あまりに深すぎるJack Strattonの世界[4] 別人格!?「Mushy Krongold」とは誰なのか?Jackが語るコメディーへの熱い想い
KINZTOのDr.ファンクシッテルーだ。今回は「どこよりも詳しいVulfpeckまとめ」マガジンの、12回目の連載になる。では、講義をはじめよう。
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前回に引き続いて、Vulfpeck(ヴォルフペック)のリーダー、Jack Strattonのサイドプロジェクトを解説していこう。
今回はその中でも、もっとも謎が深いものを紹介したい。初期の「DJ Paradiddle」なども面白いものだったが、ある意味、今回紹介するものが最もJackの本質を示していると言える。
※「DJ Paradiddle」については前回の私の記事で紹介している。
今回のサイドプロジェクトは、Jackの「別人格」とも呼ばれる「Mushy Krongold(ムシー・クロンゴールド)」 である。どうか、この衝撃的な動画をご覧いただきたい。
ショファーという、雄羊の角から作られるユダヤ人の伝統的な楽器を吹く動画なのだが、40分ほとんど同じ音を吹き続けている。
ちなみに、ふつうはこうやって吹くらしい。
先の動画で、Jackは40分間まったく息継ぎをせずに吹き続けている。
もちろん、そんなことできるわけがない。これは動画編集によるループであり、つまり、ただのジョークだということになる。しかし絵面と音がシュールすぎて、コメント欄は絶賛の嵐。
動画の自己紹介では「Mushy Krongold」だと名乗っているが、完全に顔がJack Strattonである。同一人物であることは間違いないし、隠す気も1mmも感じられない。
このような、Jack演じる、「ちょっと変わった音楽マニア」、それが「Mushy Krongold」 なのだ。
Mushyはゆっくりと、低血圧に、どこか内気な喋り方や動き方をする。そして演奏する音楽もかなり奇妙で、マニアックなものばかりだ。これらも全てJackが作ったキャラ設定で、この謎のプロジェクトを楽しんでいるのが伝わってくる。
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Mushyの起源に関しては、Jackは以下のように語っている。
👆元ネタの、Solo Rosenberg。「The Jerky Boys」がSoloになりきって電話し、相手を困らせる「いたずら電話」のネタ。確かにSoloはちょっと早口で、これを低血圧にしたらMushyになる。
さきほどの文中でJackが語っていたMushyによる「Kickstarterの失敗したページ」は、こちらだ。👇
https://www.kickstarter.com/projects/1461914303/mushy-dictates/description
これによると、Mushy "The Loxsmith" Krongoldが正式名称で、彼の自己紹介も書かれている。
「Funklet」のクラウドファンクディングに成功したJackは、次は「Mushy Krongold」のプロジェクトでクラウドファンディングを行った。Mushyとして過去のR&Bレジェンドの元へ行き、パフォーマンスを録画して編集。それらをリターンとして配信する、というプロジェクトだったが、Jackが語っているように、失敗に終わった。
コメント欄に父親のBert Strattonが投稿しているのが微笑ましい。これはバッカー(クラウドファンディングを支援したひと)しかコメントできない仕組みなので、Bert氏はアイデアを提供しただけでなく、わざわざ支援までしていることになる。よい親子関係だ。
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Jackが語っているように、このキャラクターはコメディーの延長ということになるが、彼はこういった世界にも強い関心を持ち、自己表現を行っていることがわかる。コメディーへの想いは、別のインタビューでも語られている。
👆Fred Armisen。立ち振る舞いはどこかJack風
👆DJ Douggpound。ここではDJを装ってネタを披露するスタイル
👆Kyle Mooney。こうしてみると、サタデー・ナイト・ライブ関係が多い。また、メガネ・朴訥、といった印象のナードなキャラクターを愛していることも分かる。それがJackの要望にも反映されているのだろう
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他にも、Mushyはたくさん動画をアップしており、またSpotifyに音源も上がっている。どれも抜群にヘンなので是非確認していただきたい。動画はこちらからプレイリストへ飛べる。👇
この動画は、1971年にリリースされたが日の目を見なかったMushy Krongoldの楽曲「Hey You」。
ということになっているが、音を聴く限り完全にベースはJoe Dartである。
この動画ではMushy Krongoldがシンセ、Jack Strattonがビデオ編集となっている。くどいようだが同一人物だ。笑
Mushy KrongoldはVulfpeck結成前から活動しており、Vulfpeckが軌道に乗っていくと次第にMushyでの作品発表は減っていった。今では活動は行われていない。
だが、このシュールなセンスがVulfpeckの活動の端々に表れているのはよく感じ取れる。「Funklet」「DJ Paradiddle」におけるグルーヴオタクの面、「Holy Trinities」で分かる先日たちからの影響、そしてこの「Mushy Krongold」のセンスが全て合わさって、Vulfpeckの世界が成り立っているのだ。
◆著者◆
Dr.ファンクシッテルー
宇宙からやってきたファンク研究家、音楽ライター。「ファンカロジー(Funkalogy)」を集めて宇宙船を直すため、ファンクバンド「KINZTO」で活動。
◇既刊情報◇
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