土という処方箋〜土壌菌のお話
「土」と聞くと、どんなイメージでしょう。
子供が泥んこになって帰って来たら、最近のお母さんなら「汚い!洗いなさい!」と叱ってしまう方もいらっしゃるでしょうか?
土って、本当に汚いものでしょうか?
私など、日々スキさえあらば、どうにか土に触れてやろう!土はどこじゃ!と血眼になって探してくるくらいです。
植物の健康には土が重要
農業をされる方であれば、土の重要性は、よくご存じだと思います。
農作物を育てるために、最重要なのは、土です。
ワインがお好きな方、ワインの味を決めるのは、「テロワール」と呼ばれる気候風土などの環境です。
テロワールにおいて、とても大切なのは、やはり土ですよね。
観葉植物を育てておられる方、土が腐敗し、根腐れすると、植物は枯れてしまいますから、やはり土が重要です。
人の土壌は腸内環境
そして、人間にも、土があります。
人間を育てる土壌は、腸内環境です。
腸内に有用な腸内細菌がしっかり育っていれば、人が口から食べた食べ物を分解し、人に吸収しやすい形に変換してくれます。
さらに、元々の食物よりも栄養を増やしてくれます。
そのフカフカの有機堆肥のようなうんちこそが、腸内にある土壌です。
そこに、小腸の上皮細胞が根を下ろし、土壌から栄養を吸収し、血液という葉脈を通って、葉っぱや花、実である細胞に栄養を届けます。
細胞の健康には、土壌の健康が不可欠です。
土壌菌は、腸内環境の祖先
人の土壌である腸内環境に暮らすのが、腸内細菌です。
元々は、自然環境に暮らしていた共生的な土壌菌が、より住みやすい環境を求めて、私たちの腸内で共生関係を結ぼうと移住したのが始まりです。
だから、土壌菌は、腸内細菌の祖先。
とても似ています。
そして、腸内細菌が忘れてしまった知恵を持っている賢者でもあり、その知恵を腸内細菌に授けてくれます。
土は微生物だらけ!
健康な森のたった1gの土には、100億〜1000億個の微生物が暮らしています。
そのうち、細菌は、数千〜数万種類ほどいます。(農業時代vol.198(2017))
(実は、細菌以上に、ウイルスはもっとたくさんいます!)
もちろん、傷口から入ることで破傷風を起こすような菌もいますが、健康な状態の皮膚で触り、それらが口に入ったとて、病気にはなりません。
まれに、人間と接触したことのない微生物が人間界に入ってくることで共生関係の均衡が乱れます。
それが、スペイン風邪などなわけですが、そういう歴史的な事件と呼ばれることは特殊な状況なのであって、概ね、私たちの身の周りにいる微生物は、人間とも共生関係にあるのですよ。
土は薬?スーパーフード?
むしろ、古来、「土は薬」でもありましたし、世界中の伝統的な民族には「土食」という土を食べる文化もあります。
特に、土の表面は、植物や動物が微生物によって分解された有機物。それに地球を構成する石、ミネラルの分解物がミックスされています。
スーパーフード?は言い過ぎかも知れませんし、別に土をそのまま食べることをお勧めしているわけではありませんが、「汚い」ものではないのです。
ちなみに、デトックス用の泥=クレイもあり、私が学ぶバイオロジカル医療の分野では良く使用します。
土壌菌:SBOのスター選手
土壌菌(soil based organisms:SBO)は、今やアメリカでは、サプリメントとしても活用されています。
サプリメントの場合、土にいる全ての種類を摂るというわけではありません。その中の精鋭のスター選手を複数ブレンドしたものが主流です。
スター選手は、私たちにとっても結構身近です。
漬物の発酵の元:ラクトバチルス・プランタルム
ラクトバチルス・プランタルム菌は、植物に付着する代表的な土壌の乳酸菌の仲間です。
耐塩性と言って、塩にも強い!
というわけで、 伝統的な漬物や韓国のキムチ、ドイツのザワークラウトなどの発酵の元にもなっています。
ドイツの伝統漬物、ザワークラウトは、キャベツを切って塩もみするだけであの酸っぱい漬物になるんですよ?
それは、土壌の乳酸菌が乳酸発酵するからです。
100%生きて腸まで届く:バチルス・コアグランス
バチルス・コアグランス菌(有胞性乳酸菌)も同じく土壌の有用菌の一種です。
芽胞という最強のシールドに包まれているので、熱にも酸にも強く、加熱調理でも死なず、生きて腸まで届いて腸内で働くことが特徴です。
米や野菜など畑で取れる農作物に付着しています。
納豆菌の仲間:バチルス・サブリティス
納豆菌の仲間で、ナットウキナーゼも産生します。
血圧調整、コレステロール調整、免疫機能の調整、SIBO(小腸内異常増殖症)の改善などがあることが報告されています。
※New Biotechnology. 27 (4), 341-346
※ FEMS Immunology & Medical Microbiology. 53 (2), 195–203.
※ Chinese Journal of Digestion. 33 (13), 857-861
他にも、土壌菌の一種には、免疫のバランスを調整するものや、ストレス耐性を高めるものなど、色々と研究されています。
ワインやシードルを発酵させる酵母の仲間などもいて、多様な微生物が総合力で土壌を豊かにしています。
オーガニックは土壌菌的にもベター
なぜ、農薬を使わない農作物を食べる方が良いのか、という一つの理由は、土壌の微生物が豊かであるということです。
「バイオダイナミック農法というオーガニック農法の一種で育ったリンゴと従来型の農薬を使った農法で育ったリンゴを比較したところ、いずれも同様に、リンゴ1個の全体に1億個の土壌菌がいたのですが、オーガニック農法のリンゴの方が土壌菌の多様性が高く(種類が多く)、かつ有用な乳酸菌が多かったのに比べて、病原性の細菌の割合が少なかった」という研究結果もあります。
※Front. Microbiol., 24 July 2019
土壌菌は加熱にも胃酸にも強いので、こうした健康的な土で育った農作物を食べることで、自然に口から生きて腸まで届き、私たちの腸内の土壌を改良してくれます。
殺菌消毒は「泣く泣く」安全に微生物と触れ合う
人の腸内環境は、土壌環境と一連です。
今は、1種類のウイルスのために、殺菌消毒せざるを得ない状況ですが、殺菌消毒は喜んでやることではなく、「泣く泣く」やることだと思ってください。
本来、殺菌消毒は、医療現場や工業的な加工食品などの調理現場など、衛生管理上、微生物を排除しなければならない特殊な現場で使うものです。
この社会的な状況が終われば、また必要のない状況では、必要以上の殺菌消毒は、控えたいところです。
むしろ、免疫機能を弱め、アレルギー疾患などを増やす可能性もあります。
ほとんどの微生物は、むしろ共生的で私たちの健康を高めてくれる働きがあります。
共生的な微生物と安全に触れ合いたいところです。
私の場合は、父の趣味の完全無農薬の微生物農法の畑の収穫物を食べること。
また、移動OKの時には、畑の土に塗れに行きます。
ペッペっと土をはらって、そのまま収穫物にかじりついたりします。
微生物の故郷、海も微生物だらけ
森へのキャンプ、土いじり、泥んこ遊び、推奨!
それに、海にも、海水ティースプーン1杯
に、海洋細菌:100万個・ウイルス:1000万個もの微生物がいます!
私は、数年前にサーフィンを始めましたが、まだまだ初心者なので、水中洗濯機状態となって海水をがぶ飲みします。
それで、病気になるどころか、むしろ元気になってしまいます。
とにかく、微生物は、人類を含めてあらゆる動物の祖先なのですから、後から進化した私たちは、微生物の楽園に間借りしているようなもの。
食物連鎖の生態系ピラミッドでも、一番下の基礎を支えるのは、微生物です。
新参者のくせに、大大大先輩を全滅させようとするから、生態系が崩れておかしくなってしまいます。
大大大先輩をレスペクトして、可愛がってもらう方がいいですよね。
noteははじめたばかりですが、これから、腸を通した人と地球全体のヘルスケアについて書いていきます。
こちらのWEBメディアでも、腸内環境関連記事、執筆しています。
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