2024年上半期に読めてよかった本10冊
2024年上半期に読んだ本の中から、特に胸に残った10冊をまとめました。
①『水車小屋のネネ』
津村記久子さんの小説。ネグレクト気味な親元を飛び出した姉妹の半生を追いかける、大河小説と言って良い重厚さ。『本の雑誌』の2023年度ベストに選ばれたのを知り、遅ればせながら24年初めに読みました。
何も持たない姉妹は、たくさんの大人の善意に救われて、どうにかこうにか歩いていく。そして成長して大人になった姉妹は、別の誰かに善意をバトンパスしていく。
自分もまた、誰かの善意で出来ている。生きている。そのことを胸に刻んでくれた物語でした。
②『それで君の声はどこにあるんだ?』
キリスト教者の榎本空さんが米国に留学し、黒人神学の大家から学んだ日を綴ったエッセイ。
私は発達障害のある子どもを育てていて、日々、障害というマイノリティについて思いを巡らしている。この本は、障害を巡る痛みや悩みが、米国社会で黒人が受けてきた痛み・悩みとリンクすることを教えてくれました。
私たちは自分のマイノリティ性を、他者のマイノリティ性とリンクさせていくことで、協力し合えることが出来るのかもしれない。
③『〈公正〉を乗りこなす』
哲学者・朱喜哲さんの論考。「会話を止めない」という考え方を真ん中に置いて、社会正義の在り方、人と人のつながり方を模索する本です。
いま、社会には会話を打ち切る言葉で溢れている。あるいは、会話を続けられないと絶望したり、諦めたりする出来事があまりに多い。
本書の考え方は「それでも」、この社会を生きやすくしていくための理路を開いてくれる。2024年という年、いや20年代という分断の時代に、非常に重要な一冊になる予感がします。
④『散歩哲学』
新興レーベルのハヤカワ新書から出た一冊。小説家島田雅彦さんのエッセイ。「街を歩くことは、街を読むこと」という考え方が主軸にあります。
『散歩哲学』を読むことで、散歩が楽しくなりました。散歩は街を読むことなんだと思うと、街の息遣いや変化が見えてくるのです。今まで意識しなかった音や、匂いが感じられるのです。
⑤『ここはすべての夜明けまえ』
ハヤカワSFコンテスト特別賞受賞の、間宮改衣さんのデビュー作。言葉を失うほど圧巻の物語。上半期最大のインパクトと言っても過言ではない。
SFの枠を超えて、抑圧に苦しむ人、ケアを強いられる人に寄り添う。NHK朝ドラの『虎に翼』が話題になった24年の空気を象徴している気もします。
⑥『死にたいって誰かに話したかった』
南綾子さんの小説。つながり合い、支え合う関係を結べるのは、必ずしも家族や友人だけではないよ。力強いメッセージをくれた物語。
こう言ってもらえることのありがたさ。それだけで、また明日も生きていける。
⑦『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』
上半期、驚異的ベストセラーになった書評家・三宅香帆さんの論考。働けど働けど、暮らしは楽にならざり。そんな本読みの悩みに、真正面から付き合ってくれた本。
明治大正昭和平成、これまでもたくさんの本読みが本を読みたくて、でも読めなかった。それを本書を通して知るだけでも、なんだか心強くなる。
⑧『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』
人生は、明日変わってしまうかもしれない。世界は急に暗転するかもしれない。意思でも、プランでもない、衝動。哲学者・谷川嘉浩さんと考える、レールを外れてもなお生きるための方策。
幽霊や、神学、フリーレン、多孔。豊富なメタファーで、衝動という掴み所もコントロールも効かない何かを、考えていける一冊でした。
⑨『自閉 もうひとつの見方』
ASD(自閉スペクトラム症)と生きる人と共に生きる家族や、支援者に全力でおすすめしたい本。上半期も、発達障害に手厳しい見方や、差別的な見方が散見された。そういうものとは一線を画す、「探偵」という在り方を学び、身につけられる。
⑩『あいにくあんたのためじゃない』
目下読んでいる本書。他者にあれこれ口出しされて、決めつけられて、ふざけんなと思っている人のための物語。
たぶんこれから、本書のタイトルを何度も口ずさむ。ああ、あいにくあんたのためじゃない。私は私のために生きてるんです。この子はこの子の人生を歩いていくんです。直木賞、とってほしいな。