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「電柱鳥類学」三上修
人は二種類に分類できます。
ボケを挟まないと生きていけない人と、そうでない人と。
「電柱鳥類学」の著者である三上修氏は間違いなく前者であるといえます。
本書は電柱とそこに止まる鳥との関係を書いた一冊であり、まえがきでいきなり「電柱鳥類学」なんて学問名称はありません、と断言しています。著者の造語であるのですが、私が本書を手に取ったのはタイトルに惹かれたからですので、読む前から既に読者をつかむことに成功しているといえます。
電柱の詳しい解説から始まるのですが、その中に「電信柱」「電力柱」「共用柱」といった用語の解説があります。その後にこんなことが書かれています。
見慣れると、町中にある3種類の電柱をすぐに見分けられるようになります。ただし、友人が「電信柱(でんしんばしら)」と言ったのに対して「いや、あれは電信柱(でんしんちゅう)ではなく電力柱(でんりょくちゅう)である」などと、したり顔で言ったりすると、距離を置かれる可能性があるので、口には出さず、心に秘めておくのがいいでしょう。
ニヤニヤして読みながら、冒頭に書いた「ボケ続けなければ生きていけない人」が頭をよぎりました。
次に電柱の上部に設置されている腕金(わんきん)という鉄パイプ状の設備内に、営巣されたスズメの巣を撮影した図についていた解説。
(b)腕金に近い構造をもったパイプ内のスズメの巣の様子。巣材はほんの少し。座布団1枚程度。下手なことを言ったら、これすら持っていかれる状態。
「笑点」に出てくる座布団を持っていく人が、スズメの巣の巣材をかっさらっていく可能性は非常に低いと思われます。しかし「座布団一枚程度」という比喩を使った以上、こう書かなければいけない、という揺るぎない信念が垣間見えるのです。
以前の職場にも「ボケなければいけない症候群」を患っている方がいました。同病の私と、新人さんにあれこれ優しく教えようとしていると、見かねた同僚が「二人とも、そこボケるところ違うから!」と割って入ってきました。もちろん仕事はきちんとします。ただ、ボケを挟まないといけないのです。ツッコミ役が不在であると、どちらかが妥協して終わるまで、小ボケを挟んだやりとりは続いていきます。
電柱を愛するあまり、電線の地中化した近未来を憂いている際の、富士山にまつわる清々しいまでの暴論には拍手を送りたくなるほどです。
もちろん本書の主題である、電柱と鳥の関わりについても感じ入るところは多数あり、「日頃何気なく見えている事柄」に興味を持つきっかけにもなります。電柱に鳥が止まっている、という現在の日常風景は、電柱が出現してから、近い将来、電線が地中化されるまでの短い期間でしかない、という視点は、他の事柄に置き換えることも可能です。今の当たり前は数十年前には考えられなかったことであり、数十年後には消えてなくなってしまっていることかもしれません。
作者のTwitterを見に行ったところ、小さくボケ続けているわけではなかったので、編集者によるテコ入れだった可能性もなくはありません。
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