#2 不思議な縁が生まれる場所/廣田いとよ(本喫茶わかばオーナー)
箱根の仙石原にあるブックカフェ「本喫茶わかば」。コロナ禍の2021年3月20日にオープンしたため休業や時短営業を余儀なくされましたが、そんな中でも予約制のイベントなどを通じて、人と人とのつながりが広がっていったそうです。
例えば、1対1で行った占いイベントは1日4名限定。「人数が少ない分コミュニケーションが濃くなり、新しい活動につながるケースもありました」と店主の廣田いとよさんは話します。本を作る仕事をしている人が占いを受けに来ていろいろな話をするうちに、占い師さんが本を作りたいと思っていたことがわかり、意気投合した二人は本作りのために動き始めたのだそう。
同店に集まるお客さんは、「心の中に伝えたいことをいっぱい持っている人が多い」と廣田さん。そのため古本屋にもかかわらず、自分で作ったZINEや出版した本などの持ち込みが増え、新刊書コーナーを大きくしたのだとか。新刊書は、周辺地域に住んでいる作者のものを取り扱っています。
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廣田さんは都内で校正者をしていましたが、結婚を機に夫の地元である箱根に住まいを移し新たな生活をスタート。信用金庫に勤めたものの向いていないと感じ1年で退職しました。今後のことを悩んでいた時に、夫が「ここでお店をやってみたら?」と声を掛けてくれたのだそう。
義祖父母が経営していた畳店と土産品店だった古民家を使えるという提案はうれしかったけれど、「自分にできるのかな」と不安もありました。古民家は約10年間放置されていたため荒れた状態で、キャビネットには当時の帳簿がぎっちり詰まったままだったそうです。
仙石原には本屋がなく「自分が本を読める場所を作りたかった」と話す廣田さんですが、初めからブックカフェをイメージしていたわけではありませんでした。箱根で成立する商売は何かと考え、猫カフェや土産品店などの案も出ましたが、本好きな廣田さんは最終的にブックカフェを開くと決め、準備期間半年でオープンまでこぎつけました。
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本棚に並ぶのは、廣田さんが好きな暮らしの本や絵本、児童書などが中心。「息の長い本、差別的表現がない本、ポジティブな本を選ぶようにしています」と語ります。ほかにも、棚ごとに店主が異なる貸し棚がありバラエティ豊かに本が揃うので、長居するお客さんが多いのだとか。ゆっくりと本を読むために、カップルで来店し別々の席で過ごす人もいるそうです。
のんびりくつろげる畳敷きのカフェスペースでは、パン職人とパティシエの経験もある廣田さん手作りのフードやスイーツを楽しめます。人気メニューはカレーと里芋グラタン。鶏ガラでスープを取り、すりおろした野菜と果物を入れたカレーは、辛さがありながらもマイルドな味わい。「イトヨ文庫」として一箱古本市に参加する廣田さんが出店者だけに出したところ、みんなが「おいしい」と言ってくれたことからメニューにしました。優しい口当たりのグラタンは生クリームとバター不使用で、「胃がもたれない」とお客さんに好評です。
小田原産レモンを使ったレモネードや温かいココアにマシュマロを浮かべたスイーツ系ドリンク、スムージーなどドリンクも充実しています。「今後はお酒類も増やしていきたい」と廣田さん。そのきっかけの一つになったのは、個人アカウントでバズったツイートなのだそう。
廣田さんは、「女性がひとりで飲んでいると、となりの席の男性が話しかけてきたり、バーのマスターが男性を紹介しようとしてきたりすることがあります。私も経験があるので、女性がひとりで落ち着いて飲める場所を提供したいんです」と話します。おひとりさま限定にするか、女性限定にするかなど、どのように夜営業をするかは現在検討中とのこと。
オープンから一年、コロナに振り回されながらも少しずつ変化していく本喫茶わかばの今後の展開が楽しみです。
★本喫茶わかば
神奈川県足柄下郡箱根町仙石原817-267。月木13:00〜21:00、土10:30〜19:00、日祝10:00〜16:30。火水金休み(不定休あり)。
<校正を担当した作品>
佐々木藍著『自分らしさを見つけるための手相の本』(風鯨社)
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