エピローグ
(授業が終了して数か月後…)
でぶねこ 「先生久しぶりです」
Dr Neco 「でぶねこ君、久しぶりですね。私の授業を最後まで真面目に聞いてくれてありがとうございます。あれからもマインドフルイーティングは少しは役に立っていますか?少し体がシュっとしてきたんじゃないですか?」
でぶねこ 「やっぱりそうですよね。ちょっと体が軽くなってきました。マインドフルにいつも食べられるわけではないけど、美味しそうな時は丁寧に食べてみたり、美味しくない所は残したり、お腹一杯なら途中でもご飯を切り上げる、っていうのをまったり続けています。無理しなくて良いのと、日常の生活の延長なのとで、ゆるく続けられるから、自然と体重が減ってます」
Dr Neco 「続けられることが、ダイエットでは肝心ですからね。」
でぶねこ 「ダイエットをするには我慢や忍耐、精神力がないとダメだと思ってたんですけど、そうじゃなくて逆に頑張らないから痩せられる方法もあったんですね。食事だけでなくて、仕事や家庭でもあまり無理をせず、自然体で、やれることだけやっていけるようになったので、少し気持ちも楽になった気がします」
Dr Neco 「そうですね。そうやって頑張らない時間があるから、いざという時に頑張ることもできるのであって、仕事も家庭もダイエットもと、全部頑張っていたら、猫生疲れちゃうでしょうね」
でぶねこ 「確かに、気が抜ける時がある分、ここぞという時は普段よりちょっと頑張れてる気がします。余裕や脱力も大切なんですね。まあでも、頭では理解してても、つい頑張り過ぎちゃうんですけどね」
Dr Neco 「誰しもそんなに器用じゃないから、頭でわかっている通りにはうまくいかないですね。全部、頭で思う通りに動けたら、猫生簡単すぎてつまらないでしょうね。まあ、そんな猫はいないのでしょうが」
でぶねこ 「そんな贅沢な悩みを持ってみたいなぁ。でも、自分は平凡な猫で、大したことはできないかもしれないけど、その時その時にできることを自分なりに精一杯やっていくのも悪くないかもなと最近思うようになったかな。ありのままの自分に満足できない気持ちを、食事にぶつけていたのかも。ぷよぷよした体は気に入らなかったけど、今思えば一緒に戦ってくれた友達のような、どこか愛しい、懐かしいやつって感じ…」
Dr Neco 「体は、『そんなに食べちゃうと体に悪いよ』と悲鳴を上げつつ、そんなでぶねこ君のやり場のない苦しみを引き受けてくれていたのかもしれないですね」
でぶねこ 「当時は食べ過ぎる以外の方法を知らなくて、食べ過ぎるしかなかった気がする。食べ過ぎることで何とか生活を回せていたのかもしれない…。そりゃ前の食事スタイルに戻りたくないし、体にも悪かっただろうから後悔しちゃう部分もゼロじゃないけど、まあ、猫生に正解や攻略本がある訳でもないし。こうやって回り道して、納得できなかったり、後悔したり、するのが自分なのかなって」
Dr Neco 「無理して良いこと言おうとしてないですか?(笑)」
でぶねこ 「たまには格好つけさせてよ(笑)。先生のダイエットの授業は終わっちゃったけど、悩みは尽きないから、先生には引き続きお世話になりたいので、よろしくお願いします」
Dr Neco 「こちらこそ、でぶねこくんの頑張る姿に元気をもらっているので、またお話に来てくださいね」
肥満症に対して、短期的な減量効果を認める方法はたくさんありますが、現在のところ長期的にリバウンドなく治療できる方法はありません。マインドフルネス的な介入においても、効果を検証している段階のため、今後の研究結果が待たれます。これほど世の中で痩せるための方法が研究されていても、いまだに長期的な結果を示せていないということは、やせるということが、それ程人間にとって難しいテーマだということを示していると思います。失敗して当然の難題な訳ですから、これまでダイエットに挫折してきた人も、、自分を責めないで頂きたいです。
幸い私は、大した努力も要さず今も、リバウンドせずに過ごせています。それは、自分の生活スタイルは変えずに、普段の生活や食事に対する心構えを少しだけ変えるという方法が、自分に合っていたからだと思います。何かうまくいかないと、私達は自分の努力不足と考えやすいものです。しかし、自分の精神力や忍耐力の問題というよりは、その方法が合っているか、合っていないかという問題であることが意外と多いと思います。肥満の人はむしろ普段、食事以外のこと(仕事など)に関して、精神力や忍耐力が強すぎて、我慢しすぎたり、頑張りすぎてストレスを貯めている人が多いように感じます。世のダイエットがあまりにも制限や努力、根性などの方法論に偏っていることに憂慮し、私のように頑張らない方が逆にうまくいくこともあると、皆さんに伝えたく、今回この本を執筆しました。
肥満の治療がこれほど難しい理由は何でしょうか。一つには、「単純な一つの原因があって、結果肥満になる」訳ではなく、「今までのライフスタイルの行き詰まり」の結果が肥満という形として現れくる、ということが挙げられるのではないかと考えています。それはちょうど、山合から多くのの支流が合流して、一つの大きな川となる様に似ています。麓の人間は川の下流だけを見ていて、それぞれの源流の風景がどのようであるかに思いを馳せることはなかなかないものです。同様に、ライフスタイルの行き詰まった過程は、きっと人それぞれなのでしょう。出世を目指し続ける仕事の仕方かもしれませんし、親や配偶者、恋人との気持ちのすれ違いかもしれませんし、大切な何かをなくしてしまったことかもしれません。もし何かその様な悩みや難しさを抱えていらっしゃるならば、マインドフルネスに触れて自分を癒して頂いたり、、私達、精神科医や心理士にもご相談頂ければと思います。皆さんの健やかな日々を祈っています。