小説は人生の伴走者ーミニ読書感想『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』(三宅香帆さん)
書評家・三宅香帆さんの『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』(角川文庫、2023年12月25日初版発行)が面白かったです。小説の書き方をレクチャーする本はありそうなものだけど、本書は「読み方」を教えてくれる。ありそうでなかった本です。そして、「小説って素晴らしいよ!」という愛に溢れてる。
本書はタイトル通り、たとえばドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』や川端康成『雪国』など、ザ・名作に挙げられる著名小説の具体的な楽しみ方を提示してくれる。それは後半部分で、前半部分では総論的な「小説の魅力」を語っている。その前半部分が痺れるし、何回も「そうだよね」と頷いた。
著者は「小説は人生の悩みを描いたものだ」と語る。そして、その悩みと共鳴することが、小説を読む醍醐味だと。たとえば、夏目漱石の『門』が、なぜ『仲の良い夫婦に子どもができなかった件』とかいうタイトルではないのかというテーマの章で、著者はこう語る。
ここにいたんだ。この感覚、分かる。悩んでいるのは、苦しんでいるのは、自分だけではないという感覚。
面白いのは、「ここにいたんだ」という感覚は、読んだ後にしか得られないことだと思います。夏目漱石が子どもができない夫婦の苦悶を『門』で描いたと聞くだけでは、『門』は私の悩みに寄り添ってはくれない。読んだ後で初めて、『門』というタイトルが特別だと思える。『門』が初めて友になる。
実際、自分はまだ『門』を未読ですが、本書でその魅力が語られるのを聞いて、読んでみたくなりました。
もう一つ、本書で心に響いたのは「小説を楽しむためには、生活を大切にすること」というもの。現実逃避としての本とは異なる、生活密着としての本の在り方を唱えています。
そうすると、何が起こるか?人生のあらゆる苦しみ、悩みが、本を楽しむスパイスになるのです。
生きれば生きるほど予想外の苦しみがあるし、人生はますます、ままならない。でもたしかに、著者の言うように生きれば生きるほど、小説に描かれる悩みに共鳴することは増えた気がします。描かれるテーマ、そっと潜められたメタファーを、掬い取れることが増えたような。
本書で示されているのは、「人生の伴走者」としての本の在り方だと思います。そんな風に本を捉えると、本はもっと愛おしくなるし、読むことはもっと豊かになる。そう思いました。