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てんかん発作時、眼振で焦点部位の同定

#最近の学び

最近、noteなどのプラットフォームで若い臨床医の方々が積極的に知識を吸収しようとする姿に驚かされました。多くの医師が勉強会を立ち上げたり、自ら情報を発信したりと、学びの形がとても活発で多様化しているのです。

私が若手だった頃を振り返ると、インターネットやSNSはもちろん存在せず、学びの場といえば大学の図書館での文献検索か、指導医の言葉に頼るしかありませんでした。指導医が何を言ったかを一言一句逃さないように覚えることが、知識を身につける唯一の手段だったのです。

一昨日、その中の一つである下記の勉強同好会の記事をみて在宅医療現場でもてんかんで悩む医師が多く、やはり難しい症候群だと改めて感じました。

在宅医療における発作対応の課題と対策

在宅医療やケアセンターでは、EEG(脳波計)などの設備が整っていないことが一般的です。そのため、発作が起きた際の第一の目標は発作を速やかに止めることになります。ただし、発作の原因や焦点が不明な場合、現場で可能な治療法は限られています。

ジアゼパムによる初期治療

一般的には、ジアゼパムの静脈注射(IV)が選択されることが多いです。しかし、以下のような現場特有の課題があります:

  • 往診時の課題: 在宅医療でIVセットを持ち歩くのは現実的に難しく、準備や対応に時間がかかることもあります。

  • 冬季の補液リスク: 冷たい補液を使用することで体温低下などのリスクが生じる場合があります。

そのため、在宅医療ではジアゼパムを「ショット」として速やかに投与し、発作を止めることが第一選択となる場合が多いです。ただし、ジアゼパムは作用時間が短く(約20~30分)、発作が再発するリスクが高いため、迅速に医療施設へ搬送することが必須となります。

再発防止のための追加治療

重篤な場合、発作を一時的に止めるだけでなく、再発を防ぐための対策が必要です。この際には、作用時間が長い第二選択薬が重要な役割を果たします。具体的には以下の薬剤が挙げられます:

  • ホスフェニトイン

  • バルプロ酸

  • レベチラセタム

これらを静脈注射で追加投与することで、発作の再発リスクを抑えることができます。

在宅医療において患者がてんかん発作を起こした場合、眼振の観察は発作の焦点(発作の起点となる脳の部位)の同定に限界もありますが、ある程度役立つ場合があります。
実際お隣り韓国では、結構眼振診断が使われています。

1. 眼振と脳の関係

眼球運動は、前庭系(内耳)や脳幹、小脳、大脳皮質の特定領域に依存しています。これらの領域に関連する異常は、眼振を引き起こす可能性があります。

  • 側頭葉てんかん: 側頭葉(特に後内側側頭葉)の発作では、眼振や眼球偏倚(目が一方向に固定される動き)が観察されることがあります。これは、側頭葉の活動が視覚や運動制御を含む神経経路に影響を及ぼすためです。

  • 後頭葉てんかん: 後頭葉発作では、視覚症状(光の点滅、視覚の欠損など)とともに、眼振や不規則な眼球運動が現れることがあります。後頭葉が視覚処理に直接関与しているためです。

  • 脳幹てんかん: 脳幹(中脳、橋、延髄)が関与する発作では、複雑な眼球運動異常が生じることがあります。これには垂直眼振や回旋性眼振が含まれます。

  • 前頭葉てんかん: 前頭葉の発作は、眼球運動の強制的な偏倚や速い動き(眼球の「サッカード」運動)を伴う場合があります。


2. 眼振の特徴と発作部位の関係

眼振の特徴は、発作が起きている部位の手がかりを提供することがあります。

  • 方向性: 眼振が一方向性の場合、その方向が発作部位に関連することが多いです(例: 右方向の眼振は左半球の発作と関連する可能性)。

  • 持続時間: 短時間の眼振は皮質起因の発作に多く、持続する眼振は脳幹や内耳系の影響を示唆することがあります。

  • 速度: 眼振の速さや周期性も、特定の脳領域の関与を示唆する場合があります。


3. 診断における限界

眼振は診断の一助となりますが、以下の限界があります。

  • 非特異的な症状: 眼振は、てんかん以外の神経疾患(脳卒中、めまい症候群、脳腫瘍など)でも見られるため、特異性が低いことがあります。

  • 補助的情報の必要性: EEG(脳波)やMRI/CTなどの画像検査を併用しないと、正確な部位の同定や診断は困難です。

  • 観察のタイミング: 発作中の眼振を正確に観察することが難しい場合があり、持続する眼振や発作後眼振の観察が重要です。


4. 実際の臨床での活用

  • ベッドサイド評価: 発作中または直後に眼振を観察することで、迅速な病態評価が可能です。

  • 動画記録: 発作時の眼振をビデオで記録し、後日専門医が解析することで、診断の手助けとなります。

  • 神経学的評価と併用: 発作後の神経学的評価(例: 眼球運動の評価や反射の確認)と組み合わせることで、病態をより正確に把握できます。


5. テクノロジーの活用

近年では、以下のような技術を活用することで、在宅医療での眼振観察や焦点同定の精度を向上させることが可能です。

  • ウェアラブルデバイス: 発作中の眼球運動を記録するメガネ型デバイスやカメラ。

  • AI診断システム: 動画記録から眼振やその他の特徴を解析して焦点を推定する技術。

  • InsightXの活用: 在宅医療システムに組み込むことで、患者の発作データをリアルタイムで収集・解析可能。

6.そのた眼振の参考資料

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1059131122001844/pdfft?md5=e77d91a155341335e6e2f535168fbf9a&pid=1-s2.0-S1059131122001844-main.pdf

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