理解と受容が広まり、無意識に関係する心の問題を原因とする症状や病気を適切に扱うための社会的な土壌を築くことが必要です。PCRTはその社会的責務を担い、コツコツと臨床現場で心と身体の関係性による治療によって症状が改善する事実を証明し続けています。さらに、これを科学的研究へと発展させ、西洋医学とは異なる視点から人々の健康に寄与していくことを目指します。




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