72/465 【清く甘く】 魔法の空間
そこは、魔法の空間だった。
向かって右(上手側)には、お客さんからのお題を入れるキラキラ箱がぶら下がっている。
開演したら、語り部の末原さんがそこから無造作に1枚ないしは2枚抜き、そこに書かれた言葉を鍵にして、ものがたりの扉を開く。まさしくキーワード。
鍵を開いた扉の向こうには、見たことのない空間が広がっている。
ある時は花火が彩る夏の夜空が広がり、またある時は、本能寺前夜の織田信長の意外な素顔が現れたり。最後は、外国籍の密輸船内で猫と旅に出たりした。主人公もキーワード毎に変わるし、モノが主人公であることもしばしばだ。
語り部の口からモノガタリが紡がれ始めた途端、鍵盤楽士のシモシュさんはそれに合わせて伴奏をする。これもまた、即興。
...なんだこのお2人。
体感力と反射力と共感力のモンスターコンビだ!
即興話は各話15分くらいの短編エピソードが多かったけれど、中には、テーマソング付きの40分の大河風即興芝居もあり、これ本当に即興?!事前に準備されていたんじゃないの?!と疑いたくなるくらいバラエティに富んでいた。
即興ソングをリピートしてたらテーマソングと化していたなんて、奇跡としか言いようがない。
主人公が勝手に動き始めるから、お話がどう終わるか分からない
小説家の方々がよくおっしゃる言葉だけれど、それはこんな感じだろうか。モノガタリが、拓馬さんの身体を使って次から次へと溢れ出す。その清流に流されて、我々も彼の世界に漂着する。
その世界の空気がとても甘やかで澄み切っていて、魂が浄化される。こんな遊び場、そうそう無いはず。
拓馬さんの、シェークスピアのようなセリフ運びにかっさらわれる感覚が、わたしは好きだ。その声も好きだ。彼の物語は世界を変える、という信条もとてもとても大好きだ。
今世界が大きく変わろうとしている。その変わっていく世界の中でも、物語は存在し続ける。
公演のたびに繰り返してしまうけれど、物語は世界を平和にする。わたしはそれを、信じている。
この日の公演のダイジェストが今、toiさんのツイッターで公開されている。それをリツイートした拓馬さんのツイッターの方がダイジェストを見つけやすいので、こちらに貼っておく。ちょっと見て、聞いてみて欲しい。
衣装から何から、こんなにカッコいい人、なかなかいない。
4月には彼が主催する劇団おぼんろの新作公演がある。その頃、情勢はどうなっているだろう。どうなっていても、物語は続くのだけれど。