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「No Shelter」

 新都社「音楽小説集(現在凍結中)」に2020年12月に発表したものの再録。原題は 「No Shelter」Rage Against The Machine 前々職で働いていた頃の話。

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 以下本文。

 夜遅くに灯油を買いに近くのガソリンスタンドまで歩いた。レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンを共にして。聴き慣れた「ノウ・ユア・エネミー」やら「ゲリラ・レディオ」「キリング・イン・ザ・ネーム」が流れる中、これまであまり聴いた事のなかった「ノー・シェルター」が耳に残った。人の瞳のような赤い下弦の月がこちらをにらみつけていた。

 アルバイト面接の担当をする機会が増えた。派遣従業員の契約更新するしないの判断をする機会も。雇うメリット、雇わないメリット、首を切る事によるマイナス、それ以上のプラス効果、などを考える。各部署に必要な人員か投げかける以前に、面接態度、履歴書の内容、勤務可能時間などにより、私の判断で不採用にする人もいる。
 私だってアルバイト面接で落ちた事なんて何度かある。落ち込みはしたが、恨みに思ったりその後引きずり続けたという事はない。
 だがある考えが頭をよぎる。
 彼らはこの後に行き場があるのだろうか。
 この後も次々と面接を受け続けるのか。
 もしくは行き着いた果てがここだったりするのか。
 どこへ行くのか。
 どこにも行かないのか。

 「年間自殺者数」で検索すると、警察庁公式サイトで詳細が分かる。今年の十月の自殺者数が二千人を上回り、新型コロナによる死者数を上回っているという。
 年間自殺者数三十万人の時代を書いた自作「僕らはみんな死んでいく」

を読み返す。第二章に入った所で途切れているこの物語は、一章だけで充分だった。思っていたより完成されているなと感じた。十年前の作品だった。登場人物の名前は当時のプロ野球で活躍していた捕手から取っている。もう誰も現役ではない。
 行き場をなくした人達の全てが死を選ぶわけではないだろうが。

 もうどこも安全ではない。常にあらゆる所が最前線である。地球というシェルターも機能せず、生活と死が日常的に隣り合わせに在り、疑問に思う人も加速度的に減っていく。

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