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アニマルウェルフェアはなぜ大事?①【ゲスト:アニマルウェルフェア・コーポレート・パートナーズ】〜日本でのケージフリーの動き
動物保護運動、特に畜産動物の問題に取り組む活動家の多くはヴィーガンやベジタリアン。でも本当は、肉や魚・卵・牛乳を消費する人にこそ、家畜の問題に向き合ってほしい!!! 今回は、ヴィーガンやベジタリアン以外の人にも動物の問題を自分ごととして捉えてもらう方法を考えるため、これまで多くの企業に対してケージフリーの取り組みを促してきた「アニマルウェルフェア・コーポレート・パートナーズ」の上原まほさんをゲストにお迎えし、日本における鶏卵の問題やケージフリー運動の現状、さらには運動をより成熟させるための方法についてお話ししました。
*参加者(敬称略)
【ゲスト】
上原まほ・・・ザ・ヒューメイン・ソサイエティ大学大学院で「動物の政策とアドボカシ」を学び、2017年にアメリカの大手家畜福祉団体「ザ・ヒューメイン・リーグ」入社、ステーティングメンバーとして日本支部の設立に参加。エシカル消費、 SDGsの中にも含まれるアニマルウェルフェアの視点から採卵鶏のケージフリー飼育を促進するために、大きなバイイングパワーのある企業と、ケージフリー鶏卵の調達について話し合いを続けている。2024年2月には非営利の「一般社団法人アニマルウェルフェア・コーポレート・パートナーズ」を立ち上げ、これまでのエンゲージメントを続けてきた大手企業が、アニマルウェルフェア政策、ケージフリー鶏卵の調達政策を導入できるようアドバイザーの仕事に従事している。また「アニマルウェルフェアフードコミュニティ」の役員、「一般社)日本動物福祉認証機構」の理事を務める。動物擁護の活動は国内外で20年以上の経験がある。
鈴木豊史・・・漫画と広告のひとり出版社「白蝶社(合同会社OTANIACS)」代表
【レギュラーメンバー】
司会:深沢レナ(大学のハラスメントを看過しない会代表、詩人、ヴィーガン)
生田武志(野宿者ネットワーク代表、文芸評論家、フレキシタリアン)
栗田隆子(フェミニスト、文筆家、「働く女性の全国センター」元代表、ノン・ヴィーガン)
動物の問題に関心を持ったきっかけ——豚の屠畜場
——今日のゲストスピーカーには、一般社団法人アニマルウェルフェア・コーポレート・パートナーズより上原まほさんにお越しいただきました。また、まほさんの繋がりで出版社である白蝶社の鈴木豊住さんにもお越しいただきました。
まず最初に、まほさんが動物の問題に関心を持ったきっかけは何だったのでしょうか?
上原 ピンポイントで「ここだ」と言えるわけではないのですが、幼い頃、東京の道路では野良猫が車にひかれてよく死んでいたんですよね。そうすると、猫の死体を見つけた人から、私の祖母に電話が入り、「掃除してください」と頼まれることがよくありました。祖母はとっても厳しく怖い祖母でしたが、動物にはとても優しい人でした私の家は練馬区にある庭付きの家だったのですが、結果的にうちが猫の死体掃除係のようになっていて、猫の死体を「ごめんね」と言いながら庭に埋めるということを家族で行っていたので、なんとなく動物というのは「助けるもの」「共生していくもの」という意識が普通に身についていました。
ただ、ヴィーガンになったきっかけは、30年近く前にたまたま豚の屠畜場を見たことですね。北海道に通訳の仕事で行く機会があって、仕事の仲間と道を歩いていたら、キーという機械みたいな音がしたんです。あまりにも音がすごかったので、「なんだこの共鳴音は?」と車を停めて辺りを見てみたら、豚の鳴き声だったんです。たまたまだったのでアポはなかったのですが、そこに入ったら血の海で、もうその日から肉を食べなくなりました。
——まほさんは何年ヴィーガンの生活をされていますか?
上原 もう25年ぐらいですかね。
——今この時代にヴィーガンになるのと、20数年前にヴィーガンになるのでは、全然チャレンジングさが違いますよね。
上原 でもね、私あんまり外食しないんですよ。家で食べることが多いので。あと、みんなもう、私がヴィーガンだということは知っているので、「まほさんがいるならこっちにしましょうか」と言ってくださったりします。でも、やっぱりお付き合いでどこか行くときに、こそっと肉は避けて、タッパーに入れて家に持ち帰って犬にあげたりはしていましたね。
地球生物会議ALIVEへ——運動の仕方を学ぶ
――まほさんはザ・ヒューメイン・リーグ・ジャパン(The Humane League Japan)の代表されていらっしゃいました。ヒューメイン・リーグで活動をはじめたきっかけは何だったのでしょうか?
上原 ずっと元をたどると、地球生物会議ALIVEという団体に関わったことが原点でした。野上ふさ子さんという動物愛護の活動家が主宰した団体で、野上さんは元々アイヌ文化の研究をされていた方ですが、動物愛護の分野でも多くの活動をされていました。彼女は「シロ」という、ある国立大学の実験動物犬を助ける活動をされていて、シロは何度も実験に使われてひどい状態だったのですが、野上さんたちが助け出す活動をした。その地球生物会議ALIVEの野上さんのロビー活動だったり、行政を動かしたりという運動の仕方をみて、「私もこういう運動の仕方をしたい」と思って、アルバイトで入らせてもらいました。
*シロについて
活動を通じて野上さんと話していると、私も感情的になることがありました。「こういう虐待には頭にきます!」といったことを言うと、野上さんからは「その怒りを勉強するエネルギーに変えなさい」と言われました。それで動物保護の市民活動を勉強したいと思ったので、アメリカの大学院にいって勉強して、卒業し、日本ではたぶん就職先はないなと思っていたところに、ヒューメイン・リーグがちょうど人を探していて、すぐに応募して入りました。
――アメリカの大学院では何を専攻されたのでしょうか?
上原 “Animal Advocacy and Policy(「擁護活動と政策」)”という勉強をしました。ちょっと特殊な大学で、The Humane Society of The United Statesという団体と、タフツ大学の先生がもともと一緒に作った大学院で、動物の擁護活動をする人たちを育てる大学院でした。
――そんなのあるんですね。
上原 あったんですけど、生徒が集まらず、クローズしてしまいました。
アニマルウェルフェア・コーポレート・パートナーズへ
——ヒューメイン・リーグで働かれたのちに、今のアニマルウェルフェア・コーポレート・パートナーズを設立されたのですね。そのきっかけはなんだったのでしょうか?
上原 2017年の1月にヒューメイン・リーグ・ジャパンが設立されて、私はそのスターティングメンバーとして最初から参加していました。私達の主な仕事は、アニマルウェルフェアの観点から、ケージで飼育されているニワトリをケージから解放すること。そのために、企業のサプライサプライチェーンの中にケージフリーの鶏卵を増やす取り組みを行っています。具体的には、企業からケージフリーに切り替える公約を出していただくことが私たちの仕事であり、これを7年間続けてきましたんですけれども、日本特有の課題や難しさもありました。
そういう中で、何とか今、企業がスタートラインに立つところまできました。次の10年間は、実際にケージフリーの卵を購入し、導入していく段階。この部分は、やはり日本のやり方に根差した流通の仕組みなどがあるのですが、そこをサポートするような団体が国内になかったので、私達がその役目を担おうと、ヒューメイン・リーグ・ジャパンを閉じ、日本に根ざした日本法人を設立し、企業のパートナーとして伴走していく活動をしています。
——今は、企業と交渉して公約を出してもらうことがメインの活動なのでしょうか?
上原 そうですね。ロードマップを作って一緒にやっていく。あともう一つは、生産者の方とお繋ぎして、大きな企業さんがケージフリーの卵が買えるような市場を作っていく、というのも私達の仕事です。
——前にまほさんとちょっとお話したとき、日本だとネガティブキャンペーンができない、とおっしゃってましたよね。
上原 そうですね。実際にできなくはないのかもしれないのですが、いろんなリスクがあると思います。私達もそれはせずに、インクルーシブな活動にしていきたいなと思っています。もちろん批判もしなきゃいけないけれども、それよりも、こちら側に一緒に付いてもらった方が運動としては大きくなっていくのではないかと思っています。
――企業に交渉するときは、どういう点を強調して共感してもらっているのでしょうか?
上原 だいたいみなさん、今の家畜の飼育方法に問題があるというのはわかっていらっしゃいます。ただやっぱり企業活動というのは営利目的で、今の段階ではそことの齟齬がどうしても出てしまうので、そこをどう納得いただくかなんです。「倫理的にいいことですよ」とか、「グローバルの波が来て、ケージフリーに変わっていくんですよ」とか、「長い目で見ると企業価値が上がることなんですよ」とか、いろんな角度から話をさせていただいています。
——そのように交渉していく中で、難しさを感じることはありますか?
上原 毎日難しさを感じますね。なので、あんまり急いで変わってほしいといったことは思わず、「自分は大きな流れの運動の中の一部にいるんだ」「黎明期にいるんだ」という気持ちで、焦らないようにやっています。難しいことは、挙げればきりがないんですけども、あまり難しいことに焦点を上げてしまうと“できないマインド”になるので、小さなことでもできるところに焦点を当て、できることを積み重ねていくマインドにしています。それは自分のためにやっています。
——まほさんはこれまで活動されてきて、日本の企業も少しずつ変化していると感じますか?
上原 はい、そう感じます。もしかすると欧米の企業に比べればまだまだ、と言われてしまうかもしれませんが、変わるところは変わってきています。実際、2〜3年前にある大手リテール企業がプライベートブランドの卵をケージフリーに切り替えて、プライベートブランド自体は全体から見ると規模は小さいですが、自社製品だから宣伝がしやすくなりますよね。その動きが広がり、次はきっとコンビニ業界だろうなと思っていたら、セブンイレブン、ファミリーマート、ローソンなどのナショナルブランドでもケージフリーの卵が並ぶようになりました。リテールが変わっていくことは消費者教育にもつながりますし、「あそこでケージフリー卵売ってたよ!」という声を周りからもよくかけていただくんですけれども、確実に増えてきているのは感じますね。
——畜産動物のアニマルウェルフェアの中でも、特に採卵鶏のケージフリーに力を入れている理由は何ですか?
上原 これはアニマルウェルフェア全体の流れの中で、特に採卵鶏に関する部分が大きく変化していることが理由の一つです。この世界的な流れが日本にも今届いてきているので、それを受け継いでいます。それと、採卵鶏は最も数の多い家畜の一つなので、動物が一番苦しむ時間をケージフリーに変えてあげることで、動物の苦しみ全体が減るだろう、という概念に基づいてこの運動は薦められているので、それを引き継いでいるというのもあります。
——わたしもケージフリーの卵に注目してスーパーなどを見ていると、「あった!」と見つけて嬉しくなるんですけど、とはいえ日本全体で見ると、未だに9割以上がケージ卵ですよね。どうして日本ってここまでケージフリーの動きが遅れていて、海外と比べるとその割合もまだ少ないのでしょうか?
上原 今の日本におけるケージフリー卵の割合は、アニマルライツセンターさんの調査では1%、IEC(国際鶏卵委員会)のデータでは5%となっています。この違いは、鶏舎レベルでの割合なのか、羽数レベルでの割合なのかの違いなのですが、アメリカも10年ほど前は今の日本と似た状態だったんです。それが10年以上の間に40%近くまで増えたんですね。なのでおそらく、ティッピングポイント(転換点)みたいなところがどこかにあって、そこから加速的に変化が進むのだろうと思っています。
日本の場合、遅れているのは確かに遅れているんですけども、いろんな要素があるような気がします。消費者の方が知らないというのもありますし、また、卵はずっと「物価の優等生」としてブランディングされてきたので、少し高いお金を出して卵を買う、というのがDNAの中にないのかもしれません(笑)。
構造的なことで言えば、長年ケージ飼育できてしまったこのシステムを変えていくのは、売る側の生産者にとっても、買う側の企業にとっても、一般の市民の方たちにとっても、すごくエネルギーがいると思います。だからいろんな要素がある気がしますが、これから変わっていくだろうという兆しも感じていますので、希望的観測を持って仕事をしています。
――最近、『動物福祉 アニマルウェルフェア——世界の歩みと日本の取組み』という本を読んだんですけど、この中で、海外のケージフリー卵の取り組みについて紹介されていて、生産方法(ケージ飼育、放牧、平飼い、など)の表示が義務になっていたりするんですね。この表示の義務化というのはケージフリー卵を広める大きな要因の一つなのかなと感じました。
上原 それは確かにありますよね。今はもう、韓国や台湾では卵殻に飼育方法の種別がわかる印字ができていますので、日本がだんだん遅れちゃうんじゃないかなという感じもあります。アメリカの場合ですと、複数の州が州法でケージ利用を禁止していて、生産も流通もできない州もあります。西海岸はほとんどケージ禁止です。でもそれは、市民の方たち・動物愛護団体の方たちが署名運動をしてきたからこそだと思います。
ケージフリー卵の見分け方
栗田 卵もそうですし、私が動物のことに関わるきっかけの一つに、深沢さんとお会いして、「ヴィーガンの人がアニマルウェルフェアのことを頑張ってやっているけれど、本当は肉や卵を食べている人こそが関わるべき問題なんだから、アニマルウェルフェアはむしろ肉や卵を食べている人がやるべきなんじゃないか」という話をされて、「おお、そうだな」と思ったということがあります。私はまだノン・ヴィーガンだけど、それでも自分が食べているものが動物の尊厳をギリギリでも守れるものにしたい、という思いは確かにあって、この座談会に関わっています。
そのなかでも卵はわかりやすくて、例えば、マルエツでは最近割「ケージフリーの卵」と明記されたいくつかの種類の卵が売られているんですね。イオンでは「ケージフリー」と書かれた卵がなぜか少し安めで売られていて、他には平飼いのブランドが2つぐらいあって、それはちょっと高め。でもこれらの商品がいつも売られてはいる。さっきお話にあったコンビニの例でも、特にナチュラルローソンではケージフリーの卵を見かけることはあって、卵はわかりやすく変化が進んでいるという気はします。あとは生協のスーパーだとケージフリーの卵が売られているけど、他のスーパーではまだ見かけないことが多いのかな、という印象もあります。うちの近所では特にそうですね。
ただ、お肉に関してはまだ、牛や豚がなるべく痛みのない方法で精肉処理されているのかといった情報がわからないので、今後の課題なのかなって。卵については、ドキュメンタリーとかで見た雄のひよこが全部殺されてしまう現状に衝撃を受けたので、鶏のことはすごく意識させられるようになっているんですが、今後は、お肉の精製過程などがもっと明らかになるといいな、というのはスーパーに行くたびに思っています。
上原 ありがとうございます。マツエツさんともお話ししてきたんですけども、売り出したときには特にお知らせをいただくわけではないので、意外と「ここでもやってくれてるんだ」という情報を、最近皆さんから頂戴するので、自分としてはだんだん前に進んでるかなという感じがあります。それで買いやすい値段ですといいですね。
栗田 そう。なぜかイオンだとちょっと安めになっていて。安いと逆に「買っていいのかな?」とドキドキしながら買っています。あとこの座談会を通じてわかったのは、日本だと「ケージフリー」と言ってもまた独自の基準を作っちゃったりしているから、その辺も何かわかるようなものがあるといいなとは思います。
上原 そうですね。鶏卵協会の公正取引表示というものがあって、「平飼い」と書いてあるものは平飼い。平飼いの中にも、「ケージフリー」と書いてあったら必ずケージフリー。「エイビアリー」とか「多段式」と書いてあるものもケージフリーです。
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栗田 そうそう! エイビアリーって書いてあるやつが安いんですよ。
上原 エイビアリーというのは、みなさんが思い浮かべるような平床式の鶏が床を歩き回っているものだけではなくて、階段式になっていて、1段目にネスト(巣箱)があり、ここにはこれがある、といったように、鶏の行動の動線が科学的な行動学に基づいて設計されています。
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大手の企業ですと、このシステムを使うことで羽数が確保できますし、「5つの自由」にもとづいた鶏の必要な行動も担保できますので、例えばイオンさんのような大手の企業ではエイビアリーを採用しています。
栗田 なるほどね。だからエイビアリーとはなんなのか、といったことも、私達が知っていく必要があるということですよね。
上原 専門用語ですから難しいとは思いますけどね。
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*清水池義治「アニマルウェルフェアに配慮した卵の生産費・価格の推計」(https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk/71/11/71_NSKKK-D-24-00045/_article/-char/ja)より図・写真引用
ワンヘルスという考え方――動物と人間の健康は繋がっている
栗田 さっき、卵が「価格の優等生」という話がでましたが、昔は価格の高かったものが安くなったというところに卵のアイデンティティがあり、確かに日本の人はそこに誇りを持っているような・・・。
上原 みなさん、「企業努力です」とおっしゃいますからね。安いタンパク質を広くあまねく普及していくのが国の仕事だったり、そういう食材とされているので。
栗田 そこは、日本が高度経済成長期に培ってきた意識が影響しているのかもしれない。そこに「いやいや過去はそうだったかもしれないけど、今は違う価値観や視点が必要だよ」と伝えていくことが、ティッピング・ポイントを超える一つの条件なのかなと思います。
私自身はアニマルウェルフェアに関心を持ったきっかけの一つに、コロナの影響もあります。コロナウイルスは動物由来の感染症ですよね。たまたまあのケースではコウモリが媒介だったけれど、豚や鶏が過密飼育されている環境では、インフルエンザや新たな病気がでてきても全然おかしくない。
上原 そうそう。新興性の感染症の60%以上が動物由来なんですよ。コロナで私達は経験しましたけれども、やっぱり動物と人間の関係をもう一度考え直す必要があると思います。
栗田 少なくともアニマルウェルフェア——もちろんさらにライツを求めていくことに対して、私は全く反対する立場ではないのですが——せめて、苦しみを積極的に与えるような状況や、人間にとっても良くない状況をもう少し改善していきたい、ということと、人間と動物の関係において、動物をそんなに過密な環境で飼育して、わざわざインフルエンザや新しい感染症を増やすような環境を作るようなことはしなくていいんじゃないか、という。動物の苦しみを減らすことももちろん大事だし、それと同時に、人間自身の健康や安全を考えても、動物を過密飼育して苦しめることはよくない、ということは言えるんじゃないかと思います。
——さっきの『動物福祉』の本の中で、日本の消費者の場合、購入するときの決め手の一位は「安全で美味しいこと」となっていました。でも、動物の飼育方法も食品の安全性に直結しているという認識が広がれば、より多くの人に関心を持ってもらえるのかなと思います。
上原 「ワンヘルス(“OneHealth”)」という考え方があるのですが、すべてが繋がっていて、人間の行為が自分たちにまた返ってきてるんですよね。
【ワンヘルス:One Health】
ヒトと動物、それを取り巻く環境(生態系)は、相互につながっていると包括的に捉え、ヒトと動物の健康と環境の保全を担う関係者が緊密な協力関係を構築し、分野横断的な課題の解決のために活動していこうという考え方。
(*参照:厚生労働省HP https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000172990.html)
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栗田 今って、天気がおかしくなっているとか、環境問題にしても、5年前と比べて少し違うように感じるんですよね。「あまりに天気が変だから」という、自分たち中心の理由ではあるんですけど。その流れの中で、動物のことを考えることは人間にも関係している、というのは——もうずっと皆さんが言ってきたことを繰り返すだけなんですが—リアリティは出てきているんじゃないかと、個人的には感じています。
賄賂事件の意外な側面
生田 僕は元々野宿者支援活動をずっとやってきました。野宿・貧困の問題と同時に動物の問題にも関心を持って、2019年に『いのちへの礼儀』という本を出し、その中で動物の問題はかなり調べて書いたんです。特に、採卵鶏の問題はとてもショックを受けました。動物科学者のテンプル・グランディンも「採卵鶏はすべての家畜の中で最も惨めな暮らしをしている」と書いていて、確かにそういう印象はあるんですね。
今の現代的な工業畜産が始まったのは元々アメリカで、採卵鶏のケージ飼育がそこで導入されたのが始まりですし、そもそも野生状態では年に10個以下しか卵を産まなかった鶏が、選抜と生体改造によってほとんど毎日のように卵を産むという、不自然な今物に変化させられてきました。そして、鶏は大量に詰め込まれた環境で、ある程度死ぬことを前提にして飼育されています。こうした状況をみていると信じられらない気持ちがしました。
【採卵鶏の健康問題】
採卵鶏は、改良によって不自然な頻度で卵を産むようにされ、さまざまな健康被害を受けている。たとえば、大量のカルシウムが消費されることで骨が脆くなり、骨折や骨粗しょう症が頻発するし、栄養消耗とストレスにより免疫力が低下するほか、過密飼育や運動不足が心臓や肝臓への負担を増加させることになる。
生田 個人的に、今は肉・卵・牛乳を一切買わない生活をしていますが、ヴィーガンではなくフレキシタリアンである理由の一つは、やっぱり外食時に卵を避けるのが難しいことなんですよね。
上原 それだけ使われているということですね。
生田 卵っていろんなものに使われているので、肉や魚を避けることはある程度できても、卵を避けるのは本当に難しく、外食するときにはそれが一番の悩みの種になっています。例えば外食で「これはケージフリーの卵を使っています」と表示されるものがもっと広がればいいなと思います。コンビニでもそういった商品が増えれば、買いやすくなると感じますね。
それにもかかわらず、日本ではケージフリーへの取り組みが進んでいませんね。数年前、大手の経営者が農林水産省に対してアニマルウェルフェアを推進しないように働きかけ、大臣に賄賂を渡すという、とんでもない事件がありました。まるで昔の悪代官に小判を渡すようなノリで、それを動物への構造的暴力を続けるため、自分の利益のために行っていたということに、「日本ってこんな国なんだ」と大きなショックを受けました。
上原 私達がこの運動やる中で、追い風になった出来事が2つありました。一つがその元農水大臣の賄賂事件です。この事件の後、「いったい鶏卵業界は何が起こっているのか」「ケージフリーとはなにか」「アニマルウェルフェアってなに?」とお問い合わせがあったり、企業さんとの話が進みやすくなりました。
生田 そういう意味では良い面もあったんですね。
上原 そうですね(笑)。でもやっぱり一部の既得権の人が力を握っていて、そういう人たちが仕組みを変えたがらない、というのはありますよね。
もう一つは、コロナと鳥インフルエンザです。それによって卵が品薄になって、「残ってるケージフリーって何?」という関心が高まったところがあります。実際、ケージフリーの養鶏場では鳥インフルの発生があまり見られなかったんです。もちろん、どこでも出る可能性はあるんですけど、やっぱり大型の養鶏場で特に発生しているので。
もともと、鶏を詰め込み、外との接触を遮断することが鳥インフルの防御策だと考えられていました。しかし実際には、どんな環境でも発生するリスクがあり、むしろ過密飼育の方が鶏の体力も弱まるので、蔓延しやすいというのもあります。
生田 鳥インフルが発生した鶏舎は、法律にもとづいて全羽殺処分されたのが、信じられないような光景でした。
上原 そうですね。感染した鶏から採れた卵自体は危険ではないといわれているんですけど、それでも生産者にとっては1回感染が発覚するとその感染の速さや、周囲の農場への影響もありますので、処分になってしまうんですよね。
生田 抗生物質の大量投与といい、ひどい飼育方法を続けているなと改めて感じました。
一方で、良い側面も感じていて、皆さんもご存知かもしれませんが、最近出版された『いつか空の下で』という児童文学があります。小学校の女の子が鶏の工場飼育の問題を追求していく本です。僕は、フィクションで工場畜産の問題に触れた作品を見たことがなかったので、これを読んだときびっくりしました。
例えば、この10年間で環境問題への意識はすごく高まったと思うんですが、環境問題と工場畜産の問題は明らかにリンクしているので、この流れで動物の問題についても日本の意識が変わる可能性もあるな、と思います。そういった一つのきっかけになってたらいいなとは感じています。
上原 おっしゃる通り、環境問題の根本にあるのは飼料の問題ですので、そこは確実に関連があるんですけども、私達がお話しする方々だと、「いや、まず環境問題/気候温暖化の問題をやってるので、アニマルウェルフェアはあとで・・・」と言われてしまったり、「SDGsの17の項目の中にアニマルウェルフェアありませんよね。いま、○と○をやっているから、ちょっと勘弁してください」といったことを言われることもあります。なのでそういうときは「いや、それらは全部繋っていて、すべての問題の根本に畜産があるんですよ」とお話をすることもあります。
あと、「外圧によって変えられるのは嫌ですよ」「言われて変えさせられるのは嫌ですよ」「日本式のアニマルウェルフェアをやっていきたいですよ」と言われることもあるんですけど、さっき生田さんがおっしゃったように、そもそも工場畜産自体アメリカ初のもので、それを享受しているわけなので、じゃあ変化をしましょう、となったときに、「それは外圧だからやりません」というのは解せないところがありますよね。
生田 本当にそう思います。
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