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Crystal Castles – Crystal Castles (II) (2010)

 Crystal CastlesはAlice Glassの自在なボーカルをフィーチャーし、チップチューンが単なるノスタルジーにとどまらない大きな可能性を持つジャンルであることを証明した。彼らの発表する新作は当然誰もが待ち望んでいたものだったが、2010年代に入ると新作アルバムのドロップとインターネットの関係はますます切っても切れない状態になっていた。『Crystal Castles (II)』は心ない者によるリークの影響を受け、発売日が前倒しになるという騒動に見舞われている。
 「Fainting Spells」のハードコア・ビートで殴りつけた後に「Celestica」で多幸感を浴びせかける展開はリスナーの想定通りだったかもしれないが、パンク・バンドを模したサウンドの「Doe Deer」の登場は全く予測不可能だ。Stina Nordenstamを引用した「Violent Dreams」と「Vietnam」のセットには深い言葉の示唆が含まれ、一転して「Pap Smear」では比類のないポップ・センスを提示しているのも、器用な彼らの才能の成せる業と言える。「Not In Love」でボーカルを執るのは80年代のカルチャーを代表するシンガーRobert Smithであり、Platinum Blondeの原曲に緊張感のあるアレンジを施して本作に一層の複雑さを与えた。
 『Crystal Castles (II)』は前作ほどレトロゲームの世界観を想起させることはしないが、歪んだポップさと毒を孕んだサウンドのコントラストはより明瞭になった。だがそれは決して視界が開けたという意味ではなく、Crystal Castlesの抱える闇の深さが一層際立って表出したと言うべきだろう。