重川俊

孤高の筆鋒。

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没噴射小説詰め合わせセット v2024

こちらは逆噴射小説大賞の没作品群となります。 お手すきの方はぜひ。 亡国の星条旗 燃え立ったキノコ雲を中心に広がる爆風が、万物を薙ぎ払った。  サウスダコタ州ラシュモア山。五人の大統領の巨像が、眼前に連なるキノコ雲の群れを見下ろしている。  その頭上に、巨鳥の如き翼を広げた巨人──白堊館󠄁が降り立とうとしていた。 「クソ!」  白堊館󠄁の執務室に座すエデンは悪態を吐いた。そして滑る操縦桿を離し、手甲で額の汗を拭う。  全てがクソだ。このクソ操縦しづらいクソ白堊館󠄁の設計者

    • 医療爆発

      「マジ最悪っ!」  リサは怒りを露わに、グレーチング張りの廊下を疾走していた。 「リ…さ…」  彼女の後を追うように、巨大な何かが骨折音を鳴らしてゴロゴロと転がってくる。  逃げ場はない。『ジェイル病院』で発生した医療分子の暴走──ナノハザードは今や病院全体に波及していた。怪物化した患者達が看護師を襲い始めて40分が経過し、病院内は完全に封鎖されている。  だが、もうどうでもよかった。    マキ。 「最新医療が売りの病院だから、給与も破格だよ?」と甘言を弄し、リサをこの地獄

      • PAX APOCALYPSIS

         朧の眼下に、燃え盛る荒野が広がっていた。  地核より噴き上がる焔蛇の火柱が雷雲を裂き、降り注ぐ火の雨が、絶えず渦巻く焦土に爆ぜる。燔人共がその上を、燃える膏を吐いて滑走していく。  ここは、人界と化外の地〈永獄〉を隔てる断崖である。  朧はその淵に座し、眼前に打ち込まれた神盤遊戯〈天盆〉に臨んでいた。熱風に白銀の長髭と深紅の龍袍を翻しながら、幾星霜を閲した者特有の幽邃な瞳で盤上を見据えている。  盤面に刻まれた神聖幾何学の上を、球状の思惟結晶の駒達が独りでに行き交い、争って

        • (没)激・突!

           檮杌はヒッチハイカーである。  いつも、車に乗せてくれる親切な運転手を殺すことを生きがいとしている、快楽殺人鬼でもある。  今回の獲物はスバル・インプレッサに乗ったイカした男である。バックパックに差した果物ナイフをその頭蓋に叩き込む快感を想像した彼は、体を震わせた。 「自分、檮杌って言います!よろしくっす!!」  彼の前に爆音で車を停めた運転手の招きに応じて、意気揚々と車に乗り込んだ。  窮奇はスバル・インプレッサの運転手である。  いつも、乗せたヒッチハイカーを殺すこと

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          29本
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          3本
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        記事

          星海を掃く者 ―ANYTHING < HUMAN―

           〈青耀〉がゴルディアス同調によってその指令を受け取ったのは、彼が零点振動リパルサーで恒星『全天星表番号69335688922687829160204592150189』系の第十二惑星に住む蒼生の頭上に、第二衛星を落とした時だった。奴婢共がダイソン球建設のための立ち退き要請に抵抗したためである。  “帝国”こと〈大八巨大数洲〉は上古より蒼生の頂点に御して多元宇宙に照臨し、自らの御稜威でもって乾坤から海隅の蒼生に至るまでを照らす天帝の資産の一つに数えられる。その伝宣を担う帝国府

          星海を掃く者 ―ANYTHING < HUMAN―

          天、予を喪ぼせり

          天、予を喪ぼせり

          Overdoom

           元赤子の眼球が、フロントガラス越しに無言で僕を見つめてくる。  逃走の過程で母親ごと跳ね殺した赤子がフロントガラスに飛散し、拭ったワイパーに視神経が引っかかってぶらぶら揺られているのだった。 「こっちは走る原爆だぞアホ!撃つなバカ!」  テカシ製〈ロケット6ix9ine〉は僕らと酷使で爆発寸前の原子力電池を載せ、罪都のハイウェイ61を時速200キロで爆走していた。  車のハンドルを握る親友のロイはクスリで冴え渡った運転技術を余すことなく発揮し、爆笑しながらこのバカげた逃避行

          (没)恩返しの鶴

          「この前助けてもらった鶴です。恩返しに来ました!」  あ、それ言っちゃうんだ。  自宅の安アパート。ぼくは開けた玄関のドアノブを掴んだまま静止した。  呼び鈴の音に誘われてドアを開けたらそこには絶世の美女が着物姿で立っていて、その侘しげな瞳が射抜いてきた。  男なら誰もが夢見る風景だ。ある日とんでもない美人とうっかり関係を結ぶという超展開。  だが問題が一つ。 「あの…多分人違いじゃないかな」  少なくともぼくに鶴を助けた記憶はない。それとも新手の宗教勧誘か。 「いいえ確かに

          (没)恩返しの鶴

          (没)BURN IT DOWN

          『我が子威吹よ、汝を指したる凡ての預言に循ひて、我この命令を汝に委ぬ。これ汝がその預言により、信仰と善き良心とを保ちて、善き戰鬪を戰はん爲なり』  そう水瀧楓は紅威吹の耳殻に呪いを吹きかけた。 「ほらはやく」  楓は傍らに立つ威吹の手首を掴み、その指先をビルの一つに合わせる。  閃光がはためく。毒々しい赤紫色の花を開く大火球が眼窠の中で燃えた。生きとし生けるものを焼き払う劫火の嵐。眼前の超高層ビルの中腹が三分の一ほど、途轍もなく巨大な刃で切り取られたように瞬時に消え失せた。

          (没)BURN IT DOWN

          (没)蒼天雲来

           龍とは宇宙の道理と変化の具現である。  時には大に、時には小に。大なるは霧を吐き、雲をおこし、江を翻し、海を捲く。また小なれば頭を埋め、爪をひそめ、深淵にさざ波さえ立てぬ。その昇るや大宇宙を飛揚し、その潜むや百年淵の底にいる。  ありとすればあり、なしとすればなし。古来、龍の話は無数に聞くが、未だこれが真の龍だという実物は片鱗も見えぬ。  が、性の本来は陽物ゆえ、いずれこの地上、風雲に会って大いに動く。  人興り志気と時運を得れば天下に、龍起れば九天に縦横するという。  人

          (没)蒼天雲来

          (没)恋愛戦闘小説

          「玄くんが、好きです」  ──放課後、屋上。  その言葉を耳にした黑部玄は唖然と立ち尽くした。  時限終わりに話があるからと隣席の山田小春に呼び出され、なんの話だろうかと心待ちにしていた矢先、屋上の塔屋を出るなり告白された。  玄にとって、隣席の山田は神に等しい存在だった。優しく、美しく、そして超然としている。なんとなく妄りに近づき難いものを感じさせるのだ。清浄な砂が敷き詰められた床に足跡をつけるのが何か憚られるように厳かで、過度に近づくことを自らに強く戒めたくなる。そんな

          (没)恋愛戦闘小説

          (没)DArkSide

           パンドラによって遍く厄災が解き放たれた匣には、希望だけが遺った。  では拭えぬ闇に囚われたこの世界に遺ったものとは。  無明の闇に閉ざされ翳や陰が跳梁する末法の世にあって光を放つものに近づいてはならぬ。逢魔はそう教えられてきた。  それは人魂を薪に焚べた輝きであり、捕まれば最後、虚にされた肉体に闇を吹き込まれた幽鬼となって人を狩る末路を辿るからだ。  だが眼前のこれは違った。  何ともつかぬ奇怪な鉄塊が林立する荒廃した大地にひっそり鎮座する〈巨像〉の纏う影は、この世の何の

          (没)DArkSide

          (没)食卓事変

          『引きこもりの男が両親を殺害した容疑で逮捕されました。警察によりますと……』 この瞬間、朝の食卓に緊張が走る!  ぼくはTVニュースが聞こえないふりをしつつポケットの中の凶器に触れ、両親がぼくに対してバカなことをしてきたら刺してやろうと刮目していた。母は台所で固まり、白く浮き上がった腱が遠目でもわかるほど強く包丁を握りしめている。父はぼくの向かいで顔の前に新聞を広げ一見平然としていたが、早業で『巨大隕石が地球に接近』と一面に記された紙面に覗き穴を開け、こちらを凝視していた

          (没)食卓事変

          (没)至天

           銀河の全てが刻まれた「覺典」の記述を引くに、それは九九九周期──〈神咒無限帝国〉建国記念式典の事である。  回顧するに──人類が起源の星、地球を脱して幾星霜。臣民は天帝の詔を患い、多銀河にその版図を拡大した。それは他起源との角逐を意味する。蒼海(近銀河圏)の戦役は連戦連勝の勢に乗じて帝国不滅を告げ、忠勇義烈なる将士は凱歌を奏し、臣民の歓喜は数多の星を震わした。  かような国家の祭とあればその様は絢爛荘厳を極め、この日の為に解体された星系群は自らを滅する煌めきでもって帝国の

          (没)至天