見出し画像

9月は世界アルツハイマー月間【認知症#14】

こんにちは。くんぱす先生です。
内科専門医として臨床経験を積んだ後、介護老人保健施設の施設長を経て、現在は認知症疾患センターの認知症治療病棟医として勤務しています。

タイトル通り、今月は【世界アルツハイマー月間】とされています。
厚生労働省のHP↓

1994年「国際アルツハイマー病協会」(ADI)は、世界保健機関(WHO)と共同で毎年9月21日を「世界アルツハイマーデー」と制定し、この日を中心に認知症の啓蒙を実施しています。

また、わが国でも2024年1月に施行された「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」において、国民の間に広く認知症についての関心と理解を深めるために、毎年9月21日を「認知症の日」、9月を「認知症月間」と定めています。

―なぜ9月21日なの?
1994年9月21日、スコットランドのエジンバラで第10回国際アルツハイマー病協会国際会議が開催されました。
会議の初日であるこの日を「世界アルツハイマーデー」と宣言し、アルツハイマー病等に関する認識を高め、世界の患者と家族に援助と希望をもたらす事を目的としています。

厚生労働省HP/認知症の日/認知症月間(世界アルツハイマーデー/世界アルツハイマー月間)(令和6(2024)年度)

私の病院が所属する地域の自治体が【認知症シンポジウム】を先日開催し、地域連携型認知症疾患センターとして参加してきました。
そこで感じたことをお話したいと思います。


地域には元気な高齢者が大勢いらっしゃる

平日の午前から午後にかけて、お昼休憩を挟んで多くの方が参加されていました。
参加された方々が会場にいらっしゃる流れを考えてみたところ、かなりアグレッシブな方々だということに気づきました。

参加するには以下のステップを踏まなければなりません。
① シンポジウムの開催情報を得る。
―自治体がどのように広告を出したのか詳細は把握していませんが、おそらく『区報・市報のような広告媒体』『人が集まる公共施設での掲示』などと思われます。それを目にされた方から口コミで広がる可能性もあります。
つまり、こういった広告が目に触れる行動力が普段からある方々であるということです。
② シンポジウムの日時、場所を忘れずにカレンダーや手帳にメモをする。
③ 当日、シンポジウムがあることを思い出し開始時間に合わせて到着するには『何時に出発するか』『どうやって会場へ向かうか』など逆算して家を出発する必要がある。

そして何より【認知症に興味・関心がある】ということです。
他人事とは思っていない、もしくはすでに認知症に関わっているもしくは当事者であるなどのケースもあると思います。

みんなの関心は”予防”と”早期発見”

「できることなら認知症にならずに長生きしたい」
「早く見つけると薬で認知症の進行を止められると聞いた」

そんな思いの方が多いと感じました。

予防に関して

研究結果が徐々にでてきており今のところエビデンスがありそう、というものはこちら。

【運動】

―週3回、週2時間以上の運動がよいと言われています。具体的には1日30分程度のウォーキングを週4程度行うことで達成できます。

【生活習慣病(糖尿病、高血圧症、脂質異常症、肥満、脳卒中)のコントロール】

ー特に65歳までのコントロールが高齢になったときの認知症の発症に重要と現段階では言われています。

【社会的交流】

―退職後も人と交流できる社会活動を継続することがかなり重要です。
例えば、読書が好きな方は”読書×交流”として地域の小学校や図書館での読み聞かせボランティアに参加してみる、など自分の好きや得意を活かした活動が見つかると素敵だなと思います。
特に仕事一筋でこれといった趣味はない状態で頑張って来られた方は退職後の活動性の低下が顕著になりやすく認知症発症リスクが高い印象です。
自分の老後の生活も想像しながら仕事と並行してリフレッシュできる活動を見つけておくといいなと思います。
仕事のコミュニティーだけでなく地域や趣味のコミュニティーがあると現役時代も幅広く厚みのある時間を過ごせるのではないでしょうか。

注意

注意が必要なのは「この食べ物(サプリメント)を食べると認知症予防になるらしいよ」というのは確固たるエビデンスはありません。
食事に関してはバランスよく、楽しんで、交流しながらがよいとされています。
よく、”〇〇先生監修 認知症予防!”といったサプリメントなどが販売されていますが私はおすすめしません。こういったものはよく医師のバイトで掲載されており、同業としてあまりいい気分のするものではありません。
バランスのいい食事を摂り、軽い運動を継続するという基本的な生活習慣にはかないません。
結局、ダイエットも然りですが、地道なことを継続することが一番難しく効果があるんですね。

工夫

① 聴こえ

上記を成すために障害になりやすいのが”聴こえ”の問題です。
難聴は人とのコミュニケーション機会を減らす点で認知症発症のリスクを上げる要因だと思います。最近は様々なデバイスがあり昔ながらの補聴器以外にも聴こえを助けるものが出ています。早めに専門医受診をお勧めします。

② オーラルケア

8020運動をご存じでしょうか。80歳になっても20本の健康な自歯を残そうというものです。
口腔内の環境が乱れていると誤嚥性肺炎のリスクなど健康被害の可能性も高まるといわれています。
さらに噛むことは脳への刺激、顔面筋など表情作りにも重要であり、しっかりと噛めることで食事の楽しさを永く味わうことができるという意味でも重要です。
かく言う私も、嚙み合わせが悪いことに対して歯列矯正を始めます。
(いや、まだ始まってなかったんかーい!これについては別途、、)

早期発見

会場からこんな要望も出ました。
「もっと早く認知症と気づきたかった。」
「自治体の健康診断項目に必須で認知機能検査や脳の画像検査などを組み込んで欲しい。」

なるほど。
【認知症】も一つの疾患(病気)です。
他の病気と同じように、自覚症状が出る前から健診で分かるようにならないのだろうかというお気持ち、よく分かります。

早く認知症と分かることでのメリット、デメリットを克服していく必要がありそうだなと個人的に思いました。
病気に関しては早期発見に越したことはないと思います。

ただ、認知症の難しいところはまだまだ社会での偏見や先入観が強いという側面です。
もし、早期発見の取り組みとして例えば『65歳以上の国民は全員、2年に1回頭部MRIを撮りましょう』となったとしましょう。
そして器質的な変化があり認知症発症予備軍もしくは軽度認知症と判断された場合に、職場によっては業務内容を変更提案されたり、解雇に追い込まれたりなど、その健診結果がきっかけで心ない差別処遇を受けないだろうか。
それらが社会問題となり健診自体の続行が難しくなるなどの可能性が考えられるのではないでしょうか。

悲しいことですが、社会の認知症に対する理解や偏見はまだまだあると感じています。
【認知症】と診断される前と後ではその人自身が変わるわけではないのに、周りからの見られ方が変わってしまう事例は少なくないのが現状です。
”できること”に目を向けてもらえなくなり、”できない”ことが強調され自分でできることも「危ないから」とさせてもらえず、本人の「こうしたい」という思いよりも支援者の意向が優先される、そんな事例はたくさんあります。

【認知症】=分からない
と決めつけて欲しくないと思います。
その人自身は変わらないのです。
うまく表現できなかったり感情の変動や理解のスピードが遅くなって待たせてしまうこともあるかもしれない。
けれど、”支援”者にはもっと本人の想いを想像して欲しいと思います。

つい話が逸れてしまいました。
認知症の早期発見の難しさという課題は今後もっと露呈されてくると予想しています。

現時点では東京都の場合ですが、各自治体で【もの忘れ予防検診】というものが数年前から始まっています。
無料で受診でき、その後のフォローアップにもつながる機会なのでいかがでしょうか。

↑こちらは軽度認知症に関してとても分かりやすくたくさんの情報がまとまった冊子です。
最近の知見も載っているのでおすすめです。
みなさんが抱く疑問の答えもこの中に多く載っていると思います。

おわりに

私は日頃、入院が必要な重度認知症患者さんを診ることが多いですが、入院時にご家族とお話していて思うことがあります。

「もっと早く相談していいんだよ。」

”親の介護を子どもがする”
これは選択肢の一つにしかすぎず、自己犠牲にしてまで抱え込む必要はありません。
何より、認知症であるご本人は自分の子どもが疲弊していることを望んでいらっしゃると思いますか?
私は親であり、子でもあるのでどちらの気持ちも想像はできます。

「目が離せずに仕事に行けない。」
「指摘するとモノを投げてくるのでこちらもカッとなってしまう」

これは、SOSを出す必要がある状態です。
親子だからこそ冷静に判断できなくなるのでしょう。
子育ても介護もある程度の距離感が必要だと思います。
自己犠牲が必要になった状態は在宅介護の限界であり、通所や訪問、ショートステイなども検討して欲しいと思います。

「あなたは本当によくやっているわね。少し休んでいいのよ。」
この一言の声かけが必要だと思います。

入院時、こういったお話をして涙されるご家族は少なくありません。
(今まで張りつめてなんとか自分を保っていたんだな、、)
(介入が遅くなってごめんなさい。)
私もこんな気持ちになります。
介護者支援がまだまだ行き届いていないと感じます。

病院側は垣根を低く、門を広く「いつでもどうぞ」という体制を地域に浸透させなければならないなと日々思います。

最後までお読み頂きありがとうございました。

「たしかに~」「分かる~」「なるほどね」など『!』が一つでもあったら、是非”投げ銭”お願いします。更なるいい記事投稿に向けての勉強費に使わせて頂きます!