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映画「そして僕は途方に暮れる」

あらすじ

自堕落な生活を送るフリーター・菅原裕一は、彼女に浮気がバレて同棲中の家から逃亡する。焦燥に駆られて行動する裕一は、親友・先輩・後輩・姉を頼りにするが、思い通りにならないとすぐに逃げ出してしまう。最後の手段として母親が住む実家に戻るが、そこからも逃げ出し万事休す。しかし逃げ出した先で10年振りに父親と邂逅する。世間とは没交渉の生活を送る父親の家に住む事になり…。



劇的な展開は無いのに

主人公の菅原裕一がただただ逃亡する物語。劇的な出来事や出会いはほぼ無く、挙げるのであれば父親との再会くらい。

家族である姉と母、彼女や友達より絶対的な家族という関係。面倒臭くて疎遠になりがちだけど、最後に頼るのは家族。

親の脛を齧って生きてきた裕一だったが、彼女と親友にも甘えてた事に気付いてく。

さらには、家族を捨て自由気ままな生活を送る父と出会い、自分の生き方に疑問を抱く。

人生が変わるタイミングに、劇的な出来事は必要なのか。案外、ちょっとした出来事で人生は劇的に変わるのではないか。


劇的な出来事は無いと書いたが、裕一が最後に待ち受けるのは劇的か。それともありきたりか。天国か地獄か。



人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ

「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇だ」とチャップリンは名言を残してる。

後回しにして来たツケが回ってきて諦観と絶望を抱えた裕一は、逃げて逃げて逃げまくる。相手と向き合う前に、自分とも向き合えない。深い闇の底で悲しみに囚われながら、時間に殺されてくる裕一。

一難去ってまた一難どころか、難を解決する前に難が雪崩れ式にやって来る裕一は、クローズアップで見れば悲劇だ。だが、逃げて逃げて逃げまくる主人公に感情移入し、エンドロールを観てる際には、これは喜劇でもあるのかもしれないと思った。


「面白くなってきやがったぜ」と絶望の淵に立った時に思えと父から教わった裕一。


父は、ハッピーエンドの映画を嫌い、裕一の人生は俺と違って面白くないなと語った。難を解決して順調に進む人生も面白いかもしれない、けど父が求めるのはいつでも障壁がある刺激的な人生。不幸を求めて生きてるわけではないが、そうなるしかない馬鹿な人種もいる。でも、この作品を通してそんな馬鹿も愛する馬鹿なんじゃないかなと思った。


裕一は自分のツケを清算し、彼女の里見と向き合う事を決めるが、待ち受けるは「面白くなってきやがったぜ」と思うような残酷な現実。

だいたいの作品は解決してチャンチャンで終わるけど、作品上の登場人物もこの先の人生がある、現実は甘くないと教えてくれる。

バッドエンドでは無いけど、裕一が逃亡した時に起きたツケをまだ払ってなかった。そして最悪な方に流れてしまった。裕一の傲慢さ、そしてこの作品を観てる観客の傲慢さを自覚させるラストに唸った。



あなたの物語

この作品を観て、逃げるなんてダサい!共感出来ない!と思える人間になりたかった。

混沌とした感情を裕一が吐露するシーンに共感して感動した。情けなくて、みっともなくて、めちゃくちゃ同じ感情を自分も抱いてる。

退屈な日常に倦んでるのがダメなんだけど、退屈な日常にしがみつきたい気持ちもある。

この映画は、僕の物語だなと思った。
そして、あなたの物語でもある。

どんな人生だとしても、面白味に欠けた人生だとしても、自分が映画の主人公だと思えば面白い人生に激変すると思う。何か起こっても面白い、何も起こらなくても面白い、チャレンジしても面白い、逃げ出しても面白い、上手くいっても面白い、上手くいかなくても面白い。

あなたはあなたらしく生きるから面白い。

ハッピーエンドでも、バッドエンドでも面白い。



主人公・藤ヶ谷太輔の説得力・それを支える実力派達

ジャニーズ関連の作品でしょと毛嫌いする人がいたら勿体無い。

逃亡するに連れて精悍な顔付きになってく主人公・菅原裕一演じる藤ヶ谷太輔を観て圧倒される。

顔立ちもスタイルも完璧だけど、それだからこそ何故か感じる危うくて脆い雰囲気。人生を舐めてる感じが伝わって来て、この作品の説得力が増す。

冒頭の死んだ目でスマホを眺めてるシーンで、あっこいつはダメだなと思った。そう思わせてくれるくらい藤ヶ谷太輔の演技が良かった。

さらに、藤ヶ谷太輔をサポートする脇役には前田敦子・中尾明慶・毎熊克哉・野村周平・香里奈・原田美枝子・豊川悦司。豪華実力派キャストが勢揃いし、この作品の魅力が増す。

前田敦子の泣き叫ぶ演技は十八番になりつつあるけど、どの作品で観ても飽きない。唯一無二の女優として着実に地位を築いてる。

中尾明慶の親友役。優しくて温かくてこんな親友を怒らすなんて裕一何やってんだよと思ったけど…。

トヨエツは流石です。トヨエツが出てるだけで、その作品を観たくなる。



最後に

裕一は人間関係を絶つ為にスマホの電源を切って生活するが、これがめちゃくちゃ分かる。

スマホの電源を切った時の解放感、何もしがらみが無くなって、本当に自由になれたなと思う。電源をつけた時の恐怖はあるけど、つけるまでは何をしても許されるそんな感じ。現代人は何かに接続されて無いと不安で、だからずーっとスマホを眺めてるんだけど、辞めてみると楽だという事に気付いてない。

大学に行かずに引きこもってた時期が自分にあって、親や大学からの連絡が怖くて、1日中スマホを切ってた時期があった。誰からも連絡が来ない深夜2時くらいに電源をつけてLINEやメールを確認して、何も来てなかったら明日も生きれるなと思った。この作品を観てると、刹那的な生き方をしてた自分が蘇って来て、最低で最悪だったけど今はしっかり受け入れてる。

あの時があるから、今がある。
そして、あの時のツケを今も払ってる。

結局、自分と向き合うしかないなと思った。


「そして僕は途方に暮れる」めちゃくちゃ面白くて好きです。おススメです。


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