グランツーリスモ
まあ当初はそこまで期待してなかったというか、俺の好きなニール・ブロムカンプが監督やってなけりゃ多分アマプラに来ても観ていたかは微妙であった。
予告編も目を通してはいたがそこまで期待値は上がらず、まあただ流れに任せるままに「ブロムカンプが監督やってるし行くか」てなノリで劇場へと足をはこんだ。
そして飛び上がった。
アクセルを踏み、クラッチを切り替え、車の内部構造を映し出し、ぐるぐる回るスクリーンの中で爆走する日産。そんな目まぐるしいカットの切り替わりが俺を大層エキサイトさせた。さらに王道を行く主人公のサクセスストーリーと師弟関係(この作品の実質的ヒロインは主人公の彼女ではなくおっさんです。間違いなく)がたまらん。
元々陸上部という競争の要素が強い部活に所属していたためにこうしたレース要素にはついつい入れ込んでしまうことを抜きにしても、しっかりとエンタメエンタメしてて「ああ、ニールってこんな映画作れたんだなあ」と(失礼ながら)ひどく意外に思った。冴えないゲーマーがリアルのレースで表彰台に立つという日陰者の夢みたいなストーリーを真面目に描いている。
そもそもニール・ブロムカンプという監督はSFとメカの人だというイメージがあり、メカの扱いという意味では中々に適切な人材とは思われたが、その作風やビジュアルが万人受けするかは疑問なところであった。このひとがやっているオーツスタジオのYouTubeを訪ねてみてほしい。どれか一つ動画のサムネをタップするだけでもその世界観がわかるはずである。グロ!メカ!SF!ブラックジョーク!
メインストリームとは言い難い要素がひしめいている。しかしながら俺はその世界観が大好きで、マーベルに席巻され、トランスフォーマーもダンボール組み合わせただけような箱型ロボットがメインのビジュアルを張るようになってしまった(ある種の回帰とも言えるが同時にそれは進歩を放棄したとも言える)ハリウッド映画で唯一メカビジュアルの良心を保ってる奴だと評価していた。
それだけに予告編を目にした時「ついに職業監督に傾き始めたかな?」と少しばかり不安を覚えてもいたがそこはニール・ブロムカンプ、やはり自身の持ち味を忘れていなかった。車はぐわんぐわん動くし大破する時の暴力的なインパクトも健在である。ただ人の死体が出てこないだけだ。まあそれは良い。子供でも観れるエンタメとはそういうものだ。そうした配慮というものをちゃんと見せたのは(もちろんこれがゲームの促販映画ということもあるが)大した進歩である。
第九地区を作って以降もエリジウムやらチャッピーやら俺は好きだが世間ではあまり評価されない作品ばかり作ってて前途が怪しいとすら言える中でこうした王道のストーリーを退屈させずに見せてくれたのはとても驚きで、同時にこの映画を観ていちばんの収穫だったなと思った。
そうした意味でメカメカしさと新たに見せつけてきた王道展開を楽しめる二度美味しい映画である。
なのでこの成功に後押しされてぜひ次はオーツスタジオのファイヤベースを映画化して欲しいところである(これに出てくるあのソ連国旗ペイントの核動力ランドクローラーがたまらん)。今回結果を出したのだから次は好き勝手してほしい。
完
ところでSONYが制作に関わっていることもあってかミュージックプレイヤーはウォークマンだった。iPodやらスマホで全然いいはずなんだが、そこはなんらかのしがらみがあるゆえにウォークマンになってしまったんだろか?これだけなんだか浮いてて少しばかり可笑しかった(もちろん作中のユーザーが化石なおっさんということもあるが、「スマホに対応できない年寄り」キャラが今時の映画で氾濫しすぎてて既視感を覚えるようになり「もうそろこういうキャラ付けも限界なのでは???」と思わなくもない。まあ実際にモデルになった人物が本当にウォークマンを使ってたんだろうし、こんなのどうでもいいか)。