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感動は、誰かに伝えたくなる
どんな商品にも、セールスポイントがある。
デザインや機能など、顧客にアピールする箇所は様々である。
そして、作り手や売り手が何らかの思いを持って商品を提案し、顧客はそれを購入の判断とする。
しかし、その特徴が必ずしも、顧客にとってメリットになるとは限らない。
こんな話がある。
ある夏の日、ひとりの顧客が店舗を訪れた。
その顧客は、保冷保温機能がついていない水筒を探しているという。
夏の水筒は、中に入れた飲料の温度が長時間キープできる魔法瓶タイプが主流であり、顧客のニーズは少々ニッチだった。
スタッフが理由を尋ねると、中学生になる顧客の子供のスポーツ合宿用に探しているという。
その合宿では、宿泊施設に水筒を預ければ、毎日飲み物が支給されることなっているが、真夏にも関わらず、ホットのお茶が支給されるとのこと。
おそらく数十人分のお茶をお湯から出しているため、冷やしている時間がないからと思われるが、魔法瓶タイプでは、時間が経ってもお茶が熱いままで、毎年子供たちは真夏に運動をした後、汗だくになりながら、ホットのお茶を飲んでいたのである。
毎年学校で利用している施設のため、好意を断ることも出来ずに、それならせめて、常温になるようにと、非魔法瓶タイプの水筒を探していたのである。
その店舗には顧客のニーズにマッチする商品の在庫はなかったが、スタッフはメーカーから商品を探してきて、顧客に提供した。
そして、その対応に感動した顧客が、保護者仲間に商品を口コミで伝え、数十人分の注文つながったという。
それ以来、その店舗では非魔法瓶タイプの水筒を定番的に扱うようになり、地域の学校が合宿に近づくタイミングで、大々的に訴求するようになった。
この話から学ぶべきポイントは2つある。
1つ目は、商品の機能が長所になるかどうかは、顧客次第ということである。
一般的にはメリットとされる、飲料の温度を長時間キープする魔法瓶の機能が、上の顧客にとっては、却って仇になってしまった。
何を長所とするかは、顧客によって異なるということを念頭において、思い込みに囚われない提案を心がけなくてはならない。
2つ目は、人は感動を体験した時、誰かに伝えたくなる、ということである。
上の顧客は、求めていた商品手に入ったことと、スタッフの親身な対応に感動を覚え、それが口コミとなって、周囲に広まった。そして結果的には、取引も大きくなった。
感動した顧客が、他の保護者仲間に商品や店舗の良さを熱心に伝える姿は想像に難くない。
モノだけでなく、体験や感動を提供することも、店舗の重要な役割になっていく。
顧客のニーズは、思いがけないところに潜んでいる。
柔軟な対応と、ニーズを探る力を常に磨くことがこれからの小売には求められるのである。