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真理と知恵を子供たちの夢に

 天動説から地動説への過渡期の学者らの苦難を描いた新作アニメ『チ。』が新しい。美的で迫力あるアクションシーンの表現に進化の矛先を向けるアニメ界の中で、この作品は絵が雑で、明らかに製作費が潤沢でないことを物語っているクオリティの低いビジュアルではあるが、それを補って余りあるストーリー性が原作にある。天動説とそれを盲目的に支持するキリスト教会を敵に回す主人公らは文字通り命懸けで、既に何人も処刑されている。暴力シーンが残酷なので子供向けに推奨して良いものか微妙ではあるが、スポーツ漫画や戦争アニメが勝利やサバイバルを目指しているのとは一線を画して、目指すゴールは「科学的真理」と「叡智」であるところが新しい。こういう目標に向かって生きる姿がスポーツや戦闘の勝ち負けに劣らず魅力的であることを、子供の読者に提示しているのがいい。
 ただでさえ、昨今は高学歴や権威ある地位の大人たちが不正や欺瞞や無責任で謝罪会見するみっともない姿を晒し、せっかく賢い子供たちがこんな大人になりたくなくて進路に迷っているのではと危惧される世の中なのだ。マンガやアニメが子供に夢や目標を与えるものだというなら、「真理」や「真実」や「知性」を求める子供向けの作品があってもいいし、むしろ今こそあるべきだ。

 金儲けを是とする社会風潮で大学や研究施設への国家予算が削減される今日、これに逆行する民間企業が「サントリーサンライズ」なる基礎研究者への研究費供与プログラムを立ち上げ、稼働させているという。国からの助成金だとあれこれ途中経過と確たる成果をこまめに報告しなければならないし、予算が打ち切られるとそこで研究が頓挫してしまったり、研究者が路頭に迷ったりしてしまうという難点があるが、この民間プログラムは成果主義でないため、成果の途中報告とかもいらないので、研究者は落ち着いて自分のやりたい研究に没頭できる。研究テーマも金儲けを度外視していい。そもそもすぐ儲けに結びつく研究などたかが知れている。本当に世界の常識を変えるほどの研究とは、そんな視野の狭い所からは生まれて来ないのだ。
 このプログラムは応募者500人の中から数十名を選ぶのだが、その選考者たちには「この人の研究は楽しい」とか「この研究にお金を出すのが嬉しい」といった喜びが既に選考の段階であるという。選考で選ばれた研究者の一人は、「その研究(者)にファンを増やすのが大切だ」と語っている。経済格差の広がった日本において、お金を余らせている人や企業はあまたいるはずだが、一体そのカネを何のために使うのか、『チ。』でも見てもう一度よく考えてくれなのだ。一見して役に立たなそうな研究や実験であっても、そこを通って導き出された結果という真実は、我々のまだ知らないこの宇宙の謎の一端を解き明かすものなのだし、それが人類の未来にどう役に立つかなど誰にも判らなくて当然なのだから。

 イーロン・マスク氏は先の大統領選で、トランプ支持の署名者の中から抽選で毎日1人100万ドルをプレゼントというイベントをやっていた。似たようなばら撒きイベントをゾゾの前澤友作氏もやっていた。つまらない大金の使い方である。研究や学問といった知的活動に使おうという発想や喜びはないのだな。ホリエモンなどはロケット開発に資産を注ぎ込んでいて、遥かに好感を持てるのだが。ゴルフのタイガーウッズも大金の使い道がなくて多くの女性に注ぎこみ、泥沼になった。実に見苦しい。
 ところでイーロン・マスクは日本の漫画でアニメ化もされた『賭ケグルイ』が好きらしい。この作品は見た目は学園ものだが、中身はギャンブル依存症たちのサバイバル・バトルである。「ゴルフ仲間としてトランプとの長時間の面会に成功した故安倍晋三氏を見習って、石破現首相は日本のアニメでイーロン・マスクを篭絡し、トランプとの面会に漕ぎ着けろ」みたいなことを朝のラジオが言っていた。ギャンブル漫画よりはゴルフの方がまだマシだが、いずれも知性とは縁遠く、目糞鼻糞を笑う感じ。こういう大人を見た賢い子供たちは、こういう大人になりたくないと思って正解なのだ。

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