英語ユーザーの75%はノンネイティブ。だから「こなれ感」よりも「簡潔さ」を目指したい
今回の記事は、研究発表や論文執筆で「ネイティブみたいな表現」ができないことへの劣等感やコンプレックス(inferiority complex)を抱えるドクターにお届けします。
ドクター(PhD & MD)のための科学英語ガイド Dr. Stormy 🌪️
英語が共通言語となっている科学界。研究の進歩を助けた側面も
自然科学の分野では、いまや英語が共通言語としての地位を確立しています🚩
1980年代の調査では学術誌の60%超が英語で発行されており(Ref. 1)、現在では80%を超えているのではないかと推定されているそうです(Ref. 2)。
共通言語が存在することで、情報の交換・収集が円滑化
政治情勢・経済危機・戦争などの影響で祖国を逃れた研究者が移住・亡命先でも研究を続けられる
など、英語という共通言語の存在が研究の広がりや進歩を助けてきたことは確かです(Ref. 2)。
しかし、世界全体の人口の中で英語ネイティブは少数派
それでも、「共通言語」=「誰にでも使いやすい言語」かというと、そうとは限りませんよね。
英語はラテン語やギリシャ語ほどには文法が複雑ではないかもしれませんが、日本語など、構造の違う言語に慣れている身にはやはり「難しい」もの。
また、発音や表記の違いはどの言語との間にも存在します。
私たちが世界に出ていく時、向き合う相手の93%は英語ノンネイティブ
日本で英語学習をしていると「ネイティブのように話そう!」というメッセージを盛んに見聞きします。
英語をネイティブみたいに話せないと通じない🤷
ネイティブみたいな英語表現を使えるとかっこいい😎
しかし、世界の中で英語を第一言語とするネイティブ話者はわずか6.5%(Ref. 2, 3)。
私たちが世界に向けて情報発信を行う時、向き合う相手の93%強は英語ノンネイティブなのです。
英語話者の中でも、英語を第一言語として育つのはわずか4分の1
「いやいや、それでも英語でやり取りする相手のほとんどはネイティブでしょ?🤔」と思う方もいることでしょう。
しかし、この記事を読んでくださっている皆さんの大部分がおそらく英語ノンネイティブであるように、
皆さんが英語でやりとりする相手の大部分も、やはり英語ノンネイティブなのです。
2001年の世界各国の人口を基に行われた推定(Ref. 4)によると、
英語を母語(第一言語)として育つ人は3億2千万人〜3億8千万人🇬🇧🇺🇸🇦🇺🇨🇦
英語を幼少期から第二言語として身につける人は3億人〜5億人(例:インド🇮🇳、シンガポール🇸🇬など)
英語を外国語として学ぶ人は5億人〜10億人(例:ロシア、中国、日本など)
とされています。全世界の英語ユーザーのうち、英語を第一言語として育つネイティブ話者はわずか25%程度と推定されます。
世界の研究者も多くは英語ノンネイティブ
論文や主要な教科書が英語で書かれていることが多い自然科学の分野でも、「世界の研究者のうち英語ネイティブは少数派」という傾向は変わりません。
英語圏で研究室主宰者(PI: principal investigator)となったトップ研究者にも移民や英語ノンネイティブ話者は少なくありませんし、🧑🏫
英語圏のラボに留学しても、同僚やラボマネジャー、アシスタントが英語ノンネイティブということもよくあります🧑🔬
したがって「ネイティブのようにこなれた表現」よりも「シンプルで理解しやすい表現」が実は重要
「研究発表で英語ネイティブのような気の利いた言い回しを!」
「論文執筆で英語ネイティブのようにこなれた表現を!」
といったプレッシャーは、果たして私たちに必要なのでしょうか?
国際学会など、(研究分野が近いとはいえ)不特定多数を相手に英語で話す時は、「ネイティブのようにこなれた英語表現」よりも
「シンプルで理解しやすい英語表現」を目指すことが実は重要になってきます。
模式図やイラストを使った視覚表現も、聴衆や読者の理解を助けてくれます📈
聴衆の中にいるのは過去の自分
国際学会で英語の講演やセミナーを聞き、こんな思いをした方はいませんか?
早口で次々と繰り出される英語固有のジョーク。わかる人だけがドッと笑い、自分は取り残された…
流暢で早口でこなれた表現満載の研究プレゼンテーションを目指す時、あなたは過去の自分と同じ疎外感を他の研究者に与えようとしているのかもしれません。
科学英語は全員が「ノンネイティブ」。新鮮な視野で自分の話し方・書き方を育てていこう
科学の専門用語や論文でよく使われる表現(いわゆる科学英語)は、英語ネイティブ話者にとっても高等教育以降で初めて学ぶものになります🆕
論理展開や確信度に基づく表現の選び方などは、むしろしっかりと研究の基礎を固めたドクターの方が感覚を掴みやすく、学び始めてからの進みも速いことでしょう。
私も英語ネイティブ話者の学生さんの論文原稿に何度か添削・助言を行ってきましたが、皆さんその内容にとても納得し、たくさんのことを学んでくれました✒️
(※ 私 Dr. Stormy は10代以降に英語を学び始めた英語ノンネイティブです)
科学英語を学ぶ時、英語という言語のノンネイティブであることを恥じる必要はありません。
論理的な思考の枠組みを生かしながら、自分らしい科学英語のスピーキング&ライティング技術を育てていきましょう!
Dr. Stormy:ドクターのための科学英語コーチ
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『もう質疑応答も怖くない!学会発表のためのサバイバル英語術』マイク・ゲスト著、南部みゆき訳(メジカルビュー社)
『理系のための口頭発表術―聴衆を魅了する20の原則 』ロバート・R・H・アンホルト著、鈴木炎/イイイン・サンディ・リー訳(講談社ブルーバックス)
『なぜあなたの発表は伝わらないのか? できてるつもり! ?そこが危ないプレゼンテーション』佐藤 雅昭著(メディカルレビュー社)
『なぜ科学はストーリーを必要としているのか ハリウッドに学んだ伝える技術』ランディ・オルソン著、坪子理美訳(慶應義塾大学出版会)
参考文献
Large, J. A. (1983). The Foreign-language barrier : problems in scientific communication. A. Deutsch.
Montgomery S. (2004). Of towers, walls, and fields: perspectives on language in science. Science (New York, N.Y.), 303(5662), 1333–1335. https://doi.org/10.1126/science.1095204
Amano T, Ramírez-Castañeda V, Berdejo-Espinola V, Borokini I, Chowdhury S, Golivets M, et al. (2023) The manifold costs of being a non-native English speaker in science. PLoS Biol 21(7): e3002184. https://doi.org/10.1371/journal.pbio.3002184
Crystal, D. (2003). English as a global language. Cambridge university press. http://ebooks.cambridge.org/ebook.jsf?bid=CBO97811391969
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https://www.science.org/content/article/presentation-tips-non-native-speakers doi: 10.1126/science.caredit.a1100056