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わたしの「お仕事」ーー翻訳
小学生の息子から、インタビューを受けた。
「あなたの仕事はなんですか?」
説明を兼ねて「外国語を日本語に変換する仕事」と伝えたら手元の
ノートに息子は「翻訳」と書いた。・・・知っていたのか、その単語。
①「何が楽しい?」
②「何が大変?」
③「どんな人におススメの仕事?」
矢継ぎ早に聞かれるも、答えは自分の中で案外と整理出来ていて、スラスラっと出てくる。
①「たくさん本が読める。新しいことがわかる。一日に何度も『へえー』って感服できる…」
②「誰にも『はい、これで良いですよ』と太鼓判を押してはもらえない。自分で『よし、これでいこう』と決めないといけない。座っている時間が長いので運動不足…」
③「調べ物が好きで、文字を読むことがすきで、自分の常識や既存の知識を疑うことが出来る人」ーーそんな風に答えて、短いインタビューを終えた。
それは家族の仕事について調べてくる宿題の一つだった。小さな驚きだったのが、小6の息子の語彙に「翻訳」があったこと。以前わたしが教えたのかな?と記憶を辿るも、はっきり思い出せない。
わたし自身は子どもの頃「翻訳」という言葉を知らなかった。洋画が好きな父と母の影響で、わりと小さい内から幅広い作品を観てきたと思っているが、そこに現れる数々の字幕を目にしていたにもかかわらず、字幕は現れたとたんに俳優が話す言葉そのものに化けてしまい「訳」なのだとは考えもつかなかった。まるで俳優は字幕のとおりに話しているような錯覚の中でわたしは映画を観ていたのだった。
紆余曲折を経て翻訳を生業とするようになり、現在は産業翻訳とか実務翻訳とか言われる範疇で仕事をしている。たまに字幕を作る仕事をいただくも、映画のそれではなく、企業のキャンペーン動画やeラーニングの下に現れる字幕の作り手である。いつかは映画の字幕を手がけたいが、まだそこへ到達する実力がない。観客の内わずかな数が目にする、映画のエンドロールの最後の最後に火の玉のように出る「字幕翻訳 〇〇〇」。その〇〇〇に自分の名前が出る日を目指して歩いている。
せっかくなので、この記事が翻訳をしたい!と思っている方役に立つといいなと思うので以下何点か経験を綴ってみよう。
【翻訳の求人サイトに登録する】
翻訳を仕事にしたいと思って最初にやったことは、翻訳の求人サイトに翻訳家として自分を登録すること。そのサイトは日本のものより、海外のものを選んだ。日本の求人サイトは経験を重視しているので、未経験は条件に合わないことが多く、望みが持てなかったから。始める前に経験を問われたら、手も足も出ないじゃないか、と。
わたし自身はここに登録し、サイト経由でメールが来たら=声がかかったら、軒並みトライアルを受けて仕事の受注につながった。日本語は外国に行くと少数言語だから希少価値が高く、誠心誠意仕事をしたら再度使ってもらえるチャンスもきっとある(と信じている)。経験を問う企業ももちろん多いが、このサイトを利用する企業は世界各地にあるので、登録して損はないと思っている。ここに登録して失敗だった人もいるだろうが、それはどの国のどのサイトにアクセスしても同じこと。
それから、まずはこういった外国で運営される求人サイトを自分が理解できるかどうかを基準に「翻訳を生業とする覚悟」を自分に問うと良いのではないかと思っている。サイトに登録する際に記載事項がチンプンカンプンなら、他の仕事を始めた方が良い。自分には翻訳できるほど語学力は身についていないと判断する基準になる。
【訳出言語の表現力を上げる】
翻訳をしているとか通訳をするとか、そういう仕事の話になると必ずと言っていいほど「じゃあ〇〇語が得意なの?」とか「ネイティブレベル?」とコメントが飛び交う。でもわたしは、日本語=母語が得意である。それはわたしが日本で生まれ育ち日本語が母語だから、ではない。仕事上の「訳出言語」として伸ばすことを心がけていることも理由。実は、言語の橋渡しをする際に大事なのは「訳出言語」の表現力の方だ。翻訳あるいは通訳の仕事に求められている作業とは、外国語で表現された景色がそのまま日本語で現れるように置き換えること。だから母語を訳出言語とする方がスムーズという現実があると共に、母語だからといってもやはり「どれにしようかな」と選ぶ言葉の数が豊富であればあるほど、同じ景色を再現する力も高いと言える。
年配の方の方が日本語を知っているから、翻訳作業をすると外国語を知っている若者よりも、日本語を知っているご年配の方が訳出が適切であることが多い。そういった経験はないだろうか?