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ウジェーヌ・ドラクロワ / メトロポリタン美術館
温かい苦味ーミニ読書感想「サキ短編集」
新潮文庫「サキ短編集」が良かった。「10代のための読書地図」(本の雑誌社)でおすすめされていて購入。たしかに、このピリリと辛いブラックユーモアは、若いうちに読んでおくことで人生の土壌になるかもしれない。
現代の「いやミス」とは少し違う。何かが違う。
短編のオチは「結局騙された」とか「主人公が報われない」というものが多い。しかしながら、そこに誰かの悪意はない。因果応報というのとも違う。雷がランダムに森の一角を燃やすような、自然的な仕方なさ、理不尽さが、サキ作品のブラックさの核心な気がする。
だからその皮肉は嫌味がない。苦いのだけれど、自然や人間の温度感を感じる。決して優しくはなく、苦いものは苦いのだけれど。
解説で触れられている通り、苦味を包む「糖衣」としてのウィットやユーモアがあることも、作品の温かさを作り出している。登場人物の奇妙な振る舞いや、おかしな勘違い、日常のひとこまがしっかりと作品をくるむ。
作者のサキが親戚の家で厳しい生活を送ることになったことが影響して叔母がよく登場しているとされる。同じくらい、オオカミや犬がモチーフとして登場する。ビルマで人生の長くを過ごし、旅で世界各地を転々としたことが自然的題材に影響しているのだろうか。
人生は楽しいけれど、間違いなく苦味を持つ。それを知るための本音の教科書として、本書は格好だと感じた。
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