見出し画像

早期教育は逆効果?能力を引き出すアプローチとは

先日(2024年12月13日)、『幼児期の先取り教育は逆効果だった…「小学校4年生で成績は逆転する」』と題した記事(著者:中内 玲子 先生)がPRESIDENT Womanに掲載されました。知育に取り組んでいる方にとっては一石を投じるようなタイトルでしたので、私なりに内容を解釈し考察してみたいと思います。

幼児期から読み書きや算数などの早期教育を行う家庭が増えている。しかし、アメリカ シリコンバレーの日英バイリンガル幼稚園「そら幼稚園」の創立者・中内玲子さんは「先取り学習で、子供の能力を伸ばすことはできない。ある研究では、幼稚園でアカデミックな教育を受けてきた子供が小学4年生になる頃には、そうじゃない同年代の子供と比べてテストの点が低く、特にリーディングや数学のスコアが低かったと言う――。

出典:PRESIDENT Woman コラム「親なら知っておきたい早期教育の意外な弊害」当該記事
https://president.jp/articles/-/89125

この記事では、「1970年代にドイツで行われた大規模な比較調査」の研究についての論文を引用したピーター・グレイ教授の文献を参照して、以下の点について指摘しています。

  • 早期教育が思ったほど有益ではない

  • それだけではなく長期的に見ると早期教育が弊害を引き起こす可能性

  • その弊害は、特に社会的・感情的な発達の領域に見られる


早期教育の弊害を示唆したドイツの研究

この1970年代にドイツで行われた研究とはどのようなものなのでしょうか。文献に当たったところ、アカデミックな教育(従来であれば小学校で学習する内容を幼稚園で行うということ=早期教育)を導入したの50園の幼稚園(主に小学校付属機関)の卒園児と、それを導入していない自由な遊びを中心とした保育を行っている50園の幼稚園の卒園児を追跡比較した大規模調査であることがわかりました。

この研究の目的は、当時の冷戦時代の西ドイツにおいて、政治教育を強く推進する東側に比べて幼稚園設置数が著しく少なかったという背景もあって、国力高揚のため1970年にドイツ教育審議会が「教育に関する構造計画」を策定し、就学前の幼稚園での学びから学校教育へスムーズに移行するために早期教育の重要性を強調したことに端を発します。当時の西ドイツの幼稚園の多くは、フレーベルの影響を受けた福祉色の強いものとなっており、基本的に幼稚園での活動は自由な遊びが中心でした。そこで、幼児に早期教育を施して基礎的な学力の底上げを図ることが国力強化につながるという発想に至ったわけです。

結論としては、小1時点では早期教育を施したグループの方が概して成績が良かったものの、これらの利点は小学校中学年以降には薄れてきます。小4時点では遊びを重視したグループの方が成績が良くなり、特にリーディングと算数ではその差が顕著でした。さらに、長期的には、遊びを重視したグループがより優れた共感力自己調整能力の発達や、社会的適応力も高く、青年期以降の行動問題が少なくて他者との関係性が良好であることが見られました。

この研究結果を受けて、西ドイツ政府は幼稚園の早期教育機関化を撤回し、従来通りの遊びを中心とした幼稚園運営を推進する方針に教育政策を転換することとなりました。

幼児教育は逆効果!?

さて、この研究により早期教育には特に社会的・感情的な発達面で弊害を起こす可能性が示唆されました。しかし、この研究をもってして幼児教育そのものを否定するのは早計です。以下に私の考えを示します。

1. 幼児教育=早期教育ではない

まず、幼児教育と早期教育という概念について定義します。いずれも未就学児に対する教育である点は同じですが、その内容は異なります。

  • 早期教育:読み書きや計算など特定のスキルや知識をできるだけ早い時期に身に着けさせる目的で行う教育のこと。先取り教育。

  • 幼児教育:必ずしも読み書きや計算などのスキルを教えるわけではなく、非認知能力(知能検査や学力検査では測定できない、心や社会性に関する力)を重視する傾向にある教育のこと。

つまり、幼児教育と早期教育はイコールの関係ではなく、共通する部分はあっても完全な包含関係ではありません。ドイツの研究はあくまで「早期(先取り)教育」の弊害の可能性について言及しているのであって、幼児教育が逆効果と言っているわけではない。『幼児期の先取り教育は逆効果だった』という記事のタイトルはややミスリーディングだと言えるでしょう。

2. 社会性や情緒面での発達に悪影響が出た理由

加えて、ドイツの研究では、社会性や情緒面での適応度も早期教育を施したグループの方が低いという結果が出ています。研究の詳細にアクセスすることができなかったため想像の範囲ですが、「個々の子どもの特性」に配慮することなく、一律に早期教育をすすめたことで、一部の子どもに過剰な負荷がかかった可能性が考えられるのではないでしょうか。

一般的に、学業重視型のプログラムは、子どものストレスや行動問題の増加と関連付けられることが多いです。特に、幼少期における遊びや感情学習の機会が減ることが原因と考えられています。早期教育に適応できない一部の子どもにとっては、こうしたストレスが発達に悪影響を及ぼしたと考えられます。

3. 早期教育はデメリットだらけ?

早期教育には本当にデメリットしかないのでしょうか。私は、子どもの興味や関心を広げる可能性という点でメリットもあると考えています。幼児期の脳の成長は著しく、知識をどんどん吸収することができます。別の言い方をすれば、子どもが興味があることに対して適切に知識を与えることができれば、子どもの才能を驚異的に伸ばしてあげられる時期だということです。

親の心得として大切なのは子どもをよく見ること

  • 子どもに負担がかかっていないか

  • 子どもは楽しそうにしているのか

  • 親が期待をかけすぎていないか

これらを意識しながら子どもを観察しても、子どもが無理なく楽しんでいるのであれば、いわゆる早期(=先取り)教育であってもそれはその子にとっては「適期」教育であるといえるでしょう。

モンテッソーリ教育の言葉を借りるのであれば、子どもの「敏感期」を見逃さないこと。敏感期が来た!と思ったら適切な働きかけ(環境を整えたり声かけを工夫したり)をすることにより、子どもがその能力を最大限に発揮できるようにしましょう。敏感期が早く来たことで結果的に一般的な適齢より早くある物事を習得したとしても、相対的には早期であってもその子にとっては「適期」になります。

早期なのか適期なのかの違いは、「子どもに無理がかかっていないか」という観点が重要です。親が興味の種まきをする時期が早いこと自体が悪いわけではありません。子どもにとっての適切な時期を見極め、子どもの様子に応じて教育のアプローチを変えていくことが大切になってきます。

4. 幼児教育で重要視される非認知能力

ただし、「非認知能力」を育むことが大切で、それは遊びを通して身についていくということが記事の中で「本当に必要な早期教育」として紹介されていましたが、この点については完全に同意見です。

非認知能力とは、思考方法・物事に取り組む姿勢・行動など、日常生活・社会活動において重要な影響を及ぼす能力のことです。自己肯定感・やる気・忍耐・自制心・協調性など、数値では測れない能力が含まれます。これらの力を身につけることを意識しながら取り組むことで、親が子どもを尊重し、無理なく適期教育を実行する姿勢に間接的につながると考えます。

非認知能力を高めるために、自戒を込めて以下のようなことに気を付けていきましょう。

  • できないことを責めない

    • 大人の判断基準で考えないようにする

    • イライラしたり声を荒げたりしない

  • 他の子(友達や兄弟)と比較しない

  • 結果だけでなくプロセスも褒める

  • 口出しや手助けをしすぎない

適期教育を心がけよう!

今回は、ドイツで行われた遊びを重視した幼稚園と早期教育を重視した幼稚園の比較研究について言及した記事を題材に、幼児期に教育することによる子どもの認知的、社会的、情緒的な発達や学業への影響などについて考えてみました。

子育てや教育には本当の意味での正解はなく、先達が様々な試行錯誤を重ねてきた上に成り立った方法を論じることも大事ですが、子どもと向き合う親自身がどれだけ子どもの可能性を引き出す行動ができるかがとても重要になってきます。子どもが興味を持っているときに、適切にアプローチする「適期教育」をできるかどうかがキーになります。

最も大切なのは子どもが幼児期を楽しく過ごせること。子どもにストレスがかかる方法での早期教育はドイツの研究にあったような弊害になりうるでしょう。しかし、その子にとっての適期なのであれば早期教育は必ずしもデメリットにはならないと考えます。子どもの様子をよく観察してみてください。遊びを通して身についていく非認知能力も大切にする心構えは、適期教育を重視する親の姿勢に間接的につながっていくことでしょう。

では!あゆより『早期教育は逆効果?能力を引き出すアプローチとは』をお届けしました。「スキ」「フォロー」「シェア」していただけたら励みになります!最後までお読みいただきありがとうございました!


いいなと思ったら応援しよう!