なんのための診断ーミニ読書感想『自閉症スペクトラムとは何か』(千住淳さん)
医学の基礎研究に取り組む千住淳さんの『自閉症スペクトラムとは何か』(ちくま新書、2014年1月10日初版発行)が学びになりました。ASDの基本的な特徴や、遺伝子との関係の基礎知識を学べる。初版はもう10年も前になりますが、現代にも十分通じる内容かと思います。自分は特に「診断とはなんのためにあるのか?」という部分で学びを深めました。
ASDは目には見えません。また、障害名のとおりそれはスペクトラム(連続体)で、「定型(普通)」との境界はグラデーション。ある部分は定型に見えることもあれば、ある部分は突出して合わない部分もある。それだけに、親としては「障害ではないのではないか」「もう少し様子を見た方がいいのでは」という悩みが常に付きまとう。
それは、診断に対する恐怖心でもある。診断はある意味「普通ではない」というレッテルのように感じられて。でも著者が示す診断観は違います。
なるほど、診断は「轍(わだち)」なんだな、と納得しました。
診断されるということは、過去に診断を受けたたくさんの先輩たちの後に続くということだと気付きます。その先輩たちは医学的・心理的支援を受けながら、進学や就労、たくさんの困難に向かってきた。その記録がある。だから、診断を受けることで、そうした「予測可能な困難」を可視化できる。
この点、著者はさまざま言い換えて読者に伝えてくれています。
著者は、障害はハードルだと言う。それは、社会(環境)と本人の特性の相互作用によって生じる。うさぎとカメの例えが出てきます。泳ぐのが苦手なうさぎにとっては池はハードルでしょうし、一方でカメは池はスイスイ泳げても、ちょっとした段差でつまづいてしまう。
診断と、その診断を受けた人の歩みの集積は、このハードルの存在と対応方法の選択肢を示してくれる。それは必ずしも「乗り越えるもの」ではない。ときには「かわす」というやり方でもいい。
診断は、こわい。でもその先には、その怖さを抱えて進んだ当事者と、家族がいる。本書からそう教えてもらいました。