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【最速ブックレビュー】アジャイルなチームをつくるふりかえりガイドブック
はじめに
2021年現在。「ふりかえり」というものは、ずいぶんと人口に膾炙するものとなったように思う。
天野さんの「これだけ!KPT」が出版されたのが2013年。これで初めて「ふりかえり」に触れた、KPTというものを知ったという人も多いだろう。
そして今回紹介する「ふりかえりガイドブック」の著者である森一樹(@viva_tweet_x )さんが初めて技術同人誌、その名も「ふりかえり読本」を出版したのが2018年。森さんは執筆以外にも「ふりかえり実践会」の主催者として様々な形で「ふりかえり」を発信してきた。
そんな森さんが、翔泳社から本を出す。テーマはもちろん、ふりかえり。
そこに至るまでの背景というか、ある種のサクセスストーリー的なドラマはinayamafumitakaさんが熱く綴っている。
私はこのふりかえりガイドブックを、「初学者にも熟練者にも、主催者にも参加者にも、全方位のふりかえり関係者にとって良きガイドとなる一冊だ」と感じている。それぞれの観点で、お勧めポイントについて紹介していく。
初学者にも
本書の大きな特徴は、なんといっても「マンガ」が随所に挿入されているところだ。同社刊の『SCRUM BOOT CAMP THE BOOK』でも同様の試みがなされていたが、ホワイトボードやふせんを駆使したり対話をしたりとテキストベース以外でのやりとりが多い「ふりかえり」を解説するには、このマンガ形式はフィットしている。
また、「とりあえず」のつまみ食いではなく「アジャイルソフトウェア開発宣言」「スクラムガイド(2020年版)」といった原典に相当するようなところが紹介されている点、学びを深めるために参考文献が列挙されている点も良い。
熟練者にも
Chapter11「ふりかえりに関する悩み」では、畳みかけるようにふりかえりの現場における「あるある」が列挙され、そして解決されてゆく。
たとえば「アクションって全部成功させないといけないの?」という問いがある。これはある程度ふりかえりに慣れ、アクションを考案できるようになったもののうまくいかないことがある…というチームが必ずぶつかる壁だろう。こういったリアルな悩みが列挙されている。
また、ふりかえりの手法が豊富に収録されている点も魅力だ。DPAのような場づくりについてもページを割いて紹介されており、「どうアイデアを出すか/収束されるか」に集中しておろそかになりがちな「場づくり」もしっかりとカバーされている。
主催者にも
場をどのように作るか、どう準備するか、マインドセットを広めていくためには。ファシリテーションをどうするか。
例えばファシリテーションのチャプター(Chapter 07)の冒頭は、その名も「ファシリテーションは怖くない」だ。何かを始める前に、不安や恐怖から手を止めてしまうことがある。主催するとなると、なおのこと重圧がのしかかる。そこを、本書は「怖くないよ」と背中を押してくれるのだ。
参加者にも
本書を読むことで、ふりかえりというものが主催者(ファシリテーター)により牽引されるものではなく、参加する全員で取り組むものだということが理解できる。そして、そう理解したうえでどうかかわっていくべきかが理解できる。
私の「推し」ポイント
もう一つ、推しポイントがある。それは「オンラインでのふりかえり」について触れているところだ。ふせんとホワイトボードを駆使し、ハイタッチなぞかましながら和気あいあいと取り組む…それがある種、典型的なふりかえりの姿だ。
しかし、2021年現在、そんな形でふりかえりを行うことができる現場はあまりないだろう。多くの現場がリモートワークを採用している。またリモートワークではないにしても感染予防の観点などから一か所に集まってペンを共有しおやつを食べながらワイワイ…なんていうのはちょっとはばかられる。
本書も、多くのパートはオフラインでの実施を想定したものになっている。しかし、Chapter 05「オンラインでふりかえりをするために」では、いかにオンライン上でうまくふりかえりを実施するかのノウハウ、それも2020-2021年に急速に積み上げられた鮮度の高いノウハウがギュッと凝縮されているのだ。
個人的なひっかかり
ひっかかる部分がないわけではない。
私にとってひっかかるのがストーリー部分だった。
・ちょっと話すだけですぐ「いいね」って乗ってくれるけど、こんなチームばかりじゃないのでは?
・少しうまくいったからって「どんどん新しい手法を試そう!」ってなるかな?
本書のストーリーで主役となっているチームは、ポジティブなエネルギーが既に充填されているように思える。このポジティブさに触れたとき、そうではないチームに属している人が「うちのチームとは違うな…うちにはどうせ適用できないだろう」と思ってしまわないだろうか…という不安が頭をよぎった。
そして、なぜこれをわざわざ書いたかというと、本書のストーリーに触れて「自分の現場には合わない」とページを閉じてしまうとしたら、それはもったいないと感じたからだ。
ここまでスムースにはいかないかもしれない。けれども、本書で紹介されているマインドセットやファシリテーションの項は、うまくいっていない現場をイキイキとさせるための示唆に富んだものになっている。このストーリー通りにはいかなくても、読んだ人の現場で現場なりのストーリーを描いていくためのヒントが詰まっている。
だから、ストーリーがしっくりこないという人にも、ぜひ読んでもらいたい。
さあ、ふりかえりを始めよう
改めて紹介すると、本書は「初学者にも熟練者にも、主催者にも参加者にも、全方位のふりかえり関係者にとって良きガイドとなる一冊」だ。様々な現場でふりかえりを実践し、ふりかえりを支援し、発信してきた森さんの実践知がこの一冊に詰まっている。
「ふりかえりやってみたいんだけど、どう始めたらいいだろう」
そう悩んでいる人がいたなら、迷わずこの本を勧める。そんな決定版が、ついに出来上がったのだ。