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vol.218/ 骨が折れる話

ようやく寒くなってきて関東の山々も(とはいえ平野)、今頃紅葉が美しく色付いている。そんなこんな、あれよあれよと師走に突入しているではないか!という毎年恒例びっくり文だが、今年はより一層びっくりが増している。早すぎるのだ、毎日毎日過ぎ去るのが。



そんな慌ただしさは日々に表れていて、この日もせかせかと動き回っていた。仕事を終えて帰宅する前にちょっと買い出しをして、急いで帰って夕飯の準備と夫のお弁当の用意、自分の仕事の整理と明日やることを頭に落とし込むための時間の確保。明日もお天気だから洗濯もしなきゃだし、ささっと掃除もやっちゃいたい。だから兎に角急いで帰ってあらゆることを片っ端から片付けなくっちゃ。と。この日たまたま履いていたヒールのあるブーツを選択ミスだなオイ、とツッコミながら、またせかせかカツカツ小走りで買い物を済ませ、店内を後にしようとしていた矢先。買い物カートを押したおばさんが私の方へ幅寄せをしてきたではないか。それを避けようとした瞬間、選択ミスであったヒールのあるブーツは店内床を軽快に滑り、私は派手に転倒していた。一瞬の出来事だった。



ツルツルで硬い店内の床に、右脚の膝内側を強く打ち付けた。その内側は私の全体重をも一点集中で受け止めてしまって私は痛みで立ち上がれない。幅寄せをしてきたおばさんは素通り、その後も結構な買い物客がいたが誰も私に声をかけることはなかった。30代も半ばになると、あまり恥ずかしさも感じなくなってくる年頃だろと思っていたのだが、この状況はそんな私でも流石に恥ずかしく、一刻も早く立ち上がりその場を後にしたいと思った。そんな切実な思いとは裏腹に、中々痛みで立ち上がれずうずくまっていた私は、片足をようやく引きづりながらやっとの思いで車に乗り込む。色んな感情がザワザワと渦めいてはいたが、私は病院に行くべきだ、ととっさに判断。その足で整形外科へ急いだ。何とか車を運転できたから骨は折れていないと思う。とは言え私にはやらなければいけない事、こなし、捌かなければならない事が山のようにてんこ盛りなのだ。何がなんでも骨折なんかしていられないのだ…!



んーーーこれは圧迫骨折ですね。

レントゲンを撮り終え呼ばれた私はこう告げられた。今は圧迫骨折とは言わないらしく、医者はモゴモゴと今はこういうよ的な話をしていたが良く覚えていない。ポキッと折れている訳でもなく、ヒビが入っている訳でもないらしいが、圧迫骨折も骨折の一つだということは分かった。強く打ち付けた箇所は骨の輪郭がモヤモヤっとしていた。マジか。打撲や打身を強く願ったが、それは叶わず。なんと骨が折れる話だろうか。ああ、色々と、本当に色々と面倒すぎる。でも面倒を請け負っていた私自身にも同時に気がつくことになる。



それは本当に
私がやらなければいけないことか?



私が私自身を縛り付けていたものが目の前にパパッと映し出されたかのような感覚。“そういった類のもの”は、少しづつではあったがスルスルと解いてきたつもりでいた。私にはまだまだ“そういった類のもの”がへばり付いていたようだ。
あれをやって、これをやって。
次にこれを片付けあれを片付け。
あの準備をしている間にこれも準備して云々。

正直心身共に疲れていた。

何かに急かされながら、何かに勝たなければならないとずっと思い込んでいたなーと、病院の待合室で思う。固定はせず、7枚入りの湿布を受け取り帰宅した。ゆっくりゆっくり歩きながら。



4年前、パンデミックで世界が一変した頃私は“そういった類のもの”に気がつき、緩々と解く活動を地道に、でも確実に行っていた。こんなにギュウギュウに縛り付けていたのか!と我ながら思ったし、縛り付けていただけなら緩めれば解けるが、固結びして中々解けない箇所も結構あったから、それをゆっくり、そして丁寧に解いてを繰り返しやってきた4年間だったが、ここに来てまた結び目の固い箇所にぶち当たっている。

これは気がついていない箇所だったのか、
あるいは解いたところが
また固結びになったのか。

ぶっちゃけどちらでも良いが、
とは言えこのどちらであるかは
大きなことでもあるような気もする。

一周回ってどちらでもいいや。



私は骨折をして、私は骨の折れるような類のことに直面している。全部を把握した上で“カルシウムを摂取しようかな”と考えられている私は、やっぱり30代も半ばだな。ちょっとやそっとでは折れないぞ(気持ちは)、と笑えた。
大丈夫な気がしてきた。
あっという間に師走、この師走こそみんながみんなあわてんぼうになり、せっせと走り回る。どうか私のように焦って転ぶような、面倒なことにならないように。そしてヒールのある靴でどうかどうか走らないで。残りの2024年も全力でゆっくり、着実に進んでいければ。それだけで全ては大丈夫だから。


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