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イノベーション・オブ・ライフを再読する④意図的戦略と創発的戦略


クレイトン・クリステンセンさん「イノベーション・オブ・ライフ」を再読している。68ページ、第1部「幸せなキャリアを歩む」第3講「計算と幸運のバランス」までを振り返る。

前回のインセンティブとモチベーションの2分類と同様、今回も二つの概念がキーワードとして提示される。今回のテーマは「戦略」だ。

戦略には、初めから計画している「意図的戦略」と、思わぬトラブルや機会から発生する「創発的戦略」がある。

実例として、米国でのホンダのバイクが紹介される。もともと大型バイクで参入しようとしたが、故障のケア体制が不十分など課題が山積する。社員が気晴らしでミニバイク「スーパーカブ」を乗り回したところ、思わぬ好評を獲得。ロングツーリングに代わるショートトリップの文化、小回りのきく乗り回しと共に米国市場に定着した。

ホンダが大型バイクという「意図的戦略」に固執せず、ミニバイクという「創発的戦略」にうまく転換したことで、成功を得られたという教訓だ。

クリステンセンさんはさらに、戦略の有効性を検証するには「仮説実証」が重要だと語る。ディズニーランドは米国で成功を収めたが、パリでは挫折した。これは、米国で通用した意図的戦略がそのままパリで通じると信じた結果、意図的戦略がパリでも成功する条件や仮定が十分実証されなかったためだとする。

人生においても、意図的戦略に固執せず創発的戦略を重視すべき時がある。またそのとき、「どういう条件を満たせば戦略は現実化するか」を具体的に考え、条件となる仮説をコンパクトに試すことが大切だ。

このメッセージはおおむね頷けるけれど、クリステンセンさんが創発的戦略の価値にかなり重きを置いていることに留意が必要だ。

ケーススタディでは、人や会社は意図的戦略に固執してしまうように描かれるが、実際には創発的戦略にこそ「前のめり」になってしまうこともあろう。特に、現代のような「チャレンジ礼賛」ともいえる社会では、挑戦に伴うリスクの検証には一段階上の慎重さがあっていいのではないかと思う。

ともあれ、人生は意図的戦略だけでは進まないのはたしかだ。ある意味で、流れに任せ、その流れからあたらしい可能性を探るのはたしかに大切だと感じる。

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