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耳鳴り潰し94

 所用があり妻と梅田方面へ出かける。二ヵ月前と同じ。酷暑の下を歩くと、暑さが苦手な妻がしきりに「暑い、殴りてえ」と言う。そう言いながらも本日はあまり私の尻を殴らなかった。たまたま結婚記念日にあたったので、「もう十二年にもなるのか」という話をしてお互いに驚く。まだまだ三、四年の気がする。途中途中の駅でそれぞれの思い出を話すうちに、以前も同じような会話をしたことを思い出す。同じ所で同じ話を繰り返す。とっくに若者側ではなく老人側の人間になってしまっていた。

 所用は涼しい場所で二時間近く。ビルの8階だったので、以前来た時は途中からずっと頭を押さえていないとつらいぐらいだったが、今回はそれほどではなかった。しかし最近は感じなかった締め付け感が強くなる。痛みというほどではない。

 前回は帰りの電車の中でぐったりして眠り込んでいたが、今回は妻と話ながらでも大丈夫だった。一番暑い時間に電車から降りて家まで帰る。12~13年前にも同じように歩きながら、「何でこんな暑いのに平気な顔していられるの?」と不思議に思われながら、バンバン尻を叩かれた。その頃から随分年月が経ったわけだが、あの頃と同じように二人で手を繋いで歩いた。

 娘が帰ってきた途端、彼氏を含めた友だちと遊びに行くという。出かける準備をしている最中にチャイムが鳴り、すぐに息子も帰ってくるのに鍵を閉めたのかと思って娘に開けに行かせると、娘の彼氏が迎えに来ていたのだった。おかしなテンションになって慌てて用意をする娘。出かける際に少し彼氏の顔を見て挨拶をする。公園で遊んでいる際に何度か顔を見かけたことのある、同級生男子の三、四人組のうちの一人で、見覚えはあった。娘の方がだいぶ背が高く、私と妻と正反対のコンビである。帰宅後のキュン死エピソードはもはや公開できない。娘の名台詞で一生彼氏君は思い出しにやにや出来るであろう。

 娘が逐一彼氏とのやりとりを報告してくる。その際に私にもそのような話はないのかと問い詰めてくる。「パパはママとラブラブだからそれだけでいいんだよ」というと、妻に「そんなことはない」と言下に否定された。

 高田純次「50歳を過ぎたら高田純次のように生きよう 東京タワーの展望台でトイレの順番ゆずったら本が出せました」を読む。読む必要があった本かと問われれば全くないと言い切れるのだけれど、入院中に高田純次の著作に触れて随分と助けられたことを思い出した。


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泥辺五郎
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