【ほししいたけファンインタビュー】料理家 尾崎史江さん
1)ほししいたけ、あなたの推しポイントは?
精進料理に携わる私にとって、ほししいたけは欠かせない食材。特にだしには目に見えぬ存在感を感じています。精進料理では日常的には昆布としいたけのだしを使いますが、昆布だしは野菜の味を引き立てて料理に旨みを足してくれるのに対し、しいたけのだしは深みや奥行きを出してぐっと料理を美味しくしてくれる存在です。
書籍などのレシピ開発では「材料をできるだけ少なく」とか「できるだけ簡単に」といったことが求められるので、ほししいたけは省かれることが多いのですが、滋味深さを出したい時にはやっぱりほししいたけが必要だと感じます。筑前煮やけんちん汁など、たくさんのお野菜の旨みとほししいたけが合わさった複雑な味わいは精進料理の醍醐味です。
しいたけのだしはほんのちょっとお料理に加えるだけでも充分な味わいが出せるところも魅力です。煮物やカレーにしいたけだしを加えるとぐんとコクが増しますよ。
2)ほししいたけとの出会いはいつ?どんなふうに?
20代前半の頃、郷里の岐阜のお寺で調理アシスタントとして、四季折々精進料理のランチの提供をお手伝いしていました。その時食べたほししいたけがしみじみ美味しかったんです。家ではほししいたけが食卓に上がることはあまりなかったので、精進料理がほししいたけとの出会いのきっかけです。
お寺では戻したしいたけをそのままお椀で提供することもありましたが、味付けしたものをがんもどきなどに入れることも多かったですね。含め煮にしたしいたけとお野菜を合わせた旨みたっぷりの餡をそら豆や百合根で包んだ饅頭を昆布としいたけの出汁でいただくという凝ったお料理もありました。月替わりのコースの中に必ず1品はほししいたけを使ったお料理が入っていましたから、やはり精進料理にほししいたけは欠かせない存在だと思います。
3)尾崎さんは普段何をしている人ですか?
精進料理のよさを取り入れつつ、旬のお野菜や乾物のおいしさをいかしたお料理を「食堂いちじく」という屋号で発信しています。書籍は精進料理が中心ですが、料理教室やケータリング、メニュー開発などでは、時に動物性のものも使いながら身体に優しいお料理を提案しています。
お寺をお手伝いしていた頃、まかないの精進料理が毎日食べても飽きず美味しかったんです。胡麻豆腐の切れ端とか野菜を切った残りをかき揚げにしたようなものでしたが、春は山菜、夏はトウモロコシ、秋は銀杏と旬のものが入っていたりして。お野菜だけでも香り高く味わい深く、こんなに美味しい料理になるんだ、ということを皆さんにも知ってもらいたいと思い活動しています。
活動を通じて感じるのは、意外と精進料理について知らない方が多いということ。精進料理は淡白で薄味、手間暇がかかるといったイメージがあるようです。私は、旬の素材を使って目でも楽しめるように彩り豊かに、お弁当など必要な場合はお砂糖も使ってお子様にも満足していただけるような料理を紹介しています。料理教室では、特に簡単に作れるものをお伝えするのですが、アンケートに「こんなに手軽で満足感があるんですね!」と書いてくださったり、ご自宅でも再現してくださる方がいたり、精進料理を身近に楽しんでくださる人が増えているように感じて嬉しいです。
4)みなさんにどんなふうにほししいたけを楽しんで欲しいですか?
精進料理に限らず、お料理をより美味しくしたい、深みや奥行きを出したい、という時にはぜひほししいたけを使って欲しいと思います。そして、しいたけのだしをいろいろなお料理に加えてみて欲しいですね。私の書籍にだしの説明を入れているのですが、しいたけの戻し汁が余った時にはフリーザーバッグなどに小分けで冷凍保存することをおすすめしています。料理に旨みをちょっと足したい時に、さっと解凍して使えるので便利ですよ。
ただし、しいたけのだしは使い方にコツがあります。卯の花のようなやさしい味のものにしいたけだしを多く入れてしまうと全体がほししいたけの味に支配されてしまうので、それは避けたいですね。ほししいたけを嫌いになる原因にもなりそうです。繊細な味わいの煮物やほししいたけそのものを使う場合には、しいたけだしの量を加減してだし全体の4分の1以下にするとか、だしというよりは旨みをプラスする感覚で少量使うのが良いでしょう。逆に、カレーなどスパイスを多く使うものや、牛蒡などの力強い素材を使う場合は多めに入れても問題ありません。しいたけだしの良さを知らぬまま敬遠するのはもったいない、使い方をマスターしてほししいたけを味方につけるとお料理の腕が上がると思います。
しいたけだしを使う料理の中で、甘露煮はちょっと別格です。クセのあるしいたけだしをたっぷり煮詰めるのにとても美味しくて、私は大好きです! たっぷり作って冷凍保存しておくと便利です。ちらし寿司の上にのせたり、春巻きの具に加えたり、薄切りにしてわさびを乗せて海苔で巻いたりすると日本酒に合うおつまみにもなります。味がしっかりしているので、奈良漬のように小さく刻んでお料理や和えもののアクセントにも使えます。また、甘露煮の煮汁も旨みたっぷりですから、精進かば焼きのタレにしたり黒酢と合わせてすし酢にするなど余すことなく使いたいですね。
尾崎さんのしいたけの甘露煮の作り方
しっかり戻したほししいたけを、もどし汁に砂糖、酒、醤油を3:3:2の割合で加え、落とし蓋をしてふつふつした火加減で煮る。煮汁がなくなる手前で止めて煮汁に浸すようにして保存すると、しいたけに煮汁が戻ってふっくら仕上がります。