Nash The Slash – Decomposing (1981)
両親がコレクションするレコードをターンテーブルで回しながら、回転数を切り替えて遊んだ経験は?テクノの鬼才Nash The SlashことJeff Plewmanも、おそらく多くの子供と同様に無邪気なイタズラをした一人だ。しかし、彼が他人と違っていたのは〈どの回転数でも再生できるレコード〉を実際に作ってしまった点だ。
交通事故に見舞われた後にカナダのプログレ・バンドFMを一度脱退したPlewmanは、自前のレーベルであるカット・スロートで、ロックに裏付けされたシンセ・サウンドの可能性を果敢に追求していた。33回転、45回転、78回転いずれのRPMにも対応したこの奇抜なレコードは、まるでJohn Cageフォロワーのようにすました知的なジャケットに身を包んでいる。アルバムでは一貫して人声を排しインスト・エレクトロに徹することで、どの回転数でも破綻しない音を作ることに成功した。
リスナーはまず1曲目の「The Calling」の中で、33回転ではヴィブラフォンの音に聴こえたサウンドが78回転ではまるでオルゴールの音色のように聴こえる、という発見に出会う。2倍以上のスピードでせわしなくビートが刻まれる妙な愉快さも印象的で、思わずRPMのスイッチを切り替えたくなるはずだ。暗いダークウェーブのビートと中期Kraftwerkを行き来するような「Womble」は特に有名で、アナログ愛好家やシンセウェーブ・ファンの語り草となっている。
CDではそれぞれの回転数を再現したトラックを個別に収録することで、Plewmanの遊び心に対応した。『Decomposing』は知的なユーモア、良質なポップさ、そしてミニマリズムの魔力に溢れている。その後も断続的にFMへ参加した彼は、バンドの作風に特徴的なエレクトロのエッセンスをもたらした。