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2022年10月の記事一覧

(没)廃業探偵の愁い

(没)廃業探偵の愁い

「探偵に最も必要な素質とは何だと思いますか?」

 学生時代のことである。卒業記念にと単身乗り込んだシベリア鉄道の車輌内で、私は“探偵”と出会った。
 自分の部屋で暇を持て余していた私は、ハバロフスクで乗り込んできた同じ日本出身の男と親交を深めることになった。
 ややオーバーなデニムのボトムス、ゆるりとした白いシャツの上にスエードのベストを羽織り、中折れ帽をかぶっている。黒縁伊達眼鏡の向こうで狂気

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熒惑の星

熒惑の星

時の流れが逆行していく。減少する、エントロピー。
そしてぼくは、軽功をもって雷霆の一閃を回避する。
安堵の一息。
全ての条理は無事に世を遡って還ってきたのだ。
 
無傷の君を、腕に抱きかかえる。
(二)


↓──おかしい。
巨頭は訝しんだ。
時空を超えて未来へ跳躍する霹靂柱の雷霆は狙いを過たない。
あの時、たしかに標的を捉えていた。逃すことはあり得ない。
否。
巨頭は邪眼をもって望界する──事

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