21世紀の傾斜生産方式
第二次大戦後の日本の経済を復興させるために行われた「傾斜生産方式」という政策がある。
要すれば、他産業への生産波及効果、石炭や鉄鋼など、当時の技術水準で、特に他の産業の中間投入となる産業分野に重点的に資金や資源を投入することで、日本の供給能力を再構築しようという政策だ。
さて、厚生労働省の資料では、「雇用誘発係数を主要産業と比較すると、社会保障分野(特に介護分野)の雇用誘発係数は高い。」つまり、社会保障分野における需要を増加させると、雇用を増加させる効果が大きいということらしい。
第二次大戦後の供給能力不足と異なり、需要不足の日本の現状では、雇用誘発力の大きいサービス分野、特に潜在的ニーズが、資金制約や事業所不足によって制約されている保育(学童保育を含む。)、医療、介護(障害者援助を含む。)といった生活支援サービス分野への公的リソースの投入を「傾斜配分」してみたらどうだろう。
スポーツ興行に需要があると「強弁」するくらいなのだから、こういった自然的な需要が、支払い制約によって制限されている分野に、公的リソース、要すれば予算を配分すれば雇用は一気に安定化するでしょう(勿論、労働異動のための時間とコストは必要ですが)。
勿論、介護分野や医療等の分野については、人手不足が問題なのではという議論もあるだろう。だから、厚生労働省は、雇用対策として介護福祉士の集中的な育成をすると以前から言っていたし、ここのところは、保育士がそうなっていただろう。
でもちょっとまって欲しい。
介護分野や保育分野で人手不足なのは、勿論、スキルの蓄積が薄いという側面もあるでしょうが、基本的には、賃金を筆頭とする労働条件が悪いからでは。
とすると、介護労働に支払われる報酬の原資を広げないことには問題の解消にならない。
勿論、長期的に介護スキルの涵養が必要であることが否定されないが、賃金原資を制約したままで、介護市場への労働者供給を増加させれば、賃金水準はさらに悪化。
勿論、人手自体が増えれば、一人当たりの夜勤が減少するといったことで、労働条件の改善は図れるかもしれませんせんが、介護等の分野はワークシェアではなくて、投入される人的資源のネット増が求められているはず。
介護報酬への公的支援の大幅増を行わずに、介護人材だけを育成するというのは、順番が逆。そもそも、税の投入を増やして、利用者負担を増やさずに、生活支援サービスの報酬を大きく上げれば、自ずと人材育成はなされるに決まっているのだから。
保育、介護、医療といった生活支援サービスに分野に重点的に、予算を経常的に投入することが先ではないか。そうすれば、自ずと、こういった分野に必要な人的資本への投資が、労使双方のインセンティブに基づいて促進されると思うが。これが、今の日本に求められる「公共投資」なのではないのかな。
そういう意味で、保育、医療、介護といったサービス給付型の社会保障への租税投入こそが、21世紀の日本に求められる「傾斜生産方式」なのではないか。