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評判最悪のスバルの車を買ったら奥深い1台だったぞって話

 パートナーが免許を取ったという事を口実に約1年半ぶりにクルマを買いました。

 今回はそのクルマの話をします。

 久々に趣味全開の記事になりますので、専門用語が出てくると思いますのであしからず…。


 買ったクルマはスバルのインプレッサです。

 型式で言うとGH3と呼ばれる排気量1.5リットルエンジン搭載の4WDのモデルになります。

2010年式 インプレッサGH3型
デザインはアンドレアス・ザパティナスという
イタリア人の方が手掛けました。
サイドの1本線のプレスラインが特徴ですね。

 何とこのインプレッサ君、5速MT車です。

意外とフツーなシフト操作感です。
もっとスバル車ってゴリゴリとした感触のイメージがありました。

 と、言うのも元々私一人で軽自動車とネオクラシック車に片足突っ込んだワゴン車の2台持ちだったので、どちらかをパートナーにしばらく貸そうと思っていたのですが、免許を取得して向こうから一言

『せっかくMTで免許取ったなら、MT車に乗りたい』

と言い出したのです。手元にMT車はありません。それから約半年間4WDのMT車の普通車という条件で知り合いに探してもらってようやく出てきた一台です。

 ちなみに走行距離は約13万キロ、乗り出し金額はネオクラシックワゴン車の下取りを含めて40万円弱でした。

 一昔前はカローラやサニーと言ったコンパクトセダンのMT車が大量にあったと記憶していますが、ほとんどが海外に輸出されたらしく、日本国内におけるMTの普通車の中古車と言うのはかなり希少になり、中古車屋さんも車探しに苦労したようです。時代ですね。

 余談ですが、このインプレッサ、購入時よりマフラーとサスペンションが変わっていましたので、ノーマル状態のレビューではありませんのでご注意ください。


 さて、クルマを買ったら納車までひたすら試乗記やレビューを読み漁るのが車好きと言う生き物です。

 と、言いますか、今回私が購入したGHインプレッサの下位グレードに当たる、排気量1.5リットル搭載車について仕事がてら評判を調べても良い記述が少なかったんですよね…。

  • 世界一遅い1.5リットル車

  • 遅いオマケに燃費も悪いので中古車相場が安い

  • 5MTのミッションはTY75系と呼ばれる故障率が高い通称"ガラスのミッション"を搭載しているので壊れやすい

 主に動力性能に関しての苦言が多数でしたが、まとめるとこんな評価しか目に入りませんでした。

 一方で、ちょっとマニアックなスバルファンの方はこの1.5リットルの5MT車を異様なまでに高く評価しており、言ってしまえば評価が両極端な車種でもありました。

 じゃあ実際乗ってみてどうなのか、と言いますと

 正直、本当に非力です!!

 普段軽自動車に乗っている私でも、思わずこの感想が真っ先に飛び出しました。一般道で信号からの加速はほぼアクセル全開です。それでやっと交通の波に乗れる感じです。60km/hまでスピードを出せばあとはトルクで走れますが、クルマの重さに対してあまりに非力すぎる…そんなフィーリングです。

 ここで車重とパワーを確認しましょう。 

車重1300kg
最大トルク14.7kg/m
最大出力110馬力

 一昔前のミニバン並みの車重なのに、一昔前のミニバン以下のパワーです。通りで加速しない訳です。納得です。

 逆に前評判通り過ぎて安心しました。これ程までにパワー感が無いと、今の時期は凍結路でも滑りにくくて安心です。試しに1速でアクセルをベタ踏みしても、先にスタッドレスが氷の路面を食ってくれます。まるで240時代のボルボの設計ようです。あのクルマも、アクセルやハンドルと言う動作がワンテンポ遅れるような感覚があるのですが、それはスウェーデンと言う雪国において、急発進急ハンドルという動作が危険であるが故の安全を優先したが故の造りです。そう考えると、インプレッサの動力性能の鈍重さはある種の安全装置と開き直った考えにして良いのかも知れません。

 インプレッサに乗っていると、ハンドルの操作感が気持ち良い事に気がつきました。

 ハンドルを切った瞬間に、クルマの鼻先がスパッと入り込んで曲がっていくような感覚があります。タイヤのグリップ力が瞬時にシャシーに伝達され、その力がボデー全体に行き渡り車全体が筋肉の様に構成されて曲がっていく感覚です。ワインディングのみならず、その辺の交差点の曲がりでも気持ち良いフィーリングです。

既に私物が散らかったお見苦しい内装です。
豪勢さはありませんが、無駄な物が無く
飽きの来ないデザインと言えます。

 普段私は軽自動車を日常の足として使っていますが、曲がる時はほとんどタイヤのゴムのしなり(グリップ力)をメインに曲がっていると感じます。足回りといったシャシーやボデーが後から付いてくる感覚が常にあります。従って、荷重移動が最後にドライバーに伝わって首や上半身が揺さぶられます。軽自動車が運転して疲れると言うのは、タイヤ・シャシー・ボデーの一体感に欠ける事により、ドライバー自体が体を揺らされる事から来ていると私は考えます。

 人間で例えましょう。

 陸上トラックを一周全力で走って下さいと言われたら、私のような運動音痴は、コーナーを曲がる時に足(靴)に頼り切って上半身は立ったまま高い重心で走りがちです。足も体もチグハグな動きになり速くも無く、ただ疲れてしまいます。一方で、アスリートの方は重心をグッと低くして、コーナーでは体全体を内側に傾けて足だけでは無く、体全体で曲がりますよね。

 つまりインプレッサは1.5リットルの低いグレードにすら"スポーツ・アスリート"を感じるのです。

 どうしてこんなにも運転していて気持ちいのかを考えます。

 重量配分とエンジンとミッションのバランスの良さと言う結論行き着いたのです。

 インプレッサを真横から見てみましょう。

現行型インプレッサの源流ともいえる
ロングノーズショートデッキなスタイリングです。

 ちょっと分かり辛いのですが、車を横から見た時にほぼ真ん中に運転席があります。

 重量の配分というのは自動車開発において重要なファクターです。
前後左右の重量バランスが50:50に近ければ近いほど理想とされています。

 そして自動車における重量物というのは"エンジン・ミッション・デフ・運転者"です。インプレッサの場合は伝統的に"縦置きエンジン"を採用しています。

 これはエンジンとミッションの並びを自動車を上から見た場合、縦に並べた構造です。こうする事により、左右対称にシャシー構成部品を配置する事が可能となり、左右の重量バランスを均一(シンメトリー)に出来ます。

 逆にエンジンとミッションをボンネット内に横に並べた構造は“横置きエンジン“と呼ばれ、昨今の自動車開発ではコチラの方がボデー室内を広く作れる為に一般的です。

 インプレッサの場合は前後の重量バランス50:50に近い状態であり、さらにその中心に近い部分に運転席を置いた構造をしており、自動車においてはかなり理想的な配分です。この構造を踏まえてこの車を見ると、前後左右の軸に近い部分に重量物のドライバーが鎮座する形となります。走る・止まる・曲がるの動作の中心にドライバーが存在している、これが気持ちの良いコーナリングの要因の一つだと思いました。

シート構造も、最近の日本車にありがちな
"ただ硬いシート"では無く
表皮生地に張りを持たせたメリハリ感のある
シートでした。
シートの黒い部分が固く作られており
ホールド性も良く
気持ちの良い操作感に一役買っています。

 さらにスバルの伝家の宝刀、水平対向エンジンは車両の低重心化に多大な貢献をしています。このインプレッサも型式がEL15と呼ばれる1.5リットルの水平対向エンジンを搭載しています。

 このエンジンがまた良いんです。

 非力非力と今まで言っていましたが、エンジン音(排気音)は『ドドドド…』とボクサーサウンドが健在で、尚且つ実用回転域から上の3000rpm以降からはトルク感も増す特性となっており、ピリッとパンチ力があります。レッドゾーンは7000rpmからとなっており、自然吸気エンジンらしくスムーズにエンジン回転が吹け上がります。決して速くはありませんが、小生意気にドライバーをシートに押し付けてきます。

視認性の良いメーターです。
この辺の車種としては珍しく
メーターのバックライト光度も調整可能です。

 私が最もこのエンジンで美味しいと感じるのは、5速で1900rpm付近です。ドドドドド…と言うボクサーサウンドが、まるで生き物の脈のよう心地よく響き、それでいて平坦な道路なら60km/h付近で走れるので、安心安全な速度域で最も水平対向エンジンの美味しい所を味わえるという、実にドライブが楽しくなるエンジンとトランスミッションの相性となっています。非力だからこそ、適時適正なギヤ選択が求められるというのは、決して速い速度で無くても"運転している"という意識をより強く楽しい経験にさせてくれます。
 ドライバーの操作一挙手一投足がボクサーサウンドを通じて、耳のみならずハンドル・シート越しに伝えられ、クルマとの会話のように運転が出来ます。

 さらに、1.5リットルクラスとは思えない重低音なエンジンサウンドなのでもっと車格が上の車種に乗っているよう錯覚にも陥らせてくれるのですから、実に奥深いエンジンとミッションの相性です。

 100km強のドライブ(主にバイパス道・主要幹線道路)で燃費は14.8km/lです。

 この手の据え置き燃費計は"良いように"表示されがちですから14km/l弱がリアルな数字と考えても良いでしょう。それにしたって上出来です。この年式のこの排気量のコンパクトカーなら及第点、水平対向エンジンなら低燃費言っても過言では無いでしょう。

  • ドライバーと車体の一体感を感じれるスポーツマインドに溢れるシャシ特性

  • 自然吸気エンジンらしい吹け上がりの良さ

  • スピードを出さなくてもボクサーサウンドが愉しめるエンジン

  • 14km/lという特筆する程悪い訳でも無い燃費とレギュラー仕様という経済性の良さ

 100kmほどのドライブですっかり私はインプレッサGH3型の魅力に魅了されてしまいました。

 この動力性能と鼓動感はミドルツインのバイクに近い感覚です。


 魅力に気付いたところでこのGH系インプレッサについて改めて調べます。

 実はこの型のインプレッサ、搭載されるエンジンが5種類あります。

  • EL15型エンジン(1.5リットル自然吸気エンジン)

  • EJ204型エンジン(2リットル自然吸気エンジン)

  • EJ20X型エンジン(2リットルターボ付きエンジン260馬力仕様)

  • EJ207型エンジン(2リットルターボ付きエンジン280馬力仕様)

  • EJ257型エンジン(2リットルターボ付きエンジン308馬力仕様)

 エンジン種類が下に行くにつれて、高出力且つ過激で、レースやラリーと言った自動車競技をも視野に入れたよりスポーティな特性になります。

 実はこのGHインプレッサ、私が今回購入した最もベーシックな1.5リットルエンジン搭載車から308馬力仕様のモデルまで、補強や足回りの強化は入ってるとしても基本的なシャシーは共通なのです。

 言ってしまえば、私が今回購入したインプレッサは"308馬力に耐えうるシャシーに110馬力が乗っかっている仕様"です。

人間で例えれば"美術部に入った大谷翔平"みたいな世界観でしょうか。通りで"足が良い"訳です。

 それもそのハズ、インプレッサはこのGH型からフォルクスワーゲン・ゴルフと言った欧州コンパクトカー勢をも視野に開発されたワールドワイドなモデルとなったのです。現行型インプレッサの源流とも言えるでしょう。

 きっと当時のスバル社内でも、このインプレッサの開発は相当力の入っただというのは容易に想像できます。

 もっとも、最初に書いた通り私が今回購入したインプレッサは足回りとマフラーは社外品が組まれていましたから、純正状態だとナヨナヨとしたシャシーで拍子抜けするようなサウンドを奏でていたのかも知れません。

 しかし、サスペンションとマフラーを変えただけで、ここまで奥深いクルマになるというのは、元の素性の良さの表れでもあります。ある種、このパーツ一つで素性の変わる感じは旧車的でもあります。

 しかし"インプレッサ"と言うネームバリューでこの車種を買うならば、モータースポーツのイメージが先行しますから、もっと上級グレードのスポーティなエンジンを搭載したモデルを購入します。そう考えると、実際に最もベーシックな1.5リットルグレードのインプレッサを購入する層が、走りやサウンドと言った感触的な部分をどこまで気にするのでしょうか?そこの考えに行きつくとこのGH型インプレッサの低い評価が多い理由も明白です。そして、一部のマニアに異様なまでに高評価な理由も頷けます。 

 素うどんのような魅力を持ったクルマなのです。

 うどん屋さんに行って、天ぷらうどんと素うどんがあったら皆さんはどちらを選びますか?そういう話です。

 このGH型インプレッサのような造りを現行車種でもされているのかは定かではありませんが、この車のオーナーになった事により私はスバル車に対する興味が深まるばかりとなりました。

 さらには、運転の楽しさや、運転とはどうあるべきか、クルマを楽しく操作するにはどうするべきなのか、或いはどう造られているべきなのか、と言うのを学ぶ良い機会をこのインプレッサは私たちに提供してくれたのです。

 GH型インプレッサを総評するなら、レギュラー仕様で燃費もそこまで気にする事なく"スバル節"を味わうなら最高に近い選択をしたと、今なら胸を張って私は言えます。

 前評判の低いスバル車を買ったら、あまりに奥深いクルマ過ぎて、スバルそのものの沼にハマりそうな予感がしている程にです…。

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