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英語論文を書くために「理科系のための英文作法」を参考にする

英語論文の書き方を伝えようとする本は数多いが,本書の特徴は,数理工学を専門とする著者が,安全な英語を書くための規則を論理的に解説している点にある.そのために,文章の読みやすさに影響を与える要因を,様々な「仮説」として提示しているところが面白い.「○○しなさい」に納得して従える人はそれでいいが,「△△なので○○すべきである」と言われないと納得できない私みたいな輩には本書の書き方はとても良い.まさに,理科系人間による理科系人間のための英語論文執筆指南書と言える.

杉原厚吉,「理科系のための英文作法―文章をなめらかにつなぐ四つの法則」,中央公論社,1994

先に紹介した「理科系の作文技術」と併せて読むと,日本語の文章も英語の文章もうまく書けるようになる.もちろん,書いてある内容を実行すればの話だが.

副題「文章をなめらかにつなぐ四つの法則」にある通り,本書は文と文の正しい繋ぎ方に焦点を合わせている.つまり,1つの孤立した文(大文字からピリオドまで)を正しく書く方法ではなく,文と文を繋いで全体を読みやすくするためにはどうすべきかが書かれている.このため,最低限の文法の知識は既に身に付いていることが前提である.

学生や共同研究者が書いた英語論文の赤ペン先生を大量にしていると,まず気になるのが,スペルミスや初歩的な文法間違いである.このレベルのチェックはワープロソフトでもしてくれるので,本人の自覚の問題である.だから,「ふざけるな」と言って突き返す.このレベルをクリアした人達が,まさに本書の対象読者だろう.1つ1つの文は間違っていないが,文章として読みにくかったり,不自然だったりするというレベルだ.

本書が示す「四つの法則」というのは,
1)話の道筋に道標を,
2)中身に合った入れ物を,
3)古い情報を前に,
4)視点はむやみに移動しない,
であり,それぞれが1つの章に対応している.

例えば,「話の道筋に道標を」では,接続詞や副詞を道標としてできるだけ利用して,話の流れを良くするための方法が示されている.英文を添削していると,やたらとhoweverを使う人や,やたらとthereforeを使う人がいることがわかる.いや,そこ,全然howeverじゃないでしょうとか,そこに因果関係ありませんよねとか,そういうことが気になる.読みやすい文章を書くためには,文章の流れにもっと気を配る必要がある.

中身に合った入れ物を」では,文や文章が階層構造を持つことに着目して,語句と語句との繋がりや文と文との繋がりの強さを意識して,並べる順番や書き方を決める必要があると説かれている.読みにくい,わけがわからない文章を書いてしまう人は,ここで述べられているような,文や文章の構造を強く意識する必要があるだろう.

古い情報を前に」では,文中に既出の言葉と新出の言葉が登場する場合に,既出の言葉が先に,新出の言葉が後に配置されるべきという規則が示されている.文章を自然に読み進められるためには,つまり文章をなめらかにつなぐためには,その方が良いからである.

視点はむやみに移動しない」では,それぞれの文の視点(その文における主人公)がコロコロ変化するような文章は読みにくいと指摘されている.例えば,実験者と被験者が登場する文章を書く場合,一貫して実験者の立場で書くか,一貫して被験者の立場で書くか,いずれかにすべきということである.英文法で習う分詞構文にも主語の一致という原則がある.これは読みやすい自然な英文にするために必要な規則だが,疎かにしている日本人は多いと感じる.

本書には,「四つの法則」に対応する4つの章に加えて,「動詞が支配する文型」という章がある.この章では,不自然な英語表現を避けるために,鋭い感覚に頼るといった無理ゲーを強いるのではなく,文型を利用して機械的に実行する方法を推奨している.そのために持っておくべき辞典として「オックスフォード現代英英辞典」が紹介されている.(注:最新版は本書中で引用されている版と異なる)

英作文に使うという観点で英英辞典や英和辞典を選ぶときには,可算名詞と不可算名詞を丁寧に区別してあるものがよい.そうすれば,不定冠詞a/anを付けるべきかどうか,複数形があるかどうかがわかるので,ミスを減らすことができる.

私も英作文が苦手なので,自分が苦労してきた経験を踏まえて,英作文初心者に繰り返し言うのが,「安全確実な英文を書くように」ということだ.正しいかどうかわからない文章を書くのではなく,これなら正しいはずという文章を書く.

日本人が苦手なものに前置詞の使い方があると思うが,それも含めて,繋げられる単語の組み合わせ,繋げられない単語の組み合わせがある.この動詞の後に,この前置詞は使えるが,この前置詞は使えないとか,この名詞に,この形容詞は使えるが,この形容詞は使えないとか,そのようなルールを自然に身に付けるためには,英文を大量に読んで感覚を養う必要がある.しかし,連語(collocation)辞典を使えば,大量の例文から,使っても大丈夫な単語の組み合わせがわかる.

このような辞典を地道に活用して,美しくはないかもしれないけど,間違っておらず,確実に伝えるべきことが伝わる英文を書くことは重要だと思う.本書でも「安全第一」に英文を書くことの重要性が繰り返し強調されている.

本書「理科系のための英文作法」は,薄くて読みやすく,独特の視点から自然な文章を書くための方法を示しており,さらに言えば,英作文だけでなく日本語の作文にも活用できる方法を示している.少なくとも理科系で論文を書く必要があるなら,一度は読んでおいて損はしないだろう.

研究室の課題図書にしているため,うちの学生は全員読んでいるはずだ.既に5冊購入している.

文章を上手に正しく書けるようになるために,読むことをお勧めする書籍を挙げておきます.

<日本語文章の書き方>
木下是雄,「理科系の作文技術
本多勝一 ,「新版・日本語の作文技術
自分の直感だけで上手に文章を書くには限界があります.文章を書くためのルールを知ることが上達への近道です.そのルールをわかりやすく示してくれているのが,例えば,この2冊です.

<英語文章の書き方>
杉原厚吉,「理科系のための英文作法―文章をなめらかにつなぐ四つの法則
W. Strunk Jr. & E. B. White,"The Elements of Style, Fourth Edition"
"The Elements of Style"は国際的ベストセラーで,アメリカでも多くの大学生が読むように言われます. とにかく一回目を通しておくといいでしょう.ただ,本来の内容ではなく,補足や演習といった内容の本も多数あるので,入手するときには注意しましょう.

© 2020 Manabu KANO.

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