性転換の衝撃 とおくのまち 17

   お店に行く途中、ブティックのショーウィンドに、とても綺麗なミニのスーツが飾られていました。
たぶん、この辺りのお姉さん向けのものだろう。派手なのに上品で可愛い洋服だった。かなり高価だろうなぁ。しっかり働いて、こんな服が着たいとあこがれて眺めていたのです。

 また先日の銭湯に行った。かみそりをあてすぎて肌が痛んでいるのがわかる。毎日、こんなことをしていては、肌がもたない。やはり、脱毛を考えるべきだろうかと悩む。

 出勤しました。やがて、ショーがはじまります。
いつ見ても何度みても素晴らしかった。
 まだ、ショーには出ることが出来ず、ただ指をくわえて見ているだけしか出来ないことが残念で後ろめたくもありました。
 
 セクハラとかはあたりまえ。おしりや、偽もののだけど胸をさわられることも多い。ニューハーフたちは、客たちにとっては『見世物』という言葉があてはまるのかもしれません。
 ウィッグ(かつら)だと、引っ張られたり、脱いでみてとか言っていじめられて、すごく悔しかった。
 脚を触られた時、脛毛の剃った跡がざらざらするのを気持ち悪いと怒られたりしたけど、キモイおっさんに脚を撫でられるこっちのほうが気持ち悪いわとは言い返すわけにもいかなくて。先輩お姉さんが、「この子は、まだ、入りたてで、これから女になっていくところだから」とフォローしてくれたので救われました。
 夕方、早く飲みに来るひとや、観光客たちはおだやかな人が多いけど、やはり深夜にやってくるのは、恐そうな客が多かった。そして、この世界の厳しさを知るのです。
 
  店が開けたあと、従業員みんなで、ママが作ってくれたゴハンを食べます。
この時間が、一番ほっとするし、お腹もすいていたので、とても美味しい。
大きなお皿から取り分けたり、和気あいあいとして、なんだかみんなが大家族のような時間。たぶん、みんな、もうほんとの家族や身寄りのいない孤独な人たち。
 そして、同じような悩みを抱えて生きているひと同志の妙な連帯感。
一般社会で過ごしている時のような、自分がみんなと違っているのを見抜かれやしないかという不安は、ここでは感じなくてすんだ。

 食後の雑談タイム。性転換手術(今でいう性別適合手術のことです)の話となる。内容は、かなりディープな内容にまで及ぶ。
 今でこそ、インターネットでかなりいろんなことが書かれているけれど、当時の私にはすべてがカルチャーショックでした。

 そして、ほかのお姉さま方は、そういうことは、もう完了済みなので、話の方向は、私への性転換の助言へと移っていく。
なんにもよくわかっていない私に、あの憧れのお姉さまが脱いで局所を見せてくれたのです。私は、本当の女性のそれをはっきりと見たことがなかったので、なんともいえなかったけれど、たしかに、すごいなぁと思った。
感動や興味よりは、もしかして、自分に訪れるかもしれない現実として考えていたので、恐怖感の方が強かったかも。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?