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科学者はSFをどう読むか?ーミニ読書感想『AIを生んだ100のSF』(大澤博隆さん監修)

早川書房の新書レーベル・ハヤカワ新書から出た『AIを生んだ100のSF』(大澤博隆さん監修、2024年4月25日初版発行)が面白かったです。さまざまな分野の科学者が、SF作品をどう読んでいるかが分かる本です。


流体力学が専門の保江かな子さんは、SFの中に「自分が生きるかもしれない未来」を垣間見る。

そういう意味では、「自分がどういう未来をつくりたいか」を考えるだけでなく、「他の人たちがどういう未来をつくりたいか」を知るうえでもSFは参考になると思います。『マトリックス』のような世界に住みたいという人も、住みたくないという人も、いろんな人たちの声を聞くことで、その根底にある価値観や、未来を考えるための本質的なところを見出すことができるのではないでしょうか。

『AIを生んだ100のSF』p227

SFをあり得ない未来としてではなく、現在と地続きにあり得る未来としてみる。そして「その未来に生きたい」と考える人の価値観を想像する。

気になっていたけど、読んでいないSFの名著があれば、その作品の魅力を知るきっかけにもなります。たとえば松原仁さんは『ソラリス』について、こんな風に語っている。

やはり『ソラリス』に代表されるレムの作品が好きですね。具体的にレムにどういう影響を受けたかといえば、知能というものを人間ありきで考えてはいけないということ。いまとなっては当たり前に思える話かもしれませんが、世の中には人間とはまったく違うタイプの知能があるかもしれないと。そうした考え方は、レムから来ていると思います。

『AIを生んだ100のSF』p71

知能というものを人間ありきで考えてはいけない。この発想を「そうか!」とエウレカするのが、松原さんの科学者の素養な気もしますよね。自分なら「こんな形の人間以外の知能はあり得ないだろ」と思ってしまいそうな。

このSFが、このAI=科学技術を生んだ、という端的・線的な話より、一段メタの影響を知ることができる。そして、科学者の「頭の中」を覗ける本になっていました。

インタビュー形式で、一本一本は非常に短いので、読みやすい一冊でもあります。

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