20200520 No15 悩んだ症例:アフリカだからでなくシステムと個人の力不足

背景:首都郊外にある小規模個人病院にて、院長(70代)が陽性となった。家族は4階建ての病院の最上階の一角に住んでおり、そのメンバーが濃厚接触者としてself-isolation(自主隔離・外出自粛)と14日間の健康観察の対象となった。院長は検査の2週間前から持病の悪化により体調不良であり、他院を受診した。そこの医師がCOVID19を疑い、検査を実施した。

陽性結果判明後、疫学チームは家族メンバーと面談したが、病院スタッフとの接触は許されなかった。病院経営をする家族が、スタッフ、患者、地域に知られることでの、差別や風評被害を恐れたためだ。疫学チームとしては、院長と接触の可能性がある人の開示を求めたが、家族以外に接触者はいないとのことであった。その結果は、疫学チームの部門長を通して、州の保健省上長にも通達された。上長からは、聞き込みから病院関係者が濃厚接触者に当たらないのであれば、対象である家族のみを追跡するよう指示が出た。

その後10日経過した時に、院長が入院しているCOVID19特別病院に、個人病院スタッフがいきなり現れて、院長との面会を求めたそうである。それが保健省に通達され、上長より病院スタッフへの説明が指示された。

思考:疫学チームとしては、以下の2つのバランスを取る必要があった。1)確実な濃厚接触者である家族との信頼関係の継続。2)接触の可能性がある病院関係者の知る権利の保護。

話し合いの結果、「この病院を訪れた人が2週間程度前に陽性だと判明した」と、陽性患者の詳細はぼかして説明することに。

以下の2点が決定の経緯である。

1)この時点で、最後に院長が診療現場に出てから3週間以上が経過していた。家族によると、検査前2週間は持病の悪化(糖尿病)から、仕事に出ていなかったという。すなわち、これが本当なのであれば、最終接触から潜伏期間の2週間は経過していることになる。この段階では、病院スタッフに症状が出ている者はいない。

2)地域および人々によるCOVID19に対する反応に配慮した。まずは、この家族との信頼関係を継続すること。疫学チームが追跡する中で、一部の濃厚接触者と音信不通になることは日常茶飯事である。次に、地域の特性をも踏まえた。病院自体はスラムにあるわけではないが、中心街の裕福な地域でもない。恐らく、COVID19陽性の事実が知れたら、地域からの差別による病院経営へのダメージは大きいだろう。

行動:某日曜日に疫学チームが、個人病院に赴き、出勤していたスタッフに対して、COVID19に関する教育講和を行い、上記の通り説明を行った。医師から清掃員まで十数名の参加があり、講和と説明を通して、一定の納得と信頼を病院スタッフからも得たように思えた。

その上で、病院スタッフには検査を希望する場合は、検査を受けれるということを説明した。検査を受ける方法は、1)地域の検査センター(この病院から30-40分程度離れている)を訪問するか、2)保健省から検査チームを派遣するになる。どちらを、病院として望むか、決定を委ねることとした。

1)にする場合、病院スタッフは移動手段を要するため、個人に任せると検査を受けないことが予想される。病院もそのサポートを出すのは難しそうであった。2)にする場合、保健省の検査チームが訪問する際は、PPE等をまとっているため、周辺地域に現状がばれてしまうことを家族は懸念した。

結果:病院スタッフは総勢で50名程度いており、院長との接触程度の判別は難しい(少なくとも、院長の存在を明かさずには無理であった)。しかし、保健省側には50名の疑い症例でもない人の検体を採取するだけの、検査体制の余裕もないということであった。

家族側に病院スタッフに検査希望者を募ってもらい、その上で検査チームを派遣するということにした。

しかし、家族からは病院スタッフの希望者はいなかったと連絡がきた。(予想されていたことでもあったが)

なので、濃厚接触者である家族メンバーのみ、地域検査センターに赴いてもらうこととした。

考察・反省ポイント:
1)病院における医療者陽性が反応した時の対応。日本であれば休診しているのであろう。ナイジェリアでは、そうはいかなかったのはなぜか。まず、このような事象に対する対応方法が確立されていないということ。次に、個人病院であるということ。もし、公立病院であれば、休診はなくても、病院スタッフ全員を検査するということはあったように思う。疫学チームの部門長も保健省の上長も、検査結果が出た時点で迅速に対応する、余裕も緻密さもなかったように思える。私たちも、正直押しきれなかった。

2)火消しのような2週間遅れの説明会。正直、私たちもわだかまりはあったが、舞い込む仕事の対応を続けていた。保健省は、予想もしない出来事(個人病院スタッフの面会希望)があり、方向性を変えた訳であるが、火消作業のようであった。病院スタッフの安全を、病院も公衆衛生も気にかけ、守ってあげることができていない。

3)検査体制に余裕がない。これは分かり切っていることである。NYでもそうなのである。同僚は説明をした十数名だけでも検査を受けさせればという提案もしてくれた。しかし、それもただの火消作業(病院スタッフを検査したというアリバイ作り?)にすぎない。

4)個人の権利・利益と、Public Goodsとのバランス。家族が状況開示をしたくないという事象が、複雑化の発端でもある。公衆衛生の難しいことであり、成熟したシステムの中であれば、1)の点も含めて良い対応ができたのか。これは、きっと日本でも直面する問題なのだろう。難しい。

以上、考えることになった症例でした。(少し内容が突っ込みすぎているかもしれないので、適宜、加筆修正または削除するかもしれません)

Day 10 → 長期戦になってくるので、One day at a timeと思い書きました。

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Day 11 → 健康というか、やはりこの状況は、Healthのみならず、他の危険性もあるので、安全という表現に。

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