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第九液

夢が叶わなかったからこそ
手に入れられることもある

8000機もの戦闘機が一勢に出撃した

地球であれば、空を覆い尽くすほどの大編隊かもしれないが、それが宇宙空間ともなると、さして問題にならない

20機ずつ編隊を組んで、各所に散ってしまえば、物寂しさすら感じる

出撃前も、同じ場所に一斉に並んでいたわけではないから、ひとつひとつの基地での光景も、日頃となんら変わらない

それだけの圧倒的な規模の兵力を操る壮観さを、そのすべてを司る司令室でさえ、感じとることができない

大きなスクリーンに、光の点がいくつもあるだけで、そこに何万もの人の生命が乗っている重み、のようなものがないのだ

戦闘機乗りになることを夢みて
それだけのために生きてきた

戦闘機に乗る夢は、そのほんの一歩手前、あとちょっと、というところで墜(つい)えた

とある事故が原因で、片目を失ってしまったからだ

それでも諦めきれずに、夢のカケラを拾い集めているうち、戦艦の司令室にたどりつき、別の意味で戦闘機を操る立場となった

そうなると作戦は戦闘機に偏りがちになるかと思われる

が、戦闘機を活かす部隊と舞台を演出するには、他のパートが欠かせない

たしかに入り口は偏執していたとしても、結果として全体を把握し、取りまとめる能力が必要なのだ

もし作戦に深みと厚みが出ているのだとすれば、戦闘機に偏執していたからこそともいえる

半分が暗闇になることと引き換えに、人にはうまく説明できない感覚もえていた

あくまでシミュレータレベルにすぎないが、諦めきれないままに、人知れず可能な限りの戦闘機乗りの訓練を続けていた

気がついたときには、見えていないはずのもう半分の空間に、本来見えないであろうはずものが視えるようになっていた

「未来」だ

未来とは言っても、ほんの少し先、数秒から数十秒先の出来事のことがほとんど

たまにもっと先のことのときもある

見えていない右側に、スクリーンに焦点が合わないままに投影される映像がごとく、歪んで映しだされる

あらゆる感覚が研ぎ澄まされた果て、推測であり「勘」だと言ってしまえばそれまでのことだ

実際に戦果を上げることができており、一部では「隻眼の魔術師」などと呼ばれているらしい

悪くない異名だ

気がつけば、最高司令官になっていた

はじめての作戦行動

それが今日、いまこの瞬間

突然、未来が映しだされた

8000機もの戦闘機が一気に消滅する

なぜ?
どうして?

考えている暇はない
慌てて撤退の命令をだした

たしかに科学者になることは夢だった
そのためだけに生きてきた

だが、科学者になるには、とある運命を受け入れるしかなかった

いや、その宿命というべき運命があったからこそ、科学者に成れた

代々、軍人の家系だった

しかも、支配者層たる王族に連なる由緒ある家系、貴族の生まれ

恵まれた……恵まれすぎた環境

軍人になる

ただの軍人ではない

エリートとしてなにかしらのカタチで軍を統べること

それを約束された道を歩む

そもそも、なぜ人は戦わなければならないのか?

ずっと抱き続けてきた疑問は、日々増幅の一途をたどる

が、疑問を挟む余地のない人生がそこにあった

軍人になろうとすればするほどに、あらゆる「戦い」に類するものから逃げたくなっていく

それでも、科学に触れていたかった

そのためには、軍人であることを受け入れるしかない

諦めて受け入れてみると、軍人だからこそ可能な、しかも自らも望む科学の活かし方があることを知る

とにかく血腥(ちなまぐさ)い現場は可能な限り避け続けた

元から約束されていたエリートへの道も絡み合わせることで、司令部に配属されることができた

たしかにいまでも逃げ出したいほど嫌なことであることに変わりはない

司令室とはいえ、戦いは戦い

が、血腥い戦いの現場ではない

それだけでも「これ幸い」とせねばなるまい

軍幹部は、同じように恵まれた家庭環境で、ちゃんとした教育を受けてきた者が大半を占める

逃げ腰かつ弱腰の戦略戦術が、大いに受け入れられた

誰しも、家族をわざわざ戦場に送り込みたくはない

それを、人の代わりに科学兵器を中心に置くことによって成し、戦場から送られてくる映像を、さながらドラマのように楽しむ人たちもいる

実際に戦果を上げることができており、一部では「活人の殺陣師」などと呼ばれているらしい

悪くない異名だ

気がつけば、最高司令官になっていた

はじめての作戦行動

それが今日、いまこの瞬間

そしてついに、お披露目となる兵器がある

戦わずに勝つことができる科学兵器を生みだすことができていた

すべての戦闘兵器を無効化してしまう電磁パルス爆弾

あらゆる電子部品を破壊してしまうため、敵には相当な被害がでるだろう

パルスを応用して、振動で細胞壁を破砕、分解して液状化させてしまう……人を溶解(とか)す兵器も生まれていた

実験として、それも搭載した爆弾も用意されている

申し訳ないとは思うが、仕方がないことだ

叶うことなら、できることなら、使うことなく終わりにしたい

その祈りを嘲笑うかのように、敵は大軍を出撃させた

悲しきかな、最新兵器にはお誂え向きの、これ以上ないデモンストレーションになってしまうというのに

「司令官、敵、全軍撤退しました」

この2人がそれぞれの陣営の司令官になってから、宇宙は今日も平和だ


今液はこれにて


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